友達

 よく、人は誤解される生き物だと思う。

 いつだって、自分の事を他人に百パーセント知ってもらえる状況なんて、あり得ない。

 家族間でも、恋人間でもそれは変わらず。

 人という生き物は、誰かからの誤解を容認しながら生きている。

 ここにいる女もそれは変わり無し。

 女は今年で三十になったのだが。

 女が妖精と会話するようになったのは、二十歳を過ぎてからだった。

 正確に言うならば、それは違う。

 女は幼い頃から、そこに無い別人と会話をして過ごしていた。

 それが妖精だったとわかったのが、二十歳を過ぎてからなのだ。

 女は、幼い頃から孤独だった。

 遊び相手は女の弟達か、その友達。

 同じ年の女友達などほとんどおらず、だが不思議と女に寂しさは無かった。

 それもそのはず、女は年下の男子達ととても気が合っていたから、それで十二分に満足していたのだ。

 だが、知らない内に、心にはぽっかりと、小さくはない穴が開いていた。

 穴は歳を重ねるごとにどんどん大きくなった。

 そして、女は妖精と会話するようになったのだ。

「ちょうちょさんこんにちは」

「ちょうちょじゃ無いわ。私はフレイ。ちゃんと名前で呼んでくれなきゃ嫌なんだから」

 幼い頃の女は、空想で会話を成立させる。

「ごめんねフレイ。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

「なんでも聞いてちょうだい。私に答えられる事なら」

「ありがとう。あのね、私に友達が少ないのは、どうしてかな?」

 女は、自身の友達の数をことさら気にしていた。

 当時女は小学三年生。

 周りの女子達はみんな、アイドルやテレビや恋バナを楽しんでいる。

 だのに女だけは、その輪の中に混ざれずにいた。

 フレイが答える。

「あなたが意気地なしだからでしょう? もっと勇気を持って、他の子達の所に飛び込んでいかなきゃ」

「そうなんだけど、そんなの、怖くてとてもできないわ」

 女は引っ込み思案なのだ。

 だがフレイは引き下がらずこう返した。

「がんばってみる事ね。そしたら何かが変わっていくものよ。あなたにはドキョウが足りないの。それじゃあ、私はもう行くわね、さようなら。もしまた会えたら、その時はまたお話しましょう?」

 そう言って、蝶のフレイは飛び去ってしまった。

 一人残された女は、唇を尖らせながら、スカートであるにも関わらずその場にしゃがみ込む。

「プレイのイジワル」

 そうぽつりと呟いた。


 女は大人になった。

 女は友達がやはり多くは無かったが、これで良いのだと思う事にしている。

 無駄に友達だけが多くとも、浅い付き合いで終わるくらいなら、居ないのとさほど変わらないと思ったからだ。

 どうせ友達ができるのなら、深い繋がりがほしい。

 そう、例えば、女の真横に常にいるこの妖精のような。

 物言いがどうあれ、女の事を深く理解し、理解した上で叱ってくれるこの妖精のような。

 女は、叱られる事に慣れてはいないからと、ある程度の言葉は選びながらも、厳しめにたしなめてくれる、この妖精のような。

 フレイは、蝶ではなくなった。

 変わりに、女にとって、見えない友達になった。

 女は周囲から誤解されているのだろう。

 一人ぼっちで寂しい可哀想な女性だと。

 だが実際は、女は目に見えない妖精達に常に囲まれて、今日も笑顔で過ごしているのだ。

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