第587話

「席は自由だっけ?」



真理亜があれぇ?と頭を傾けながら言う。



「狭いから上手に案内しないと。新婚さんの話だと自分の友達はまとめたいってことだから」



夫婦揃ってここを使うらしいから、友達同士を離れないようにしないと。


知らない人たちの席には座りたくないよね。


私だったら凄く困る。


盛り上がらないと思うし、会話にならないと思う。



「そっか!知らない同士にならないようにしなきゃね!」



最初にどっちの友達なのかを聞かなければならない。


自然にニコニコ笑顔で接客できるのは真理亜と雪だから一番表に出すことになるけど、2人が回らなくなったら私が行かなければならない。



「そろそろ時間になるよ。準備はいい?」



柚月は壁掛け時計を見ながら言った。



「凛ちゃん。この仕事が終わったらファミレスに行こう!」



「ファミレス?」



「よく働いた後に食べる飯は美味い!」



それは同意見だ。


塩分多めの食事がしたくなる。


………………ラーメンが食べたくなる。


ちょっと辛い味噌ラーメンがいいな。


ファミレスにラーメンなんてあったか?



「白井さん。お客さん来たからお願いね」



「は〜い」



真理亜はニコニコ笑顔で駆けていく。


私は柚月と一緒に店の奥へと消える。



「白井さんと雪が来てくれて良かったね。凄く助かるよね」



「確かに凄く助かるけど、奏多もそうじゃない?数時間だけで流れを掴んだらしいから」



「あぁ、覚えるのは早いほうだと思うよ。覚えるのは」



なぜ、2回も言ったの?


覚えるだけなら出来るが、それを実行するのは別なのだろう。


慣れないことをやらされて、戸惑いもあるのかもしれない。



「あなたは、慣れないことをしても熟すよね」



「そんなことないよ」



「ここの接客だって戸惑うことなくしていたから」



というか、若い女性の人と笑顔で会話していたな。


馴れ合いをする余裕があるのなら問題ないはずだ。



「お客様と会話を楽しむ余裕があるのなら大丈夫でしょ」



「椎名さんは淡々と仕事をしていたね」



「………………仕事とは淡々とするものでしょう?」



「そうだけど」



「あと、私は出来ることと出来ないことがある」



「なるほど」



なるほどじゃないよ。


こっちは深刻に考えているからね。



「注文入りまーす」



真理亜の元気な声が聞こえた。



「こっちも注文だよ!」



今度は雪の声だ。


さて、忙しくなるぞ。


私は注文内容を確認してドリンクを作り、作った物をカウンターに置いていく。


それを柚月が運ぶ。


後ろで奏多がアワアワしているのが分かっているが、私だって同じ状況だ。


助けることは出来ない。


一斉にお客さんが入店すると、注文が大量にくるから大変だ。



「あれ?同じの作ったか?あれ?」



後ろで何か言っている。



「おかしいなぁ。数が間違ったかな?」



………………。


柚月の言った通りだ。



「あれ?奏多さん、これ違うよ。注文はビールだよ」



運ぼうとした飲み物に間違いがあったらしい。


雪がそれに気づいて持って行こうとした飲み物をやめた。



「えっ!?なら、こっちのかな?」



「それも間違ってますよ」



「………………何がどうなった?」



あっ、もう回ってないな。


自分の仕事を一旦ストップして後ろを振り返り伝票を確認した。


それからカウンターにある飲み物を確認する。


同じ物は4つある。



「これと、これが違う。ビールは1つ」



「おぉ、さすが!経験者は違う!」



「いいから作れ」



喋っている暇はない。


提供をスムーズにしなければならない。


そう………………


スムーズに………………



「雪、柚月は?」



「あっ、ちょっとお客様に捕まったかも」



「連れ戻してちょうだい。それ、休んでるから」



「いち君は上手だからね。見た目だって良いし」



「いや、そんなことはどうでもいい」



カウンターの上にある飲み物や料理を見ろ。



「分かったよ。いち君に言っておくから」



雪は奏多が作り直した飲み物を持っていく。


私は自分の仕事に戻りフルーツジュースを作る。


作ったジュースをカウンターに置くと真理亜がそれを持って行く。



「料理できたよ〜」



店主はカウンターに出来上がった料理を置く。


どんな料理なのか気になってみると、大きな卵焼きだった。


丸っこいからフライパンの形だろう。


見た目にインパクトがあって良いな。



「うわぁ、この巨大な卵料理はどこのテーブル?」



「長話禁止。働け」



やっと戻って来た柚月を睨みつける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る