296:黒いモヤの正体は
――ははははは!!
哄笑が響き渡る。これも俺にしか聞こえていないのか。
いや、
『アキラ!』
もう1人聞こえている人、いや女神が居た。
(女神さん!)
凄いタイミングで帰って来てくれた。
『待たせたね。時間はかかってしまったけど、色々と分かったよ』
そう呟いた後、女神さんが黒モヤの方を見据えたような気配を感じる。
『ヤツの名前は……
メッチャ嫌な二つ名で呼ばれてるな……
『キミを殺したエロゲ、「爆乳ハーレム島の錬金術師」その持ち主だよ』
(な!? それって! あのトラックに轢かれたオタクか!)
男の声だし、俺と同じく転生者なのかも知れないと予想はしていたが。まさか、そんな偶然って……
『偶然じゃないよ。輪廻の輪から抜け出し、この世界に無理矢理やって来たんだ』
(そ、そんな)
衝撃的な事実の連続で、俺はすっかり言葉を失ってしまう。思考が追いつかない。女神さんたちの管理を掻い潜った? ただのエロゲーマーじゃないのか?
『ただのエロゲーマーだよ。ウチの大天使が杜撰な管理をしていて逃がしたみたいだ』
(あ、あの性格に難アリの?)
『うん。天使長に指摘されたら、休みが少なすぎて過労だったからだとかワケの分からない逆ギレかまして泣き叫んでるよ』
(うわあ)
女神さんも付き合う相手は選んだ方が良いと思うけどね。
『なんか私しか友達居ないし、見捨てたら死ぬからとか言われるし……』
メンヘラムーブかあ。キツイなあ。
……実際、今はそれどころじゃないんだけど、ある意味、女神さんとこういう平常運転な会話が出来たことで少し気持ちも落ち着いてきたよね。
『とにかく、ヤツは自身の存在力とでも呼べるような最後の力を使って、この島に上陸し、ウィドナに取り憑いたみたいだ』
もうヤツは輪廻の輪には帰れないほどに力を使ってしまっているということだった。人間1人の未来永劫の存在力と引き換えに、あれほどの強大な力を行使できているということ。
……そこまでして、どうして。
『本来なら、自分がお愉しみ出来たハズのゲームだ。自分が転生できると期待したんだろうね』
それは、うん。紙一重だったんじゃないかとも思うけどね。ぶつけられて死んだ方が、より面白かったから。女神さんに気に入られたかどうか、それだけの差異でしかない。
『……いや、実際それだけでも無いんだけどね』
(え?)
『っとと。そろそろタイムが切れるよ。さあ、動き出したら目まぐるしいハズだ。気を付けて』
気持ちを切り替え、再びのセフレ島へ。
すると女神さんの言う通り、事態は急激に動き出していた。
「民意は示サレタ。俺の勝ちダ」
もはやウィドナの声に、畠山の声が被さって聞こえる。「俺」とか言ってるし、隠す気も無いのか。
「床オナの畠山……」
「ヤハリ俺の話も聞いているのカ。俺から主人公の座を奪うダケでなく、超常存在の加護マデ……アア、憎い。憎イゾ」
ウィドナの顔が醜悪に歪む。傍のロスマリーが「ひ」と小さな悲鳴をあげて後ずさった。
「俺はアンタの持ってたエロゲが飛んで来て死んだんだ。キレたいのはこっちだぞ」
「本当は俺ガ、俺ガ、女どもを好き放題でキたハズなのに……!」
ダメだ。もはや理性的な話し合いなんて出来る段階じゃないようだ。
「セメテ体があれば……! ようやく操れたと思っタラ、ババアの体を不完全ニ借りるダケ……!」
自身の頭を掻きむしり始めるウィドナ(イン畠山)。血が出ても構わないという程に、頭皮に強く爪を立てていた。
「や、やめろ!」
「やめてください! おばあ様! 一体何を!」
駆け寄ったロスマリーだったが、止めようとした手を激しく弾かれる。パチーンと、鋭い音が響き渡った。
「触るナ! ビッチが! 俺以外の男と密会しているヨウな女なんぞ要るカ!」
コイツ……!
さっき女神さんが言いかけてたのは、こういうことか。自惚れるワケじゃないけど、俺かコイツ、どちらかをこのセフレ島に転生させるとなれば、俺が選ばれたのは必然だ。僅かな運命の歯車の差とかではなく、こんなヤツは萌えゲー主人公にはなれない。もちろんウチの可愛いヒロインたちも渡せない。
「クソッ! クソッ! もう良イ。こんなクソゲー!」
コイツはヒロインたちのことを、生きた人間として扱っていない。この世界にしたって、ただの箱庭くらいにしか思っていないんだ。
『エロゲーマーには誰しもそういう側面はあるけど、ここまで酷いとね。とてもじゃないけど、与えられないよ』
そういや。転生したての頃、女神さんに何度か「女の子を泣かせるようなガチで酷いことはするな」的な釘は刺されてたな。つまり「コイツのようにはなるなよ」ということだったんだろう。
『動くよ!』
鋭い忠告と同時くらいに、
「取り押さえロ! クローチェ!」
床オナの畠山が、ウィドナの声で叫んだ。それを合図に、どこに潜伏していたのか、黒い影が飛び出してくる。
「アキラ!」
壇上すぐ手前まで寄せていた仲間たちが大声で俺を呼ぶ。すぐさま後ろに跳んで、段を飛び降りた。間髪入れずに、
「えーい!!」
「それ!!」
母娘が動いた。ポーラが俺の背中のカゴに手を伸ばし、覆っていた布を取り払う。そしてシェレンさんが中空に光石を20ほどバラ撒いた。既に袋越しに叩いているおかげで、それは眩いばかりの光を放っている。後は俺のカゴに入っている転移装置を掲げるだけ。
「悪いが緊急脱出させてもらうよ」
この数に囲まれては分が悪いにも程があるからね。あと、あわよくば周囲の何人かを妖精郷に巻き込み転移できれば、その人たちには退魔の光筒を当てて正気に戻してやる。そういう皮算用で居た。
――が、それは叶わなかった。
「キング!」
ウィドナのしわがれた声が呼ばう。
果たして、彼女の後ろからキングが現れ……更には木立から大量の何かが降ってくる。
「な!?」
スライムだった。そしてソイツらは空中の光石に取りつき、光を吸収してしまう。
そして瞬く間に、全ての光石が連中の腹の中に収まった。
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