第23話 君がいなくても過ぎる日々 その一
“カノミー・ウィズ・サンバ・カメンズ”は、三曲程、有名バンドのコピー曲を演奏した。
アンコールもなく、何ならメンバー紹介も飛ばしたまま、嵐の様に去って行った。
「気が付いたか?匠、片耳ピアスしてたの?」
「うん、私、分かった」
「エッ、あの距離で、ピアスなんか見えたの?」
「実は、カイタローから聞いていて、でも、ガッコ見えたんだ?」
「うん、なんか、見えた.....」
「付き合いが、長いからかな?」
「実は俺、見えてなかった、カイタローがさ、ガッコが分からない様なら教えてくれって、頼まれたんだ。匠のピアスに、なんか意味あんの?」
「私じゃ無い、私が、許されたってこと」
「私じゃ無い、私?それっ...」
和君が、言い掛けるのを、寧子が和君を肘でついて止めた。
「ごめんね、何でも無いの!私、帰るね」
「じゃぁ、彼奴らには、俺から宜しくって言っておく」
「ありがとう、和君......」
「あぁ、気にすんなって、じゃあ、月曜に学校で会おうぜ」
「じゃぁ、またね」
「うん、さよなら、またね」
「いっやー、俺達、凄くね!って言うか俺、凄くね?」
バックヤードに下がって、ノゾキヤローが興奮して言った。
「あんたねぇ!合図、決めてたから何とか合わせられたけど、スタートあのタイミングじゃ無いでしょう!メンバー紹介すっ飛ばすし、何で予定時間10分近く余らせてんのよ!」
「じ、時間、押してたから助かったって」
「それを心配すんのは、運営の仕事!私達じゃぁ無いのよ!私達が、気にしなけりゃいけないのは自分達のパフォーマンス!」
「なら、俺は大丈夫じゃね!」
「色々すっ飛ばして、どの口が言うのよ!」
「マ、マイクパフォーマンスは、さ慣れね〜から、その他は....」
「メロディライン追っかけるのに精一杯の癖に、リズムもろくに取れてなかった!」
「まあまあ、歌とギター一緒にやんのは簡単じゃ無いよ」
「だよなぁ」
「あんたも、リズム取らないで変なオカズ盛り盛りで、しまいには遅れてバタバタだったじゃ無い!」
「うっへーっ、ごみん.....」
「一寸さん、あんたの音割れ!言ったじゃ無い弦をしっかり押さえろって」
「リズム隊、私一人じゃ支えられないって!」
「お、お許しください女王様!」
「「女王様!」」
「馬鹿言ってんじゃあ無いわよ!」
「バンドの名前、変える?」
「「「女王様と奴隷達!」」」
「あんた達、
「「「えっ、次もあるの?」」」
「当たり前でしょう次の音合わせ、ちゃんと出来なかったら打つわよ!自主練、しっかりやりなさい!特に一寸さん!」
「「「イエッス、サー、マム」」」
地域交流会から帰ってきて、自分の部屋に籠って、今日の事を考えていた。
ミー君は、もう二度とマー君の女の私と、会いたいとは思わないだろう。
私が、マー君に振られた事を言えば、優しいミー君は慰めてくれる。
きっと、私の欲しいものだけくれて自分のことは、なおざりにしてしまうんだろう。
マー君に、放り投げられた同士、傷を舐め合うように寄り添う。
悪くは無いかも知れない。
でも、ミー君は自分の傷を癒すより私を気遣うことで、自分の痛みを胡麻化してしまうだろう。
それは、きっと自傷行為みたいなもの。痛みに慣れ、痛みがあることで偽りの安堵感を得るみたいなもの。
左耳のピアスには、そんな危うい決意が感じられた。
ピアス、それの持つ意味はミー君にとって特別な私が、ミー君以外の男に愛情を注いで、ミー君自身を傷つけたことを
間違いに気付いた、私を
だから今のミー君は、私だけを特別に大事にしてくれる私だけの王子様じゃ無い。
私は、私自身の間違いの罰を受けるんだ。
私だけの王子様が、心の傷を癒すための時間をあげるんだ。
その間は、じっと我慢するんだ。
優しく抱いて欲しいとか!
頭を撫でられながら優しい言葉をもらうとか!
ミー君にして欲しい事の全部を。
今、私がミー君にしてあげられることは、何も無い。
ただ、ミー君の傷が癒えるのを待つばかりだ。でも、その時が来るのを私が待ってることを、ミー君に知らせたい。
マー君に放り投げられたことを、隠したまま、ミー君を待つていることを上手く伝える言葉を私は探した。
俺は、左耳のピアスのことが上手くガッコに伝わったのか気になっていた。
和君が帰り際に、ガッコが俺のピアスに気付いていたことを教えてくれた。でも、俺がピアスを付けた意味が、どれくらいガッコに伝わったのか?
その決意が、ガッコを諦めることの意味が!
痛みが!
どれだけ分かってもらえたのか?
十二分に俺は、ガッコに傷つけられた。
それでも、まだ愛されたい自分がいて!
愛している自分がいる。
止められない思いを、無理にでも止めるには!
もう会わない以外の方法は、思いつかない。
ガッコの姿を見なければ、声を聞かなければ、少しづつでも忘れることができるかも知れない。
愛しい気持も、触れたい欲求も、愛されたい欲望も、痛みも、苦しさ、息がしづらいこの焦りにも似た感じも、忘れることができるかも知れない。
呼び出し音が、堂々巡りの回廊から俺の意識を引き上げた。
「もしもし、ミー君?今大丈夫かな?」
「うん、大丈夫」
「私からする最後の電話、良いかな!」
あっ、望んでいたことなのに、これでガッコの声は二度と聞けなくなる!
沈黙を是として、ガッコは続ける。
「始めに、私が選んだことでミー君を傷つけたこと、ごめんなさい!ピアスを付けたのは、それを許してくれたサインなんでしょう?ありがとう(本当は、恨んでくれた方がマシだった)」
「あぁ、その通りだ!(良かった、分かってもらえた)」
「そして、私を諦めてくれる.....って言うサイン!(私に関わりたく無いって、ひどいよ)」
「間違いない!俺のことは気にしなくて良い!(ガッコは解ってくれた)二人で、宜しくやってくれ(胸が苦しい、死にたくなる程切ない)」
「ありがとう(私は、諦め無い、ミー君は、私だけの王子様!)でも、直ぐにじゃなくて良い、気兼ねなく会えると思ったら、連絡してね」
「あぁ、そんな日が来れば良いな!この、三ヶ月、色々あったけど今のところ人生で一番楽しかったよ、ありがとう」
「私も楽しかったよ、ありがとう」
「じゃぁね(またね、待ってる何時まででも)」
「うん、(二度と会えない、決めたんだ)」
通話が切れる音がして、二人はそれぞれの暗闇に身を沈めて行った。
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