第86話
ああ、その表情を見ただけで、分かった。
そうか、そうなんだ。
「ああ、愛してるよ。……今でも、栞も大稀も――…紗綾ちゃん、君も。」
愛して、くれているのか。
【Hell】でバーテンダーとして彼と出逢った私は、今の今まで彼が自分の父親だとは気付かなかった。
でも、今なら分かる気がする。
あんなに客の私を気にしていたわけも。
……あの優しそうな瞳には、そんな意味が込められていたのかもしれない。
鈍い自分が、今少しだけ恨めしい。
涙を溢した楔さんを見て、私も一筋涙を溢す。
―――…兄さん、私達の父親は愛してくれていたよ。
ううん、愛してくれているよ。
今でも、私達を。
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