第4話 お父さんは心配性

【もぉ~!おはなしきいてるの?】


 おや、小鬼の天敵ゴブリンスレイヤーズとの会話にかまけて謎の声の事をほったらかしにしていましたね。


「こちらは大丈夫ですから先へ行きなさい」

「でもさん「ご安全に!それから私は支配人ですよ」・・・わかりました、おい行くぞ」


 明智君たち小鬼の天敵ゴブリンスレイヤーズは後ろ髪を引かれるかのような表情で私たちを見ていましたがようやく3階層への石段に消えて行きました。


 ちゃっかりコバンザメ作戦でここまで来たのに稼いだ時間をすっかり浪費してしまったみたいですね、でも君たちには未来がある・・・私と違ってね。


「お待たせしました。

 私は異界取扱事務所、平たく言えば駅前ダンジョンギルドの支配人の権田俵 彦三郎と言いますがあなたのお名前は?」

【え?えーと、あたしはダンジョンちゃん?】


 ・・・何で疑問形なんですか?自分の名前でしょ?


【まなはちからをうばわれるからおしえちゃダメっていわれてるの】


 真名は力を奪われる、ですか。物騒だけど真っ当な親がいたようですね。ダンジョン界隈ではあながちウソとも言い難い金言ですね。


 私は、素直に名乗ってしまいましたが。


 兎も角、何でもありなのがダンジョンなんですから。


「じゃあダンジョンちゃんはいいんですか?」

【はおーのトコのやりめーじんがいいだしたなまえだからいいの】


 はおーのトコのやりめーじんですか・・・たしか『氷結の翼』は『初めての探索者』と『氷結の戦乙女』が立ち上げたパーティーじゃありませんか?そしてさっきのダンジョンちゃんの口振りですと初めての探索者は覇王になっているんでしょうか?


 それから氷結の戦乙女と言えば、元は乙級パーティー『進撃の戦乙女』で前衛を務めた乙級探索者でしたね。絶世の美女にして氷属性の魔槍『グングニル』を縦横無尽に振るって『鬼百合』と共に進撃の戦乙女を女性探索者の頂点に押し上げたとまで言われた人物じゃありませんか。


 確かに『鎗名人』の称号を持っていてもおかしくない方ですね。まだ国から許可が下りませんから今のステータスの確認なんて出来ませんがこのヒトならさもありなんって感じですかね。


 それに加えて初めての探索者がテイムしたグリフォンと雪女という風属性や氷属性に特化したチーム構成で火属性には無類の強さを誇り世界初のダンジョン攻略を成し遂げた『時のヒト』ですよ、ええ。


「では私もダンジョンちゃんと呼ばせていただきましょうか。

 そのダンジョンちゃんが態々わざわざ私を御指名で話し掛けていただけるとはどういう意味なのでしょうか?」

【はおーのトコがおちついたからつぎにとまってるごん、ごんだ・・・むずかしいのヾ(´ε`;)ゝ…】

「古臭い名前ですからね、それではヒコとお呼びください」

【やったー(。→∀←。)!これであたしもおともだちだー(。→∀←。)!】


 いや話が前に進まないんですけど?


 愛娘ミノ子が退屈してないか心配になってちらりと見ると、ミノ子は大丈夫と頷きながら微笑んでくれる。


 ミノ子は、ミノタウロスの種族特性なのか均整の取れた大柄な筋肉質な体つきでそれでいて女性らしさを強調する大きな張りのある胸を包む牛革(のように見える)の胸当てと黒光りのする短冊状の金属を束ねた腰蓑こしみのだけを身に着けた全身褐色の美女・・です。誰が何と言おうとも美女です。


 たとえそれが親の贔屓目だとしても、それがこの子を守るために叡智の極みのリーダーと反目してまでこのダンジョンに居続ける位の意義を持っているのです。


【えーとね、ヒコはなんでここにずーっといるの?】


 ダンジョンちゃんとやらも一頻ひとしきり騒いで落ち着いたのかようやく本題に入ってきました。


「私は元々ポーターで迷宮氾濫オーバーフローを機にミノ子を得て、図らずもテイマーもどきになってしまいました。

 私はこのの親として無責任にミノ子を置いて外に出る事なんて出来ないじゃありませんか」

【つれてけばいいんじゃない?】

「ダンジョンちゃんならワイバーンを飼った男の話をご存知ですよね?」

【せっかくテイムしたのによそのかいそうにあそびにいったせいでたべられちゃったおはなし?】


 ダンジョンちゃんを名乗るだけあってアメリカのダンジョンであった事もちゃんと知っていますか。


「そうです。

 私もその男と同様でテイマーもどきだと認定されています。

 だとすると私がミノ子を外に連れ出そうとしても『異界の壁』が私たちの関係を引き裂いてしまうかもしれないじゃありませんか。

 そうなってしまったらミノ子は、モンスターとしての本能に支配されてこの中で暴れ回って犠牲者を出した挙句に殺処分、当然私も監督不行き届きで投獄される事でしょう。

 そういう不幸を引き起こさない為にも私はこのダンジョンに居続けなければならないのです」

【えー?でもいっしょにここまできてるよね?】


 確かに階またぎで2階層までやってきていますけど、これはもう10年続けてますから今更だと思いますが?


「私はテイマーもどきと見做みなされているんですよ?鑑定結果には勝てませんから。

 正当な理由がない限り、取り締まる側の人間が自分たちが決めたルールをないがしろにするなんて許されないんですよ。

 それが守れないのでしたらダンジョンは愈々いよいよ無法地帯になってしまいますから」


 例え初めての探索者がポーターからテイマーにジョブチェンジ出来ていたとしてもそれが私にも適用されるとは限りません。再鑑定を受ける予定どころか可能性も無い状態で私がテイマーだと保証してくれるものは誰もいないのです。


 ですから私はテイマーもどきだと自分を仮定して行動するしか無いのです。


 それはかつてのパーティーリーダーに対する私の意地と申しますか、矜持とでもいうべきものでしょうか。


 上に立つ者がズルをするなら下のモラルは地にちる。私はそう信じていますから意地でもここにしがみ付いているんです。


【テイマーもどきだったらほかのかいそうにいけないのに?

 ここにきてるんだからおそとにいけるってば】


 ちょっと待ってもらえませんか?傍証だけでテイマーであると決めつけられるだけの権限がダンジョンちゃんにはあるのでしょうか?


 もし外に出られるのだとしても私の魔力で魔素の無い外界にミノ子をいつまで連れだせると言うのでしょうか?消費する魔力はどれだけなんでしょうか?5分持つのか10分持つのか、あるいは5秒で終わりかも知れないんですよ?


 そして私の魔力が尽きた後、ミノ子が破壊衝動に襲われないと誰が保証できるのですか?


 そんな命懸けの実験なんて真っ平御免ですよ。


 ミノ子の寿命がどれくらいかは知りませんが、少なくとも私のせいで殺されるようなところに連れて行きたくはありませんからね。


 天寿をまっとうさせてあげるのが飼い主であり親でもある私の義務ってもんじゃないでしょうか?

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