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「それはさ、他人にバラされるか自分から言いだすかの違いなんじゃない?」
雪穂はドリンクバーの、カルピスとメロンソーダを半分ずつ混ぜたものをストローで撹拌しながら言った。
僕たちはお互いに入学式を終えると、連絡を取り合って地元のファミレスで落ち合った。雪穂は幼馴染で、お互いに最も気の置けない友人だ。
「もちろん推測に過ぎないけどさ、例えば中学では誰かに秘密がバレちゃって、こそこそ噂される状況だったとか。だから高校では開き直ってやろうって思ったんじゃない? なんていうか、そういうのが自分発信かどうかって、結構違うんじゃないかって気がする」
そんなものだろうか。僕にはいまいちぴんと来なかった。
「それに担任のいるところでぶっちゃけちゃえば、仮に何かあったときに相談しやすくなるじゃない。担任も事情は分かってるんだから」
その説には一定の説得力があった。
「それにしても入学初日に本物に会えるなんてねえ」
雪穂はその童顔に似つかわしくない、下衆な笑みを浮かべた。そう、彼女はボーイズラブの熱心な読者で、男子校に進学する僕にホモがいたら報告するように命じていたのだ。
「しかもイケメンなんでしょ? いやー、ほんと、ご馳走様ですって感じ。攻めなのかな、受けなのかな」
僕の脳裏に箭内くんの顔が思い浮かぶ。彼が「そういうこと」をしていることを想像する。雪穂に今まで何冊も「布教」と称して読まされた漫画を思い浮かべる。だけれどそれはやはり漫画の中の話で、目の前に実際に存在した箭内にそれを当てはめようとすると、どこか歪な感じがしてうまくできなかった。
「なんにせよせっかく席も近いんだし、仲良くならない手はないよね」
どこかウキウキした表情で言う雪穂の言葉を聞いて、僕の脳裏に今日のことが思い浮かんだ。
——話しかけたら何されるかわかんねえし。俺までホモ扱いされそうじゃん。
きっとそれを差別と言うのだろう。中学でもそんなことがあったのかもしれない。だけれど自分もまた同じ思考回路に嵌っていることが心底嫌だった。
「仲良くなってあたしに紹介してよ」
そんな僕の懊悩なぞ知らず、雪穂はそう命じるのだった。
結局その後、雪穂の学校の話などをしてだらだらと数時間ファミレスに居座った。
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