第105話

「悪かったな?」




その聞きなれた声にはっとする。





ガヤガヤとした雑踏。






取らすのは太陽。







声のした方向に視線を向ければ、さっきまで俺の膝の上に居た瑠璃を幸せそうに胸に抱くリク兄の姿。








「おかえり、リク兄。」




俺がそう微笑めば、





「今日は助かった。」




スーツ姿のリク兄が目を細めた。







「仕事場から直行したの?着替えてくればよかったのに。まだ昼過ぎだよ?」




そう言いながら、自分の腕時計に視線を落とした。





「フッ・・・早く会いたかったんだよ。」



そう言うと口角を上げて、少し離れた場所に居る琥珀を見た。





早く会いたかったって四六時中一緒に居るんだろ?って言いそうになる。






子供が出来て、結婚した今も、リク兄は琥珀を溺愛している。








「リク。」



と呼びながらジュースを両手に抱えて走ってくる琥珀。





「危ねぇから走るな!俺が行くまでそこに居ろ。」




不機嫌そうにそう言いながら、リク兄は瑠璃を抱いて琥珀の元に向かう。








そんな後姿を、なんとなく見つめていた。









さっきの幻想はなんだったんだろうか?






暑い日差しが見せた幻。








幻にしては、幸せだった。






本当に泣きそうになった。







上境紘と会わなければ、本当に未来は変わっていたんだろうか?








親子3人で並んでこちらに向かってくる琥珀達を見ながら考える。








「いや・・・きっと運命は変わってないね。」






あんな幸せそうな3人を見れば、そう思わざる負えない。





琥珀は何があってもリク兄と惹かれあう運命だった。





だから、俺との未来なんてきっと無かった。






遅かれ早かれあの2人は再会してただろう。








気持ちの良い笑いが漏れる。






「アハハ・・・面白い幻だった。」






空を見上げれば、眩しい太陽と青い空。




少しだけ傷んだ胸には気付かない。

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