第28話

「ここは珈琲だけは凄いぜ?」



そう言って笑いながら水を一口飲んだ泰雅に、




「珈琲だけって酷いな!うちは妻の作るケーキも自慢だよ。」



と不服そうに言い返すマスター。






「あぁ~じゃ、シフォンケーキとモカブレンドで。」



琥珀はパタンとメニューを閉じると、それを差し出しながら注文した。





「はい、了解しました。少々お待ちください。」



マスターは笑顔でメニューを受け取ると、カウンターへと戻って行った。








「あのマスターすっげー愛妻家なんだぜ?」



マスターを見ながらにんまりと笑う。




「うん、そんな感じする。」



奥さんの事を話した時に、瞳が凄く優しくなったもんね。






「泰雅はここ、よく来るの?」




「あ~ま、適当にくる。中学の頃からだから長いしな?総司なんかも来たことある。」




六織の名前を出さないのは、泰雅の優しさ。






「そっかぁ、結構前からあるんだね?」




琥珀はそう言いながら、店内をぐるりと見回した。






店員はマスターだけのこじんまりとしたお店で、落ち着いた雰囲気があった。






レトロな感じが珈琲の良い香りに良く似合う。







「一人で考えたい時や落ち着きたい時はここが一番なんだ。」





そう言うと泰雅は窓の外に視線を向けた。






薄緑の窓ガラスから見える風景は、裏路地らしく落ち着いていて、人通りもほとんどなかった。








しばらくして、2人分の珈琲と琥珀の頼んだシフォンケーキが運ばれてくる。





「では、ごゆっくり。」




マスターは注文の品を置き終えると、それだけ言い残してカウンターに戻って行く。







テーブルからは淹れたての珈琲の香りが漂ってくる。





「うん、良い香り。」



琥珀はカップを手にして微笑む。




「だろ?マジでここの珈琲は最高。」



泰雅も嬉しそうに笑う。





普段はぶっちょう面なのに、こう言う時は可愛く見える。




本人に言うと、キレられそうなので、敢えて言わない。






泰雅は以外にもブラックで飲むらしく、そのまま口を付けた。





「泰雅ってブラックだっけ?」



「あぁ~これは俺ブレンドだからブラックで飲める。」



そう言うと、カップを口に運ぶ。

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