第4話

教師に言おうと思った日もあった。だがその事を話して教師が本当に何かしてくれるのか、相手は猫を被るのだけは一丁前に上手い弥生だ。無理だ。


 それに─────大人である以前に、所詮教師も赤の他人だ。本当に自分に親身になってくれるとは思えなかった。漫画や小説に影響された結果の考え方になってしまったが、私はとにかく信じることが出来なかった。だから、今こうやって困っている状況になっている。



「だからね、辻さん。詳しく事情が聞きたいの。ね?教えてちょうだい」



 優しい声音で問いかけてくるが、眼差しは真剣で「絶対に聞き出す」という強い意志が見える。よほど正義感が強いのか、なんなのか。よくわからない。


 簡素な寮監部屋に連れてこまれた私は取調べを受けているかのような気分になっている。実際取調べ紛いのことをされてるから間違いではない。



「……本当に、ただ転んだだけですって」


「嘘。……前々から気になってたの。辻さん、あなた一人でいることが多いじゃない」


「ひとりが好きなんです」



 誰かと一緒に居なきゃいけない義務でもこの国にあるんですか、と言いかけて口を噤む。この口の利き方は、さすがにまずいと自分でも思った。だが、それを口にしてしまいそうになるくらいには少しだけ苛立っていた。



「……放っておいてください。本当に大丈夫なので」


「……」



 ついには黙り込んでしまった。なんだか、とても申し訳ない気持ちになる。


 スっと。白いほっそりした手が伸びてきた。そのまま私の頭を、それはもうどこからそんな力が出てるんだと思うくらいぐりぐりと撫でてきて、困惑した様子で寮監さんの顔を見れば「若いわね」と、それだけ言って不敵に笑った。


 頭からを手を離したと思えば流れる動作でスマートフォンを取り出し、少し画面をすいすい操作すると液晶画面を耳に当てていた。電話をするんだなとぼんやり考える。


その時「ええ、だからそっちでしばらく面倒を見てちょうだい。のとっちゃんそっちの寮には女の子いないから寂しがってたでしょ。ちょうどいいじゃない」などという会話が聞こえてきたが聞こえない振り。


 いや、だって、まさかな。

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