第576話
どんな会話なのか聞いてやろうと思ったが、短い言葉でポツポツと言うだけだから理解することは難しい。
これは、柚月と海の間だけで成り立つものだろう。
奏多はこれが出来るのだろうか?
付き合いが長い海だから出来ることなのだろうか?
「なんか、静かだねぇ。いつもは周りが賑やかだから静かなんて思わないけど、人がいなくなるとこんなに静かなんだね」
「そうね。店員もいないでしょうね」
「えっ?いないの?」
「代表者1名くらいはいるんじゃない?店長とかバイトリーダーとかフロアマネージャーとか」
流石に、1人もいないということはないだろう。
何かあった場合に対応してくれる人は必要だ。
「椎名さん………………暇」
そうねぇ。
何か特別なこともないし、2人の会話を聞いても分からないし。
「2人とも、私たち暇なんだけど。帰っていい?」
大塚さんも限界だ。
ずっと飲んでいるわけにもいかないし。
というか、家に帰ってお風呂に入って寝たい。
「嬢ちゃん、あの自由な男とやり取りしとる?」
私の話は無視ですか?
自由な男………………
私が首を傾げると、海も一緒に傾げた。
なぜ、お前も傾げる?
質問してきたのはあなたでしょ?
「嬢ちゃん、急に鈍くなったん?平和だからってここまで鈍くならんでもええよ。檜佐木亜紀のこと言っとるん」
「………………あぁ、亜紀のことか。やり取りというか、日記みたいなメッセージは毎日来るけど」
「日記?」
今日のご飯の写真とか、足の指を角にぶつけたとか、今日の天気とか、そんな日常生活を知らせてくる。
本人は既読にするだけでも嬉しいらしいから、全部のやり取りに返してはいない。
「今日の天気とか気温とか。外食したときの料理の写真」
「暇なんけ?修行中やろ?なんでそんなん送ってくるん?」
「寂しいから?」
「………………な〜るぅ」
「亜紀に用事なら電話してあげるけど」
何を話すのか知らないけど。
「檜佐木君、そんなに頻繁に送ってくるなら時間は大丈夫そうだね。余裕を感じるから話は通しておくよ」
柚月が亜紀に連絡をとるの?
それは不機嫌になりそうだ。
………………。
スマホを取り出し画面をタップする。
連絡先を開いて亜紀の電話番号のところをタップする。
スピーカーにして数コール待つと通話になった。
『どーした?』
亜紀の声が聞こえると柚月と海の動きが止まった。
海はなんとも言えない表情をしている。
柚月は作り笑顔だ。
「今、大塚さんと海と柚月と一緒にファミレスにいるの」
『………………あ"?』
わぁ、急に声が低くなった。
一気に機嫌が悪くなったみたいだ。
海は頭を横に何度も振る。
きっと、通話を切れとでも言っているのだろう。
「最初、海と大塚さんと一緒にファミレスにいたけど、柚月の部下の奏多が近くにいてね。私たちのことに気づいたから、柚月に連絡したみたい。で、現在はファミレスを貸切状態。柚月と海が何やらずっと話し込んでるの。亜紀と連絡取り合ってる?って聞かれたから、やり取りしていると答えた………………まぁ、簡単に言うと暇なんだよね」
『………………色々言いたいが、最後のはいいのか?結局、暇だから電話したってことだろ?』
「そうなるかな。仕事中?」
『絶賛仕事中』
仕事中に電話に出るんだ?
何をやっているのか分からないけど、危険な状況ではないらしいからいいか。
「仕事なのに電話はいいの?」
『問題ない。怒られてるだけだから』
………………。
それは問題あるだろう。
あなた、叱られてるなら叱っている人が目の前にいるってことだよね?
そんな状況で電話に出たの?
相変わらず馬鹿なことをしている。
「それって、相手に失礼じゃない?余計に怒られると思うけど。上司に怒られているのよね?」
『おうよ!めちゃくちゃ電話切れってジェスチャーしてくるぞ。絶対に切らないからな!』
「申し訳ないから、私から通話を切ろうか」
『やめろ。それやったら、俺から掛け直すぞ』
でしょうね。
隣に座っていた大塚さんが私の肩をちょんちょんと突っつく。
ん?
大塚さんと目が合うと小声で「バリ笑顔」と言われた。
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