2-2.作戦会議しましょう
宿は確保できたし、残りの時間はゆっくり休もう、とユアたちは考えていたが、明日以降の流れを決めていない。
夕飯を近くのファミリーレストランで済ませ、三人はユアの部屋に集まって作戦会議を始めた。とはいえ一人部屋、なかなかに窮屈な空間であった。
ユアはベッドの上に立ち、ギオンは壁に背を預け、シュウダイは椅子の背もたれを前にして着席した。
「では、早速ですが作戦会議をしましょう。作戦名は『あらまびっくり! 元上司が突然殴り込んできて大はしゃぎ大作戦☆』です!」
ユアは自信満々に拍手をしながら、堂々と作戦名を発表した! そして、ものすごいドヤ顔を浮かべている! 「こんなにも素晴らしい作戦名を思いつけるなんて、私には才能があります!」とでも言いたそうな輝かしい表情だ! これはもはやドヤ顔ではない! "ユア顔"である!
「おれの印象クソ悪いな」
シュウダイは罰が悪そうにそう答えた。が、事実なので仕方がない。
「いきなり襲いかかってきた男が何を言うか」
「そうですよ。こんな可愛い女の子にすることではないですよ」
ユアは両頬を両手の人差し指でぷにっと指差しながら身体を横に曲げ、きゅるんっと全力でかわい子ぶった。何故だろうか、可愛いのは事実だが絶妙にムカつく。ギオンはそう思った。
「さて、では人身売買の疑いのある『上原ユウト』の追跡ですが、そちらはいまシュウダイさんの頭の上に止まってるカラスを頼りにしてよろしいですか?」
シュウダイは頭頂部にとまっているカラスの喉元を撫でながら「そうだな。ユウトを見つけたのもこいつだし」と答えた。
「本当は親分がいてくれたらよかったんだが」
「動物の声が聞けるからですか?」
「まぁそれもあるんだが……親分の能力、あの化身が単純に強いんだよなぁー」
アスミが動物の声を聞いてた時に〈ユア・ネーム〉のように化身が姿を現していなかったためユアは首を傾げた。
「そうなんですか?」
「まぁな。ユアちゃんの〈ユア・ネーム〉もだいぶ強そうだけど、多分親分のはもっと強い」
「まぁ」
固有能力の中には「願いの化身」なる実体が顕現することが多々ある。〈ユア・ネーム〉のような鎧を着た戦士のような見た目のものがあれば、生き物とも違う武器のような形をしたものなども存在する。
それら化身には直接触れることも可能であるため、能力によっては化身を直接動かした方が戦闘力を発揮する場合があるのだ。
しかし、欠点として化身を動かせば動かすほど精神的疲労を伴い、限界が近づくにつれ化身の動きも鈍くなる。限界になると自らの意思とは無関係に化身が一人でに姿を消してしまう。
超能力とは別に使役することができる願いの化身は強力である一方、それ相応のリスクが伴うため、基本的に緊急時くらいにしか化身による攻撃や防御は行われないのだ。
シュウダイは頬を撫でながら、「軽く平手打ちされただけでこんななんだからな」と呟いた。
「それ能力の化身の方で叩かれてたのですね」
「よく生きていたものだな」
「死んだかと思ったよ。こんなこと言ったら親分にもう一発くらいそうだけど」
「くらっておけ」
「おうおう、ギオンの旦那はなかなかエグいこと言うじゃあねぇか」
「自業自得だ」
「手厳しいなぁ……そういやユアちゃんの能力って一体なんなんだい? なんか杖を伸ばしたりしていたがよぉ〜?」
「あぁ、〈ユア・ネーム〉のことですね? この能力は『モノの形を自由自在に変形させる能力』なんですよ。すごい、便利です!」
ユアはえっへん! と胸を張った。自分の能力に絶対の自信があるのだろう。
「私はいつも持ち歩いている杖を主に変形の対象としていますけど、他の物体を変形させることだってできるんですよ?」
ユアは言うと持っていたペンをスプーンのような形に変形させた。
「そんな器用なことまでできんのか。すげーなぁ」
「その気になれば杖の形を変形させて、その動きに合わせて自分の体勢を変えるようなこともできますよ?」
ユアはペンの形を戻した後、杖に持ち替え右手で先端を掴んだ。すると杖は少しずつ伸び始め、ユアの脚が宙に浮いた。片腕で辛くないか? とシュウダイが考えた矢先、杖の柄の部分から足場が伸びてきた。
なるほど、ここまで器用に変形を使いこなせば自身の身体を無理に動かさなくとも、モノを変形させた時の動きを利用することで、ある程度自由な動きが可能になるわけだ。とシュウダイは感心していた。
ユアはシュウダイがなんとなく満足したのを察すると能力を解除し、トッと床に足をついた。
「こほんっ、お二人とも作戦会議に戻りますよ。さて、ではこの『ドキッ! 汚職してたら前職上司にバレて詰められちゃう大作戦☆』についてですが」
「違うぞユアちゃん、作戦名は『あらまびっくり! 元上司が突然殴り込んできて大はしゃぎ大作戦☆』だぞ」
ギオンは「なぜ覚えているんだこのバカは」と口に出かけた言葉を飲み込んだ。いちいちつっこんでいたのでは身がもたない。
「そんな変な名前でしたっけ」
「あんな自信満々だったのに変な名前って!?」
「まぁそれはよしとしましょう。上原ユウトの詳しい居場所はそちらのカラスさんにお願いし、私たちはその後を追って上原ユウトさんを確保して、人身売買について洗いざらい話してもらって、ついでに谷川さんから頂戴して横領していた返済金も返してもらう。これが作戦となります」
なんだかやることが多い気がするが、やること自体はかなりシンプルだ。
「まぁ、やることはそれくらいだよな」
「まて、また体当たりで行く気か?」
「そのつもりでしたが」
「ここではやめておけ」
「でも」
「でももへったくれもない。ここは関河浜と違って市街地だ。下手に暴れまわれば目立つ。警察の厄介になるわけにもいかないだろう」
ギオンはユアと初めて会った時のことを思い出し、苦い表情を浮かべていた。あまり警察と関わりを持ちたくないのだ。
「たしかに、ギオンさんの言うことには一理ありますね」
「その上原という男がどこかの建物内にいるんだとしたらなおのことだな。今回は慎重に動くべきだ」
「むむむ」
「それと、今日は移動で体力も使っている。休んだ方がいい、行動するのも明日と決めている」
「ギオンの旦那の言うとおりだな。今日は休んでしまおう」
「わかりました。作戦はとりあえず今話した内容でよろしいですか? 作戦と呼べるか分かりませんが」
ギオンもシュウダイも特に反論はなかった。
ギオンは壁から離れ、出口へ向かった。
「それしか無いのも事実だ。聞き込みをしてもいいが、上原ユウトに悟られたらおしまいだ。犯人が絞り込めてる以上、不必要に詮索することもないだろう」
「それについては、おれもギオンの旦那に賛成だ」
「了解です。では、お二人とも、明日は朝七時にフロントで待ち合わせましょ。おやすみなさいませ〜」
ユアは手をひらひらと振り、二人は部屋を出ていった。
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「……シュウダイ」
「なんだい?」
「あまり、ユアに無茶をさせたくない」
「ダメだぞギオンの旦那。勝手に解決しようなんていうのは」
「そうかもしれぬが」
「彼女の仕事を奪う気かい?」
「危険な目に遭うかもしれない」
「もうあってるじゃあないか。今更だろ」
「そういう話では」
「だーめだ。ユアちゃん悲しむぞ。『あてぃくしの稼ぎがギオンさんに取られてしまいました〜、およよよ〜』ってな」
「オマエ、ユアのこと少しバカにしてないか」
シュウダイがあまりにも間抜けすぎるユアを小馬鹿にした感じで演じたため、ギオンは険しい顔つきで拳をコキコキと鳴らした。
流石に一度顔面をブン殴られているシュウダイは怯えながら「悪かったって誇張表現しただけだからその腕をパキパキ鳴らすのはやめてくれ」と謝罪した。
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