第8話

「────さ、ついたわね」



 荷物を運んで背中にうっすら汗が滲んできた時、ようやく目的地にたどり着いた。


 近くに寄ればぐんと見上げる高さで、しかし縦より横に少し広めの建物。実物を見たのは初めてだがやはり綺麗だ。さすが新寮。


 やっぱここは学校からだと遠いわーと寮監さんがぼやきながら寮の出入口にずんずん向かっていく。私はそのあとを必死について行った。



 NAGISAと書かれた分厚いガラスの両開き扉が出入口らしく、寮監さんが私に気遣いつつ片方だけ開けてくれる。


 いそいそと中に入り、足を踏み入れて数歩の先、段差があった。見るからに土足厳禁の床だったためとりあえず荷物をそこに置く。


 目の前には下駄箱がずらりと並んでいた。50人分はありそうだ。だが、埋まっている下駄箱は1番左端の列と、その隣の列くらいでほかは少しホコリを被っている。



「辻さん、とりあえずここの寮監に会いに行きましょ」



 まじまじと下駄箱を見ていた私に声をかけてきた寮監さんが荷物を端によせた後手招きする。


 私が置いた荷物も寄せてくれたようだ。なんだか申し訳ない。



「は、はい」


「緊張しなくてもだいじょぶだいじょぶ。ここの寮監ゆるゆるだから、いろんな意味で」


「はぁ……」



 それでも緊張は拭えない。私の体は強ばったままでガチガチ。なんとか玄関を抜けてロビーらしきところに抜けたそんな、時だ。



「あれ?女の子だ」



 ふわり。例えるならばそういう感じに滑り込んできた声は明るくて優しげで、不思議そうだった。



 声の主は少年で私と同じ歳くらいに見える。ロビーに備え付けてあったソファーに腰掛けていたのかそのソファーから少し身を乗り出して、くりっとした大きくて真ん丸の黒い目がこちらを見つめている。無造作にセットされている黒髪は彼によく似合っていて、そして、何より顔立ちがとんでもなく可愛いのだ。


 首元を見れば喉仏が確かにあって、男らしさを残しつつも可愛さにも振り切った感じがする。清潔感のあるシンプルな服装が彼の可愛さをより引き立てているように見えなくもない。


 ソファーから腰を上げてこちらを首を傾げて見てる姿も可愛い。美少年とはこういう人のことを言うのだろう。

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