2-1.綱渡西町到着! 新たなお悩み解決!

 ユア、ギオン、シュウダイを乗せた自動車は三時間ほどかけ、上村ユウトが潜んでいると思われる綱渡西町に到着した。名前の通りここは西町。綱渡町は北、南、東、西と町が点在している。


 綱渡西町は山を抜けた先にある街であり、温泉街である関河浜よりも栄えている。自然豊かな関河浜とは対照的に今時の建物がびっしりと詰まっており、山一つ隔てた都会といったところだろう。実際のところ、関河浜の若者は流行り物欲しさによく遠出に出かけているという話だけ。


 ユアたちは街に入ったところにあるコンビニの駐車場に車を停めた。


 ん? なんでコンビニがあるのかって? ここはファンタジーな世界ではないのかって? それは浜河関に限ったことである! 浜河関から少し外へ出れば、一気に現代の世界が広がっているのだ!


「ようやく着きましたね」


「それなりに時間がかかったな。長時間座ったままでは、流石に堪えるな」


 ギオンは言いながら車の外に出て軽くストレッチをした。


「まずは宿の確保ですね。それと、車を停められるところ」


 ギオンはユアの発言に「ん?」と疑問を抱いた。何を言っているのか。駐車場くらい宿にあるだろう? と。


「そうだよなぁ〜。関河浜では車停められるところが全然なくてよぉ〜?」


(シュウダイもシュウダイでなぜ同調しているのだ?)


 ギオンは二ヶ月ほど関河浜に滞在していてはいたが、まさかあそこは駐車場一つない田舎だというのか? と少し引いていた。


「ね、困ってしまいますよね。宿に停める場所があるとも思えないですし」


 何を言ってるんだこの二人は。という乱暴な言葉をギオンはなんとか丸め込んだ。


「オマエらどんな田舎者だ……ホテルに駐車場くらいある」


「へっ? そうなんですか?」


「マジかよ」


 まさかこの二人、関河浜から出たことがないのだろうか。


「世間知らずにも程がある」


「そんなこと言われてもよぉ〜? なぁ、ユアちゃん」


「ねぇ、シュウダイさん〜♪」


 二人は目を合わせて仲良さそうに首を横にかしげた。流石にイラついたギオンは、このバカ二人の背中をぶっ叩いてやろうかと、拳を握り締めたがなんとか押さえ込んだ。


「そうだ、ギオンの旦那。ガソリンを入れたいんだけどよぉ? どこかいいとこ知ってるか?」


「あぁ。ガソリンスタンドの場所なら知っている。オレがそこまで案内する。ユアは宿を探してくれ。その方が時間を短縮できる」


「いいのかい? ギオンの旦那。ユアちゃんを一人にして」


「おつかいくらいできるだろう」


「そうですよ。私はこれでもお悩み相談所の店主ですから。宿を探すくらいどうということはありませんよ?」


「そ、そうかい」


 正直不安しかないのだが、ユアがそう言うなら信じるしかない。


「そうだユアちゃん、三人分の宿代を渡しておく。おっと、余った金でお菓子とか買うんじゃあねぇぞ〜?」


 シュウダイがまるでお笑いのふりのような言い方をするので、ユアは目を輝かせながら「それは、余ったお金は使っていいと?」と尋ねた。それに対し彼は笑いながら答えた。


「ダメだって。食費も混みなんだからな」


「冗談ですよ、承知です。複数人部屋で?」


「できりゃ個別部屋だな」


「近くに『ホテル・シンタウン』というビジネスホテルがある。そこが一番、安くて質が良い。アクセスもいいしな」


 ギオンの発した「ビジネスホテル」という聞き慣れない単語にユアは顎に指をあて、「ユアっ?」という効果音が聞こえてきそうな可愛らしい怪訝な表情で首を傾げた。


「なんだか難しそうですね」


「そんなことはない。看板もデカいが、建物もデカい。そこの大通りを入ればすぐ見えてくるはずだ」


 ギオンは言いながら、ユアがアスミから受け取った地図を指さしながらホテルのある場所を伝えた。


「わかりました。ホテル探しは初めてのことですが、なんとかしてみせましょう!」


 ギオンの助言を受け、ユアは鞄からメモ帳を取り出し、ホテルの名前と大体の場所をメモした。


 ユアはうんっと頷き、「では行って参ります!」と手を振りながら二人に背を向けた。


 シュウダイはすかさず「ユアちゃん、一時間後にここで落ち合おう。いいなー?」とユアに向けて声を発した。


 ユアは「はーい!」と大きな声で返事をしながら、とてとてと街の中へ消えて行った。


「……いまさらだが大丈夫だろうか。あの小娘を一人にして」


「うーん。まぁ、ユアちゃんなら大丈夫なんじゃあねぇの?」


 二人は意外と呑気だった。


────────────────────


 なんとかしてみせると言ったユアだったが、これまでに遠出などしたことはなく、ましてや地図を見ながらの建物探しなどしたこともなかった。そう、地図の見方がわからないのだ。正直困ってしまっていた。


「お悩み相談所の店主がまさか悩まされることになるなんて」


 誰も見ていないところで真剣な表情のまま、つい口に出してしまった。そんなんだからユアっとしているとか言われるんだぞ小娘、とギオンからゲンコツでも飛んできそうだ。


 これでは示しがつかない。再度地図を確認するも、自分のいる場所すらわからない。一度戻ってあらためてギオンさんにホテルの場所を教えてもらうべきだろうか、そんなことを考えていたそのときだった。聞き覚えのある声がユアの耳に入ったのは。


「あら、ユア」


「マナ?」


 そう、ユアの姉の言霧マナだった。


「どうしてマナが?」


「正直こっちがあなたに聞きたいくらいなのだけれど」


「私はいつも通り『お悩み解決』で」


「まぁそうよね。あたしもだいたい似たようなところ」


「なるほど」


「それで、今何してるの?」


「ホテル・シンタウンという宿を探しているのですが……地図を見てもわからなくて」


「いまの場所すらわからないならあなたには無理でしょ」


 マナは容赦無くキッパリ言い捨てた。ユアは核心をつかれ、「ぐぅっ」と呻き声をあげた。マナはくすくすと微笑んでいる。


「仕方ない妹ね。ちょうどあたしもそこに泊まってるの。良ければ案内するわよ」


「そう? なら、お言葉に甘えさせてもらうわ。大丈夫かしら?」


「うん、問題ないわよ。付いてきて」


 マナは言いながらユアの背中をぽんっと押した。妹が可愛いのだろう、マナは大人びた顔つきに反してニマニマしている。


 姉妹は横並びで他愛のない話をしながらビジネスホテルへ向かった。


「ところでユア、一つ聞きたいのだけれど」


「はい?」


「あたしが大切にしてた、大きな人形のことって覚えてるかしら?」


「そういえば、ありましたね」


 ユアがそう言うのには理由があった。


「覚えていてくれたのね。何年か前に無くしちゃったあの人形。そう、等身大の女の子みたいな人形」


「懐かしいですね。いつのまにかなくなってましたよね?」


「そうね。父さんと母さんの遺品整理の時にどこかに置いてしまったのかしら」


「帰ったら探してみますか? ま、『お悩み解決』としてお小遣いはいただきますけど♪」


 ユアは百パーセントの営業スマイルでマナに言い放った。流石の姉もドン引きである。いや、姉だからこそなのだろう。


「家族相手に商売持ち込まないでもらえるかしら」


 辛辣に返すとユアは「冗談ですよ」と言いながら一瞬で無表情になった。


「真顔で言わないで」


 話が楽しくなってしまった姉妹はそのまま話しを続けた。ユアがホテルの部屋を確保してギオンたちと合流した頃にはとうに一時間を超えており、ユアはイライラした様子のギオンに頬を握りつぶされることになった。

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