第21話 私の右側の人

 花火大会の途中で私達は、それぞれの家に帰った。お母さんに、随分早いお帰りね、何かあったの?と聞かれた。

 「何も無いよ、マー君の勉強が忙しくて、塾の課題が終わってないって言うから!だから、自由にしてあげたの」

 そう言って、私は自分の部屋に入って、声を殺して泣いた。

 此処のところ、毎日泣いているような気がする。

 水分の過剰放出で、ミイラになっちゃわないかな?

 しわしわ婆あに、なっちゃわないかな?

 もう直ぐ学校、始まるのに目が腫れたままは嫌だな。

 鼻水の拭きすぎで、赤くなった鼻じゃ嫌だな!

 赤い鼻で、しわしわの身体、産まれたての仔豚みたいで嫌だな!

 誰か、誰でもいいから私を抱きしめて!

 心配ないよ、大丈夫、明日はすべて上手くやれるよ!

 そう言って、くれないかなぁ!

 失敗なんて無かったよ、心配なんて何も無いよ!

 よぉく頑張ったねって、頭を撫でてくれないかなぁ!

 私は、ミー君ごとマー君に放り投げられてしまった!

 ミー君には、ひどい女だと思われてしまった!

 ミー君を罵り裏切った、マー君の女だと思われてしまった!

 マー君の女でいれたのは、たったの10日ほどだった。それだって、ミー君を裏切ってしまったと思って。悲しいほうが多かったのに、それさえ手の中にないんだ!

 に、なりたく無いから、選んだ道だったのに行き止まり!

 どうしたって戻れない、元の道には。マー君は私がどの道を選んでも、私が嫌がらなければ、必ずミー君が待っていると言う。

 でも、どうやって、それを信じたらいいの?

 昔だったら、疑いなく信じられた。

 疑う事を知らなかった、無垢な少女を、自分で嫌な女にした癖に!

 どおして、そんなことが言えるの?

 堂々巡りで夜は深まり、寄るべない私は、深い闇の中に縮こまっていった。



 朝が来た、約束もしてないのにやって来た。

 今日から、9月。

 今日は、日曜日だ。

 明日から新学期、何もかも無くしたわけじゃない。

 朝、目覚めたら、そう思えた。

 私には、大切な友人達がいる。

 恋人は、何処かへ消えてしまった。

 ショック療法?

 かは、分からないが、マー君に執着する気持ちは全然無かった。

 マー君の計算通りだと、かなり悔しい。

 でも、そうなんだと思う、であれば、マー君の予言が叶う。

 私が望む限り、ミー君は私を待ち続けてくれる。

 ひどく悔しいのに、なんか、嬉しい!

 確実でないことは、分かっている。

 それでも、結構な確率で叶いそうに思える自分でも身勝手で自分本位の願望だと思う。

 でもね、そうじゃ無けりゃ私は可哀そうすぎる。

 今度は、絶対、間違えない!だって、誰が運命の王子様か、分かってしまったから!



 月曜日の朝、7時半の通学バスに乗った。

 寧子は、バス停に待ち合わせたようにやって来た。

 「おはよー!」

 「おはよう」

 「課題、全部、終わった?」

 「一応、終わったよ、寧子は?」

 「私も、一通りは、終わりました」

 やって来た、バスに乗り込む。私が、窓際......寧子は、私の右隣り。夏休み前に、私の右側にいた、すっごく生意気で、ほんのちょっとだけ可愛い男の子はもう、いない。

 その代わりじゃないけど、いつも、私を支えてくれる、頼もしい友人が居てくれる。

 カーブに来た時、少し、寧子に寄りかかって、温もりに触れた。



 計画通りにことは進んだ、まあ、何の工夫も無く匠を嘲っただけだが。

 ガッコの初めてを、ご褒美にした今回の計画は、それが叶えば100%成功が約束される簡単なミッションだった。

 完璧を目指すべきは、別の事だ。

 僕は、匠とガッコがこれから受取る幸福の、ほんの少しを先払いしてもらった。

 本来は、匠が受け取るべきものを!

 その代わりに、汚れ仕事を請け負った。

 まぁ、進んでやりたがる奴もいる、おいしい仕事ではあるが!

 匠の代わりにすると思えば、失敗は許されない、相手が、ガッコでは尚更だった。

 そこも、上手く出来た。上出来だった。

 もう、あの二人と直接に関わりあうことは無いだろう。僕が、目標をクリアして欲しいものに満足するまでは。

 それは、遠い未来のことだ。

 いや、月に一度の、ガッコへの経過報告があった。これも、律儀に熟すだろう僕は、絶対に忘れる事なく。



 新学期が始まって、1週間が過ぎる頃、寧子に声を掛けられた。

 「ねぇ、ガッコ今度の土曜日、時間ある?」

 「14日かな、特に予定はないかな」

 「それじゃさぁ、ウチらの地域の交流会って言うのを、ウチらの小学校の体育館でやるんだって!それに私と和君と、一緒に行ってみない?」

 「えっ、それって、私が完全にお邪魔虫だよね?あんまり、嬉しくないかな!」

 「ウチらの地域の交流会だからさ、周りは知り合いばっかりだよ!言ってみれば、お邪魔虫の集団の中に、カップルで飛び込む様なもんよ。あんただけ、お邪魔虫じゃないわ」

 「お邪魔虫の集団!なんか、寒イボ出そう!」

 「あっはっはっはは、やだなぁ、もうっ!冗談抜きにして、言うね、その、交流会に、ミー君達のバンドが出るんだって」

 「えーっ、そうなんだ」

 「和君が、小俣君から聞いたんだって」「ミー君が元気なとこ、ガッコに見せたいんだって!遠くからでも良いから、ガッコに見て欲しいんだって、ミー君が!」

 マー君と一緒になって、ミー君に酷いことしたのに、ミー君は私を気づかってくれる。

 元気な自分の姿を見せて、気にすんなって言ってくれる。

 「うん、分かった......行くよ!寧子、一緒に行ってくれるんだね、ありがとう、寧子ありがとう」

 私も、ミー君に会って元気でいることを知ってもらうんだ。

 心配しないで!

 私は大丈夫!

 本当にごめんなさい、そして、ありがとう。

 ミー君が、私のことを許してくれるなら、何か、新しい何かが始まるかも知れない。


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