第46話 高科君、チャラ男になる
「それでは、ここに第58回群雲祭の開始を宣言します!」
校内放送で告げられる宣言に、皆が「おおーっ!」と歓声を上げる。
今日と明日、二日に渡る群雲祭の開幕であった。
俺達1年2組の執事&メイド喫茶も開店。
最後の確認として、テーブルに置かれたメニューや砂糖、ミルクの確認などを行っているところ。
もっとも、メニューと言っても、大したものがある訳では無い。
建物内は火を使うこと厳禁。ガスコンロなどは持ち込めない。
ブレーカーが落ちるといけないので、大電力を使う電子レンジやオーブンなども持ち込み禁止。
調理実習室にある機材だけでは全校分には足りない。
なので、加熱をしなくてもいいサンドイッチなどの軽食類か、調理担当が自宅の調理機器を使って事前に用意したクッキーくらい。
それらに、コーヒーもしくは紅茶を付けてセットで売るのだ。
幸い、コーヒーメーカーや電気ポットは使用可なので、飲み物はまあまあまともなものを出せる。コーヒー豆や茶葉もそれなりのものを用意した。
もちろん、街の専門店で出すようなものには遠く及ばない。使う容器も紙コップや紙皿だ。だが、ドリンクとクッキーのセットで250円。サンドイッチのセットでも400円。それに執事とメイドのスマイルが付くことを考えれば十分良心的では無いだろうか。
さて、開店したとは言え、まだ群雲祭は始まったばかり。なかなか客がやって来ない。
手持無沙汰にしていたら、文化祭委員の相澤さんに声を掛けられた。
「高科君、ちょっと廊下に出て客引きしてくんない?」
「客引き?」
「そう、外からお店のコンセプトが見えにくいでしょ。だから高科君が入り口のところに立ってたら目立ってわかりやすいかなあって。通りかかる女の子をイケメンスマイルでゲットしてきて」
「はぁ」
……つまりは人寄せパンダになれと。まあ、いいか。
苦笑しながら、廊下に立つと、早速二人組の女性が歩いてくるのが見えた。大学生くらいだろうか。
目が合ったので微笑みかけると、薄っすらと顔を赤くしながら話しかけてくる。
「ねえ、ここはどんなお店なの?」
「はい、こちらは執事&メイド喫茶となっておりまして、お寛ぎいただきながらコーヒーや紅茶をお召し上がりいただくことができます」
「へえ、で、君がサービスしてくれるの?」
「はい、私はお嬢様の執事でございますので、何なりとお申し付けください」
二人は顔を見合わせて頷き合う。
「「じゃ、じゃあ、入って見ようかな」」
「ありがとうございます。こちらにどうぞ、お嬢様」
俺は彼女たちを席に案内すると、椅子を引いて座らせた。それからメニューの説明をする。
「サンドイッチかクッキーのセットをご用意しております。お好みに合わせ、コーヒーか紅茶をお選びください」
「コーヒーと紅茶はどんなの?」
「はい、コーヒーはモカマタリという豆を使用し、苦みが少なく、酸味と甘みのあるコーヒーでございます。ストレートでも、ミルクを入れても美味しくお召し上がりいただけます」
「紅茶は?」
「紅茶はアッサムのセカンドフラッシュを使い、コクのある紅茶となっております。ミルクティーにしていただくと非常に味わい深いかと」
「じゃあ、私、紅茶とクッキーのセットで」
「私も」
「かしこまりました。ご用意してまいりますので、少々お待ちください」
注文された品を受け取るためにいったんクラスメートの待つ調理コーナーに戻る。何かみんな唖然とした顔をしているが、今はそんなことを気にしている余裕は無い。
「お嬢様、紅茶セットでございます。どうぞごゆっくりお寛ぎください。何かありましたら、お呼びいただければすぐに参ります」
配膳を済ませると、ポーっと赤い顔でこちらを見つめてくる女性客から離れ、再びクラスメートたちの元へ。すぐに夏月が横に立ったかと思うと、ジトッと睨んできた。
「高科君ってホストの才能もあったのね」
「……」
いやいやいや、何言ってんの?
俺、執事のロールプレイしていただけなんですけど!
その後、客が入ったことで入店のハードルが下がったのか、客足が途絶えること無く、忙しい時を過ごしたのだった。
そして今、シフトを終えた俺は、夏月と並んで歩いている。
接客用の燕尾服やメイド服を脱ぎ、制服に着替えた俺達が向かう先は校庭。
時刻は午後2時過ぎ。朝から接客担当の俺達は昼食を食べていない。何をするにも、まずは腹ごしらえである。
建物内が火気厳禁であるのに対し、校庭の出店には制限が無い。お陰で焼きそばやお好み焼き、たこ焼きなど、腹にたまりそうな食事を提供している屋台が複数あった。
俺と夏月は、まず目についたたこ焼きを買うと、校庭のベンチに並んで腰を下ろした。
たこ焼きを口に含むと、とろりと熱く溶けた小麦粉が口に広がり、火傷しそうになる。急いでペットボトルのミネラルウォーターで冷ましながら、飲み込んだ。
隣に座る夏月も熱々のたこ焼きに苦戦中。そんな彼女を眺めていると、視線が合った。
「ねえ、この後、どこ廻る?」
「どこって、まず夏月の小説読むんだろ?」
この群雲祭で小説の最初の読者になってくれ、それが夏月の願いだったはず。それはつまり、告白の返事をくれと言うことで──
でも、その指摘に、夏月は首を横に振った。
「それは明日でいいかな。今は先輩がいるから。明日なら、午後、しばらく一人で店番してるから、その時に来て」
その答えになるほどと思う。文芸部での彼女のシフトは明日だ。それはつまり、今日は別の人がシフトで入っていると言うこと。
他人の目がある場で、告白の返事をされても困るのはわかる。ミス&ミスター群雲コンテストみたいに、告白までもお約束の定番イベントみたいに捉えられているのでなければ。
「わかったよ。じゃあ適当に見て回ろうか」
「うん」
夏月の手を取り、立ち上がらせながら思う。全ては明日。今日は思い切り楽しもうと。
その後、いろんなお店を見て回り、買い食いを楽しみ、体育館の特設ステージでは軽音部によるライブを楽しんだ。
そして、校舎に戻ってきた俺達の目の前にあるのはお化け屋敷。
どこのクラスの出店だろう。おどろおどろしい飾りつけはなかなかに本格的である。出口の方からは、「怖かったー」とか言いながら寄り添い合うカップル。
俄然興味が出てくるが、夏月がお化け屋敷を大の苦手としている。これは今回は見送りだな、と通り過ぎようとしたら、夏月に袖を掴まれた。
「高科君は……入りたいの?」
「まあそうだけど、夏月がお化け屋敷苦手だろ。そんなところに連れて入る訳にいかないよ」
「だ、大丈夫。高科君が入りたいって言うなら、私も入るから」
「夏月、無理しなくていいって」
「それでも、私のせいで我慢して欲しくないから」
いや、そんなどうしても入りたいって訳じゃ、と言おうとして思い直す。苦手意識のあるものをずっと避けている訳にもいかないよな。入ってみると意外と大したこと無くて、夏月も楽しめるかもしれない。
そう判断した俺は、夏月を連れてお化け屋敷に入った。
入り口にいた案内役の人の説明によると、まずは入り口にある祠にお祈りをして無事を祈るのがルールらしい。
その説明通り、目の前には朽ちてボロボロになった祠。いかにもな雰囲気である。
夏月がビクビクしながら腕にしがみついてくる。
「だ、大丈夫? 高科君」
「大丈夫だよ。たぶん、あの祠にお祈りしたら、祠の扉が開いてお化けが顔出すと思うけど、わかってりゃ何も怖くないから」
宥めながら祠に近づいた俺は、お祈りしようとして、ふと、下からの視線を感じた。釣られて下を向いた俺は──
「うぉっ!!」
そこには賽銭箱の中からこちらを伺う目。うまく加工してわからないようにしているが、賽銭箱の下に人が入れるようになっていたらしい。
そのお化け役の人と思い切り目が合って、心臓が止まるかと思うくらい驚いた。てっきり祠から出てくると思ったのに、その前の賽銭箱からとは……
その時、どさりと何かが倒れる音。
「夏月⁉」
夏月が気を失って床に倒れていた。
あちゃあ、と思う。苦手なものに慣れて克服してもらうつもりが、さらにトラウマを植え付けてしまったかも。
とにかく、このままにしてはおけない。入り口入ってすぐのところで倒れたので、案内役の人にお願いして入り口から出してもらうことにした。
気絶している夏月をお姫様抱っこしたまま外に出ると、周囲は文化祭の喧騒。
美少女を抱きかかえている俺に視線が集中するが、恥ずかしがっている場合ではない。
とにかく横になれる場所と考えて、保健室に向かうことにする。だが、ほんの少し歩いたところで、身じろぎと共に夏月が目を開けた。その目が大きく開かれる。
「あ、え、えと」
素早く見回して自分の状況を確認した夏月は真っ赤になった。
「ご、ごめんなさい。大丈夫だから、もう下ろして」
「本当に大丈夫?」
「もちろん」
その言葉に、また倒れたりしないよう、気を付けながら地に下ろす。
「ごめんね、高科君。私、気絶しちゃったのよね。結局迷惑かけちゃった」
「迷惑なんかじゃ無いよ」
「本当に? せっかくの群雲祭の思い出を台無しにしてない?」
「大丈夫。クラスの可愛い女の子をお姫様抱っこしたなんて、世の男子高校生が泣いて羨む思い出だって」
気を遣わせないようにと伝えた言葉。でも夏月は何故かジトッとした目で睨みつけて来て。
「何か高科君がチャラ男になって来てるようで不安なんですけど」
「は?」
チャラ男? 何言ってるの? でも、似たようなことを梨沙姉にも言われたような……。
悩む俺を眺めていた夏月はくるりと表情を変えて──
「冗談よ。それとありがとうね、高科君。私を助けてくれて」
柔らかく浮かんだ夏月の笑顔、それは、とても眩しかった。
========
<後書き>
次回、夏月の小説の内容は──
4月10日(木)20:00頃更新。
第47話「俺の答えは」。お楽しみに。
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