第18話 シャボン玉消えた

 マー君の家から帰って、また、泣いた。

 ミー君の事を思って、私をあんなに好きなのに、報われないミー君を思って泣いた。

 私は、もう、マー君だけの女になってしまったから、ミー君を好きじゃ、いけないことに泣いた。

 マー君に、女にしてもらったことに、後悔は無い。

 マー君も、喜んでくれた。  

 でも、身体の痛み以外には何を無くして。

 何か?

 何かを、得ることができたのだろうか?

 痛みに、見合うだけの快感は無かった。

 痛いばっかりじゃぁ無かったけど、気持ちいい!と迄の感覚は、絶対に無かった。

 マー君に、大事にされていたのは、分かった。

 でも、ことが終わったあとの、空々しさは痛々しい私だけを残して、何かが通り過ぎただけだと思った。



 ガッコが、シャワーを使っている間に。

 僕は、部屋の後片付けをしながら、取り止めも無く思い出していた。

 あんなに、興奮して、指先が震えて、声も震えて、暴力的な衝動?あるいは、過剰な保護欲?相反する欲望がない混ぜになり僕に襲いかかった。

 辛うじて、とどまった。

 じゃ、無ければ、ガッコを強く抱きしめて、破壊して、てていたに違いない!

 無様ぶざまさらしたに違いない!

 全てを、上手くコントロールは、出来なかったが、それでも上出来だ。

 頭の中身も、身体の中身も、全部を放出した様な快感。

 あの、小さくて、可憐な生き物を、思うままにする悦び。

 それら全てを、あの小さな、華奢な、少女が優しく受け入れて、僕を抱きしめてくれた。

 その、少女を僕が女にしてあげた。

 それの、証が残るシーツを丸め、洗濯機に放り込む。

 大量な、僕の放出した快感の残滓ざんしを拭ったティッシュ、酷く不快な臭いのするそれらを、ビニール袋に詰め(彼の娘の、体液は臭わないな?)、台所のゴミ箱に隠すように捨てた。

 タオル一枚を身体に巻いただけの、ガッコが僕の部屋に戻ってきた。

 僕は、僕のヘアドライヤーをガッコに渡し、髪を乾かすように言ってから、新しい下着を手にシャワーを浴びに行く。

 洗濯機に、使い古しの下着を放り込み、洗濯機を動かす。

 僕が戻ると、ガッコの帰り支度は済んでいた。

 思いつく限りの優しさで、彼女を抱いた。

 一緒に、家を出て、ガッコの家まで送った。

 「それじゃぁ、花火大会で、また、会おう」

 「うん、花火大会で」



 翌日、身体はまだ痛い、変なところに、力を入れてしまったらしく手、足が筋肉痛だ。

 マー君は、大丈夫かな?

 あぁ、ミー君に電話しなくちゃぁ。

 マー君に、頼めばよかった。

 今からでも、頼もうかな?

 でも、ミー君の声......聞きたい。

 こんなことでは、ミー君と友だちとして、会えなくなっちゃう!

 私は、じゃぁ、ないんだ!

 そうだ、ミー君との、友情の証しのネックレス!

 あれを、マー君の前で、ミー君と一緒に見せて、言ってやるんだ!

 「いいでしょう!ミー君と、おそろダヨ!でも、マー君には私がいるから、いらないよね」って、ミー君の前で?

 ミー君の前で、そんなこと言えるわけない!

 私はやっぱり、なのかなぁ?

 私は、ミー君に電話が出来ないまま、寧子に相談することにした。

 「どうかした、ガッコ?」

 私は、マー君とのこと、ミー君に電話しなくちゃいけないのに、出来ないこと、私は、なんじゃないか?と、気にしている、ということを話した。

 「ガッコ、あんたね!」

 「変なことを、気にし過ぎだよ!」

 「誰も、あんたを、だなんて思わない!」

 「マー君とのことは、あんたが決めたんだ、大丈夫、間違いじゃないよ、万一、間違ったって、やり直せるから、何度でも」

 「ミー君には、マー君から連絡させなよ!」

 寧子と話して、大分落ち着けた。

 「ミー君には、私から話がしたい!」

 と言うと、寧子は

 「しょうがないね、頑張って、いつでも、話は聞いてあげるから」

 と、言ってくれた。



 さて、僕が計画したプランの中で、僕が関わることが出来る最後の部分が、やって来る。

 それから後のことは、二人に任せるしか無い。

 僕の 、やるべきことは大好きな、あの二人を手酷く裏切る事だ!

 思えば、ガッコは初めて会った時から、兄弟のいない僕の妹みたいな存在だった。

 匠が、小5の時ガッコ目当てで絡んでこなければ、僕と、ガッコの関係は変わることは無かった。そして、僕が二人の運命に気付かなければ、こんな計画、思い付いたりしなかつた。二人の運命については、勿論、何の確証も有りはしない、強いて言うなら僕の勘としか、言えない。さらに言えば二人のことを、よく見ていれば、判ってしまうのだ。

 何れにしても、不確定の事ばかりだから、二人の未来については信じるしか無い。

 そして、きっと、誰より、あの二人よりも、僕が強く信じている。

 十年後の未来、僕は二人にこう言うだろう!

 「ほら、言った通りだろう!」



 その日、夜、8時頃、ガッコから電話があった。

 「今晩は、今.......大丈夫かな?」

 ガッコの声が、いつもより堅く感じた。

 「えっ、大丈夫だけど...何か、あった?」

 「うぅん!何にも、無いよ....嫌なことは、何にも!」

 「何で?嫌なこと......なの?」「本当は、何か、あったの?浦安ランド行った日も、ガッコおかしかった」

 「ミ、ミー君には、関係無い.....ことだよ!」「気にしないで....いいよ....」「そっ、それより!来週の、花火大会!マー君と!三人で!行かない?」

 「あっ.....そ...ゆう、こと」「分かった、行こう、三人で!」

 俺の知らない処で、何かが決まってしまった。

 それは、俺にとって嬉しいことではなさそうだが、確かめずには、どうすれば良いかも分かりゃあしない。



 花火大会、当日の町は浮立っていた。

 海沿いの新道には、交通規制が敷かれ歩行者天国になっていた。三人は、小学校の坂下に在る、駄菓子屋で待ち合わせた。

 7時開始の花火大会に合わせて、6時半頃には、全員が店の前に集合していた。拓磨が、とっておきの場所に案内すると言って、先に立ち歩き始める。二人は、何も言わずに後に従った。花火を見るより、話すんだろうな、と匠は思う。ガッコは、挨拶を交わしてから、ずっと俯いたまま、匠を見ようともしない。俺は、刑場に引き出される罪人、ガッコはそれを、見守る観衆、差し詰め拓磨は、俺を裁く裁判官だ。と、匠は思った。

 三人は、両側に家の並ぶ狭い通りを抜けて、目の前にある10m位の急な階段を上った。

 「あぁ、水天宮か!」

 匠は、声に出した。

 「そうだ、ここからは花火がよく見える」

 「意外に、人も来ないから、ゆっくり観れるよ」

 拓磨は、そう言いながら振り向き、ガッコを自分の隣に呼び寄せ、二人で匠と向かい合う。と、いきなりガッコを抱き寄せ、驚いて拓磨を見上げた唇に口付けた。

 「おいっ!何をするんだ」

 匠は、叫ぶように怒鳴った。拓磨は、ガッコの唇から、名残惜しげに自分のそれを外しながら、匠を見据えた。

 「お前と、浦安ランドに行った、次の日に僕は、ガッコを僕のものにした!」「ガッコは、女になるために、僕の部屋に来たんだ、自分から」

 匠は、声も出せずにガッコを見た。

 嘘だ、嘘だよね、お願い!嘘だと言ってくれ!懇願の目で、ガッコを見るが、ガッコは俯いたままだ。拓磨は続ける。

 「お前にも、チャンスはあげたじゃないか?」「分からないとは、言わせないよ」「ガッコの気持ちが、どうだとか、僕を好きだからとか、言い訳ばかりで、何もしようとしない」「中学三年間、ずっと負け犬だった、お前に、ガッコを任せるはずがないだろう」

 「気づけよ!負け犬!僕らが陰で笑っていたことに!」

 あぁっ、声にもならない声をあげて、琢磨に掴みかかろうとして、ガッコを見た。

 「ダメ!ダメ!やめて、お願い」

 あぁ、俺の願いは、聞いてくれない癖に拓磨の為には、俺に願うのか!

 匠は、二人に背を向け、走り出した。

 まばゆい光の氾濫と、耳に響き渡る破裂音、人々の歓声のする暗闇に向かって!

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