第36話 いつも通りに君はいない そのニ
マー君からの月例報告は、もう、七回目を数えた。あれから、もう半年以上が過ぎたことに内心、驚いている。
「今晩は、ガッコ、元気かい?」
「今晩は、まあまあかな、マー君は?」
「体調管理は、バッチリだよ。成績も変わらず、順調さ。もう直ぐに、一年が過ぎてしまうね」
「こんなに、泣かされた日々は、今まで無かった」
「お気の毒、とでも言っておく」
「誰の
「誰かの所為には、出来ないぜ、自分で選んだんだ」
「お門違い!ってことね」
「正に!この事で、文句が言えるのは匠だけだ」
「そこは、認めるのね?」
「確かに、僕が仕組んだことさ。尤も、もっと上手く出来た筈なんだが。そこに、使う能力と時間が惜しくてね、酷く無様な出来だったよ」
「本当に嫌な奴、ミー君がどれだけ苦しみ悩んでいるか」
「そうさせたくて、した事だ、後悔なんてあり得ない」
「私も、いっぱい泣いたよ!」 「ガッコには、悪いことしたと思ってる。女心は僕には、解らないから。だから、毎月、連絡してる」
「これは、お詫びのつもりなの?」
「じゃなきゃ、あんな約束しないよ。毎月の、経過報告なんて」
「しょうがない人、それで、許されると思ってるの?」
「許されるも何も、許して欲しいわけじゃ無い。心配なだけ、ガッコが何時迄も可哀想なままじゃあね」
「だったら、どうしてあんな事をしたの?私を傷つけ、ミー君を傷つけ痛めつけ!私とミー君を引き離し!3人の何もかもをぶち壊して!何のためにそんな事したのよ!」
「分かって欲しい、わけじゃ無いけど。君たちには、それを知る権利があるから話すよ。二度は言わないよ、繰り返すけど分かって欲しいわけじゃ無いんだ。まず、第一には遅かれ早かれガッコと匠に、会えなくなる日が来るのは明白だ。僕が、望むものを手にするためにはガッコと匠を守る事は出来ない、時間も、能力も足りない!」
「ただ、黙って二人の前からいなくなれば、幼馴染だった!付き合った同士だった!友達だった!良い奴だった!それで、終わりだ」「それが、いけないとは思っていないよ。でもね、僕は欲張りなんだ!あいつ、良い奴だったよね!今頃、どうしてるかな?そんな風に、二人に語られたく無いんだよ。もう一つ、単純に僕も普通の思春期の好奇心一杯頭に詰め込んだ男だってことさ!」
「初めてなら、ガッコが良い!でもね、溺れちゃいけない!望みを叶えるためには、君のために使う時間なんて、ないんだ!どの道、酷い男さ、匠がどれほどガッコを好きなのか、ガッコを求めているのか知りながら自分の好奇心と欲望のために、一度っきりの“逢瀬”をガッコに強いたんだから」
「分かっているんだ、僕のしたことが二人を酷く傷つけたことは。でもね、不思議と心は傷まない、本当に、悪戯が大成功って気分なんだ」
「サイコパス?」
「多分、そうじゃ無いよ!僕は、サイコパスじゃ無い。僕たちの関係が特別なんだ!」「信じてくれなくても良い、ガッコと匠の関係は、きっと二人が求めあう限りは、誰にも邪魔が出来ないほどに、強い結び付きなのさ」
「僕とガッコは、そうは思えないかもしれないけれど匠がいて、出来上がった関係なんだ。僕と匠の関係は、ガッコがいなけりゃ成り立たない」
「僕がいなくても、ガッコと匠は関係が持てる。でも、僕は3人じゃないと!何方とも関係が持てないんだ!こんな、不公平!許せる訳ないじゃ無いか!」
「僕にとって、二人は特別なんだ!僕が、二人にとって特別になるには、あれが一番簡単で、効果的だったのさ。そして、僕たちは公平に成れたんだ」
「皆んな、お互いを無くしてしまった」
「ガッコ、違うよ、無くしたのは僕だけだ。いや、言い換えよう、捨てたのは僕だけだ。ガッコも匠も、お互いを無くしちゃいない、捨ててもいないだろう。少しの間、見失っただけ。いつだって、取り戻せるさ」
「でも、マー君がつけた傷は消えない!私と一緒に、ミー君につけた傷痕も」
「そうだね、あの子ウサギちゃんは、巣穴に篭って、簡単には出てこないんだろうね」
「他人ごと、みたいに言う、私とミー君の時間だよ」
「それを、僕にくれよ!長い程、僕には嬉しいな、悪戯、大、大、大成功!ガッコが嫌にならない限りは、あの子ウサギちゃんは巣穴に篭りっきりだ」
「あいつの居ない間に、好き放題できるぜ!遠慮しないで、楽しみなよ、花の命は短いぜ!最後は、匠の腕の中だ!最悪でも、それは保証する。ガッコが嫌なら、別だけど」 「だったら、少しでも、早く立ち直らせてよ、ミー君を!」
「だから、いつだってガッコが会いに行けば良いさ、そこから始められるよ」
「嘘よ!あんな酷いことして、私とマー君でしたんだよ!簡単に許してくれるなんて、思えないよ!ミー君は、あの後、左耳にピアス着けた!私が、マー君を選んだことを許してくれた!でも、マー君に抱かれた女を赦してくれない。私が、マー君の女だから、二度と会わなくても恨んで無いよ!もう、会わないけど嫌いじゃ無いよって!」
「あぁ、そうだね、子ウサギちゃんの考えそうなことだ。だけど、匠はガッコのことを、どうしたって見捨てられないよ。ガッコにだけ、悪いとは思うけど僕にはどうにも出来ないな。さっき、言った通り時間をかけてくれるほど、僕には嬉しいって。これが、対等になったってことなんだよ!」
「僕が、無くしてしまったことの重さを、二人で受け止めておくれ!」
「この!悪魔!」
「何とでも、言って良いよ。僕には、分かるから、二人とも僕のことが大好きだってね!」
「そんな訳、無い!」
「ほらね、ガッコも、分かるだろう、怒っていたって!嫌いじゃ無いって!」
「本当!やな奴!」
2年生になり、クラス替えがあった。
結海とは、一緒のクラスになれたが、寧子とは別れてしまった。
西城君とも別のクラスになったのは、ちょっと気まずかったので助かった。
マー君との電話は、思い出すたび腹が立つ、怒りはするけどマー君の言う通り嫌いになれない。
新しい季節に、春の日差しの中で明るい未来を見つけたいけど。
君のいない右側が寂し過ぎる。
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