第23話
「芽吹、空と慎呼んでこい」
「えー、匂いに釣られて来るでしょ」
「いいから。あー、どうせなら祐希も連れて部屋割り教えてやってくれ」
「……へーい、仰せのままにー」
時雨さんの言葉に渋々といった様子で従うアクツ先輩。無理強いしているようで罪悪感が私の中でうごめく。
だが、アクツ先輩は私の方を向くとぎこちなくへらっと笑った。
「じゃあ行こうか、えーと……辻、いや祐希さん? ちゃん?」
「辻でも祐希でも、お好きなように呼んでください」
「じゃあ、祐希で」
おいで、と手招きされて共有スペースを出る。
「えーと、改めて、こんにちは」
「こんにちは」
お互いに挨拶を交わす。視線は一瞬交わるも、アクツ先輩がすぐに逸らす。
人の目を見て話しましょう、というか目を見て話せば判断できることもある目を合わせろ。と母親に教えられて育った私は自然と相手の目を見て話すことが癖になった。
目はちゃんと合わせる私だが、都合が悪い時は逸らす時もある。人間だもの、仕方ない。
「……時雨と仲良くなったっぽいね?」
「時雨さんがとても親身にしてくださったので。優しい人です」
「そっか。時雨優しいのわかる」
視線は交わらずとも、会話はしてくれるようだ。先輩なりの気遣いを感じる。少し挙動不審というか、あぁ人見知りされているなと。
見た目だけなら結構チャラい……いや、フレンドリーな雰囲気なんだが、見かけによらず人見知りをするアクツ先輩に親近感を抱いた。
……私はあまり人見知りをしないが。すぐ仲良くなれるかどうかは別として。
「共有から通路に出て右側の部屋が藤村時雨で、左側が
アクツ先輩がぴっぴっと部屋番号、その下に名前のシールが貼られた札を指を差していく。私はそれを目で追った。
『204号室 藤村 時雨』
『207号室 速水 慎』
慎で「まこと」と読むのか。「しん」なら見たことあるけど。すかさず頭の中でインプットさせた。
「慎ー、ご飯だってー。能登さんがハンバーガーご馳走してくれたー。天下のマック様だぞー」
アクツ先輩がコンコンとリズム良くノックをするも、何も聞こえず。返事はもちろん、足音や物音すら聞こえない。
「無視してるのか寝てるのか……しゃーない、後回し。次行こうか」
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