二話 「荷物持ちですか?」
第16話
「私も騒いでいたのが悪かったのでそんなに気にしないでください……」
「女に手を上げたとか男の風上にも置けねえだろ……本当に悪い」
「いやいや、本当に大丈夫なので……」
……とかなんとか、やり取りをしている。
美少女顔……いや、もうチビワでいいか。とにかく、チビワはというと、しゅんと小さな体をさらに小さくさせて反省している。
お相手さんは本当に申し訳なさそうにしていて、さっくりと一蹴するのもはばかられる。そんな狼狽えている私に救いの手が述べられた。
「まあまあ、その話は一旦やめにしてさ、とりあえず時雨も自己紹介しようよ!」
琳……! 彼はもしかしたら天使の生まれ変わりなのかもしれない。ありがとうという思いの視線を向けた。
「……そういや名前まだ言ってなかったな。俺は二年の
眉尻が下がり気味の微笑で丁寧な自己紹介をした藤村先輩に続き私も名乗る。
「辻祐希、か。いい名前だな」
「あ、ありがとうございます。えと、お好きなように読んでいただいて構いませんので」
「じゃ、祐希。早速で悪いんだが、買い物行くんだ。ついてきてくれないか?」
早々に名前呼びされて少しどきりとしたが、冷静に考えて琳もそうだ。ここの人は距離を詰めるのが早い。
……私が積極的に人と関わり合うことをしなかったからもしかしたらこれが普通なのかもしれないが。
と、買い物に誘われているのを流しかけた。
「分かりました。荷物持ちですか?」
「いや、荷物持ちは男がやるから。他のこと」
「えっと……?」
「ま、何食いたいかちゃんと考えておいてくれってことだ」
つまり、歓迎されているということでいいのだろうか。自意識過剰と思われたくないためそのことは言葉にせず心中に収めたが。
藤村先輩は正直とっつかみにくそうな雰囲気だが、話してみるとずっと思いやりのあるしっかりした人でなんだか安心する。まるで母親や父親と対面してるかのような……。まだ高校二年生、なんだよな? 恐るべき、滲み出る母(父)性。
「はいはーい! 俺も行く!」
琳が元気よく挙手して乗り出す。藤村先輩が「おう。琳も頼んだぞ」と嬉しそうに頭を軽く叩いていた。二人の仲の良さを目の当たりにして少し眩しくなった。
「空は来るか?」
「俺その女きらーい。行かね」
「空」
「や! だ!」
「……はぁ」
藤村先輩が短くため息を吐くのを一瞥したチビワと目が合う。そのぱっちりと大きな黒い双眸を鋭くさせ、私に向かって舌を突き出すとそっぽを向いた。いわゆるあっかんべーというやつだ。子どもかな。子どもか。
どうやらさっきの事で嫌われてしまったようだ。下手に隠して陰口を言われるよりずっといい。人間なら合う合わないいるのは当然だ。
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