第9話


そして夜が明けた。



キングサイズのベッドで眠っていた俺は腕に彩音の重みを感じなくなって目を覚ましたとき



ピンポーン



無機質なインターホンで完全覚醒せざるを得なかった。



部屋に彩音の姿は無かった。



バスルームにでもいるのだろうか。



さして気にもせず彩音がルームサービスでも頼んだのかもしれないと思って扉を開けると





「新谷 一輝さん?中条 彩音さんの誘拐容疑でお話を伺いたいのですが」






と問われ、ドラマや映画の中でしか見たことのない警察バッジを提示され、そこで事態がようやく把握できた。



部屋の隅に置いてあったスーツケースは






無くなっていた。






ここではじめて気づいた。彩音が最初からこうするつもりだったことに。



きっとユミもグルだ。



床には彩音が脱いだままになった打掛がそのままになっている。



まさに空蝉のようにお前は消えた。



最初からそのつもりだったのか―――改めて思った。



だけど怒りは一ミリも湧いてこなかった。



ワルなのはどっちだよ、と笑いさえ込み上げてくる。






「やれやれだぜ」






彩音にしてやられた。



俺は苦笑いを浮かべて前髪を掻き揚げた。



俺の空蝉は―――とんだ悪女だった―――のかどうか分からない。



なあ、彩音。お前も空蝉と同じように、その衣に俺への愛を託したのか。




分からない。




だけど俺はこうなってもまだ






好きなんだ。






俺の気持ちも大概





「やれやれだぜ」





『空蝉の身をかへてける木のもとに

なほ人がらのなつかしきかな』







~ 終 ~




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籠女 -かごめ- 魅洛 @miracle78

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