67:待ち人、現れず

「あー! やっと帰って来たんだよ! 遅いんだよ!」


 家の前で待っていたポーラに見つかると、途端に怒られる。想像通りの展開に苦笑しながらも、横抱きにしたカラスギを地面へと置いた。その幹肌に滝のような汗が滴り落ちる。新調してもらったばかりのズボンも木屑やら何やらでドロドロだ。


「その木……」


「ああ、カラスギっていうらしい」


 烏木? 唐杉? 運んでいる間、当て字を色々考えてみたけど、ちょっとよく分かんない木材。杉みたいなニオイもするんだけど、それにしては重たく硬すぎるという。


「高級木材ね」


 シェレンさんも家から出てきて、幹を見るなりそう言った。


「山道が結構狭くて危ない場所と聞くわ。1人で行ったの?」


 少し咎めるような声音。基本的にどこへ行って何をするのも自己責任という島の風潮だが、心配はしてくれる。特に家族なら。


「……すいません。ちょっと、どうしても欲しかったもので」


 俺はエレザの様子と、胸に当たらないタイプの弓矢(正確にはスリングショットだけど細かい説明は省いた)、そして巨大豆と醤油の話まで、全て話した。


「そう……ウィドナさんが」


「エレザとウィドナって人は……」


「私から話すより……多分、アキラならキチンと向き合えば彼女本人が話してくれると思うわ」


 そう、だよな。他の人から聞くのはダメだよな。アティの未来視だって本人から話してもらって、それで距離が縮まったんだから。


「分かりました。行ってみます」


「レンガの方は、私たちでやっておくから……頑張るのよ」


「はい」


 えー、と不満げなポーラの頭を軽く撫でて、ゴメンネをして。

 俺はエレザの家へと向かった。





 

 コンコンと玄関ドアをノックして、待つこと10秒、20秒……1分ほどが過ぎた頃、ようやく中から開いた。ヨレたシャツを着て、ポニテを解いた無造作ヘアのエレザが藪睨みのような目でこちらを見ている。寝起きのようだ。いつもと違って野暮ったいのに、どこか退廃的な色気がある。


「……なんの用だ」


 起こされた上に、先程も微妙な別れ方をした相手とあってか、エレザの声に優しさはない。


「これから錬金をするんだ」


「……」


「エレザも気に入ってくれると」


「私は疲れていると言ったハズだが」


「えっと」


「寝る」


「あ、待って」


 とりつく島もないとは、このことか。エレザは黙ってドアを閉めてしまった。


「ビャッコの森で待ってるから! 必ず来て!」


 聞いてくれたかどうか。足音ももう聞こえないから、完全に奥に引っ込んでしまったんだろう。

 ……これで良かったのか。咄嗟にアレしか言えなかったけど、弓矢を作るんだとアピールすべきだったような。不機嫌オーラに気圧されて、機転が働かなかったか。


「はあ……」


 仕方なくエレザ宅を後にする。そのままアティの家へ。彼女との別れ際、セフレバンブーの端材はタダで譲ってくれると言ってたんだよな。カラスギと違って、島に多く自生しているし、軽くて採取も容易ということで、廉価らしい。いちなんかで使われていたカゴも、この木を編んで作られているとのこと。まあつまり、俺の知る竹とほぼ同じものだろう。


 庭先に居たメロウばあさんに許可を得て、余ってる竹材を頂戴する。

 自宅の裏手まで戻ると、釜を展開。そこに今しがたゲットしたセフレバンブーを投入。置いてあった残りの素材(フワリ鳥の尾羽、ゴムツタ、ゲンブ鋼石)もブチ込んだ。カラスギの幹は既に呑ませてあるので、これにて素材はコンプリートのハズ。

 と。釜の上に「!」マークが浮き上がった。よし。


「頼むぞ。良い出来になってくれよ」


 木の棒でグルグルと七色水を掻き混ぜる。数周したところで、


 ――ピコーン


 完成だ。飛び出してきたそれは……全体的に三角形のギミック。厚い木の土台と、そこから伸びる2本の細工。その両端をゴムツタが通り、引き手側にダランと垂れている。このゴム部分に矢を宛がい、引っ張って発射する感じか。矢の方も、竹のしなやかさと頑丈なカラスギの性質を併せ持ってるような、不思議な質感だ。数は10本ほど。無くなったら矢だけとか作れるんだろうか。


「取り敢えず、これを持って……」


 ビャッコの森で待とう。さっきの様子では難しいかも知れないし、流石に無限には待てないけどね。俺には2週間のリミットがあることを考えれば、今日中に醤油の目途はつけたいから。

 

 家で貰ったおにぎりを頬張りながら、森の入口へ。思えばこの1層エリアも大して探索は出来てないんだよな。もしかしたらゴムツタみたいに新たな素材を含んだ動植物が潜んでるかも知れない。まあそれを探す余裕はないんだけどね。


「……」


 13時40分。待てるのは……最大で2時間くらいかな。それ以上だと少し苦戦した時に密林地帯で日が暮れる事態になりかねない。それは恐らく超危険だ。昼間はあまりモンスターや野生動物と遭わなかったけど、夜となるとまたガラリと生態系が変わるのが自然界というもの。

 

「……」


 それから1時間が経ち……1時間半が経ち……


「やっぱりダメか」


 現実は物語のように都合良くはいかないみたいだ。いやけど、これゲームなんだし、もっと空気読んでくれても。とも思うが、嘆いてても仕方ない。


「悪いけど、先に使わせてもらうよ」


 というか、俺のプレゼントなんて要らないんだろうしな。

 なんか今更ながらに、理不尽さにモヤモヤがこみ上げてきた。いきなり不機嫌になって、説明もナシに俺にも責任があるとだけ。プレゼントは……まあこれは俺が勝手に企画しただけだけど、それに関する話も聞いてくれなくて。なら待ってたら来てくれるかと思っても、この有様。


「まあそもそも。プレゼントと言いながら、代わりに撃ち落としてもらえたらという下心もあった時点で、俺が悪かった。他人を頼ってても仕方ない。俺の選挙なんだし」


 頭を切り替える。

 そしてリミットの2時間を待たないまま、密林地帯へと足を踏み入れるのだった。

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