298:一合目の反省会をする

 女神さんは降臨するなり、小さく息をついた。


『やられたね』


 まずは先程の一合についての反省会からか。


(うん。もし島民たちも操られていて、会場で囲まれたら……というところまでは想定できてたんだけどね)


 昨夜、そして今朝の作戦会議でも、その懸念はみんな口にしていたし。そしてその時用の準備(十分量の光石とカゴの中の転移装置)はしていたんだけど……


『読まれていたんだろうね。光を吸い込むスライム、恐らくは進化個体だろうけど。キングと手を組んで、対抗手として準備されていた』


 決戦に向けて準備を整えていたのは俺たちだけではなかったということ。

 そもそも、最初に転移装置を使っていたのはキングスライムだ。そこと組んでいる可能性が高いと分かっていたのだから、こういう対策を取られていることまで考慮すべきだった。


(一合目は完敗か)


『まあ仕方ないよ。スライムの進化系統はキングだけの独占知識だからね。あらゆる進化体を想定するのは難しい』


 まあそうかも知れんけど……つくづく厄介だな。完全に萌えゲーの範疇超えてるだろ。IQバカ高い生物とか岩に助けられてることもあるから、一概に批判する気も無いけど……低能ライターらしい大味な発想だなとは思う。


(ちなみに、今も全く安全じゃないってことになる?)


『その気になればキングたちは、この妖精郷に攻め入ることは出来るだろうね。だけど、闇の力を使っている床オナ畠山や、その影響下の連中は来ないだろうね』


(何故?)


『古今東西、闇属性は光に弱いってのが常だからね。現に、クローチェを見てごらん』


 言われて、改めて小聖樹の方を見やると……主枝まで登ったが下りるのが怖くてオロオロしているクローチェの姿が。見たまんま、猫だな。


(強い光を浴びて錯乱して……確かに様子は豹変した)


 つまり闇の軍勢は、転移のカラクリは知っていても、それを自分たちは実行できない(してもあの有様)ということか。

 

『全部ダークスライムに進化させずに、敢えて進化前のレア個体を残しておいたのも、自分たちでは光に対処できないから。そう考えるのが自然だね』


(なるほど。昨夜の農園攻防戦で削り切れなかったのも響いてるワケか)


 あの中にレア個体も紛れ込んでいたんだろう。というか、あの大群はやっぱりレアたちを守るための肉の壁だったのかも知れないな。キングの性格からして、そういうこと平気でやりそうだし。


 とにかくまあ、闇の軍勢はここには来ない。そしてスライム王国も攻めより籠城の方が得意なタイプだし、恐らく襲撃の選択肢は一番下だろう。

 当座は安全と考えても大丈夫そうだ。


(……他のみんなはどうなったかな?)


『うん、そう言うと思って見てきたよ』


 おお、流石は女神さん。やる気がある時は、マジで素晴らしいな。


『まずシェレンとハス貸しは、どうやらホーヒーたちが背中に乗せて逃がしたようだね』


 ホーヒー! ヘシカ! オマエたち最高だよ。全部終わったら、たらふく美味いモン食わせてやろう。


『現在は、丘を移動中。北西のウロ穴まで届けてくれようとしてるんじゃないかな』


 賢い。マジで天才。もう屁もウンコも好きなだけしたら良いよ。ウィドナの家の前で。


『ニチカとアティも逃げきったみたいだね。こっちは広場すぐ近くのセイリュウ2層へ駆け込んでる。龍魚と合流できれば、まず負けは無いでしょう』


 うん、正しい選択だな。流石はウチのシゴデキコンビ。


(フィニスは? あとフィニス家と、アティ家の面々は?)


 そう訊ねると、スッと空気が変わるのが分かった。これは……


『捕まったみたいだね。牢に連れて行かれてる』


(……っ!)


 心臓がドクドクと鼓動を速める。嫌な汗がブワッと噴き出てきた。

 思わず大声を出しそうになったところで、


『落ち着いて。無事だから』


 女神さんの静かな声に制された。


「……ふううううう」


 大きく息を吐く。そのまま深呼吸。吸って吐いて、吸って吐いて。


『うん。それで良い』


 女神さんの声は先程と打って変わって優しかった。

 落ち着け。大声を張り上げて錯乱してたって、なんも変わらん。


(本当に何も酷いことはされてないんだね?)


『うん。向こうも人質のつもりだろうし、何より萌えゲーだからね。えげつない拷問とかは出来ない仕様だよ』


 そんな仕様があるのか。だったら最初から、異物も排除する仕様になってて欲しいモンだが。


『無理矢理に入り込んだんだろうね。ただもう、流石にこれ以上この世界の理を歪める力は無いハズだよ』


 それならまあ、助かるけど。いわゆる萌えゲーの範疇を超えるような暴挙は行えないということだね。


『それに何かをするにしても、ヤツには自分の体が無いから、ウィドナかエレザないしコレッタを使うことになるんだろうけど』


 思わず想像してしまう。エレザがフィニスを叩いたりする


「……」


 想像しただけで吐き気を催すレベルだ。もしそんなことを強制させやがったら……


『大丈夫だと思うよ。洗脳も完全じゃないのは見ていて明らかだ。エレザにしろ島民にしろ、ボーッとしている時間も多かっただろう?』


(それは確かに)


『元々、大した素地が無いのに無理にダークスライムを憑依させているモンだから、完全に本人の意思にそぐわないことは出来ないと思うんだ。選挙で反対票ではなく、白紙票が大多数を占めたのが良い例だろう』


(なるほど。アレも、賛成と書かせないところまでで精一杯だったと考えられるワケか)


『ダークスライムで闇の力をドーピングさせて、ようやくあの状態だからね。畠山の力は本当にかなり弱まっていると見て良いと思うよ』


 もう搾りカスに近いのかも知れないな。それでいて、あの執念。おぞましいな。


『とにかく、今すぐフィニスたちがどうこうなる危険は無いから、焦らずに作戦を立てるべきだね』


 その言葉に頷いて返し、俺は思索を巡らせるのだった。

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