第16話
帰りの車内では精神的にくたびれた棗は座席の背もたれに体を預けてうなだれていた。
隣に座る翡翠は何故か楽しげで、それがイラつく。
本当にやりたい放題よね、馬鹿社長は?
「しかし、良くやったよ。牧村のあの顔、面白かった。お前ってそんな格好すりゃ化けるんだな?」
その辺の女じゃ、お前に太刀打ち出来ねぇわ。
「疲れましたよ。ずっと睨まれ続けるし、穴開くかと思いました。」
棗はそう言うと顔を歪めた。
「まぁ、そう言うなよ。助かった。ありがとうな?これであの人も色目使ってこねぇだろ?」
素直にお礼を言われて、肩透かしをくらう。
「ま、仕事なんでいいです。」
と言った棗に、
「疲れさせたお詫びにその服と靴はプレゼントする。だから、機嫌直してくれ。」
「えっ?いいですよ。こんな高いもの頂けません。」
慌てて手を振る棗。
「いや、貰ってくれねぇと困るし。着た物を返品なんて出来ねぇしな。」
「・・でも・・だったら、誰かにあげるとか?」
馬鹿か?誰にやんだよ?
「でも、じゃねぇよ。お前に選んだ物を他の奴にやるつもりはねぇ。」
翡翠の言葉に胸がキュンとした。
翡翠は意味なんて無く言ってるだけなのに、こんなにドキドキするなんて。
棗は戸惑ってしまう。
「分かったな?棗。」
顔を覗き込まれて、
「は・・・はい。」
と頷いた。
ドキドキしてる事に気付かれたくない。
赤らむ顔を見られないように俯く棗。
「お前って、そうやってれば可愛いのな?」
翡翠が綺麗な顔で微笑む。
棗の赤らんだ頬に触れてみたいと、思った事は内緒。
車内に少しだけピンクな雰囲気が漂った事を知るのは、運転席の前橋だけ。
2人がどうなったのかは、また別のお話。
End.
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