66:高級木材をゲットした

 地図を見ながら丘を北西へ進んで行くと、そのまま岩山へとぶつかった。地理的にはゲンブ岩石地帯の西側になりそうだが。聖樹様の北側は平地の岩石地帯で、その西側は山になっているってことか。意外とアップダウンのある島だよな。


「てか道が狭い」


 岩がせり出していて、登山道を圧迫してる。下は斜面になってるし、転がり落ちたら岩肌に体を削られてミンチまであるだろうか。ブルルと胴震いしてしまう。

 まあでも行くしかない。繰り返しになるけど……スリングショット→巨大豆問題解決→醤油ゲット→寿司提供→支持率アップ。ここまで全部繋がってるからな。それにスリングショットや醤油は、エレザやシェレンさんに恩返しする意味合いもある。


「なんとしても手に入れないと」


 改めて気合を入れ直し、山道を行く。幸い、道自体は崩落しそうな雰囲気はない。道幅も狭い(車は軽でも恐らく通れない)けど、普通に歩く分には恐怖で足が竦むほどではない。


「はあ……はあ」


 螺旋を描くように山の上を目指していく。丘からは地続きで中腹に合流する感じたったけど、地上(ゲンブ岩石地帯の平野部)からだったら、もっとキツイんだろうな。


「ふう……ふう」

 

 更に20分ほど登った。脇腹が痛い。

 ……まだかな。この頂上付近にカラスギは群生しているという話だが。


「お」


 愚痴ってたら、ちょうど見えてきた。頂上だろうか。螺旋の先は平たいフロアのようになっていた。そこに緑が茂り、木も生えていた。自然って不思議だよなあ。ここまでほぼ完全に岩だけで、チロッと雑草が生えてるくらいの不毛地帯だったのに。

 

「取り敢えず、レシピ帳」


 アポートで取り寄せたレシピ帳を開く……までもなく、呼応して木々が僅かな虹色を帯びているので、間違いなくカラスギのようだった。

 良かった。実在した。もちろんアティを疑ってたワケじゃないけど、岩肌続きの行程に不安を覚えていたのも事実。だから実際こうして現物を見つけてホッとしていた。

 とはいえ、いつまでも気を抜いてる場合じゃない。ポーラたちが半ドンで帰ってくるまでに終わらせておきたいしな。


「さて……どれを切ろうかね」


 なにせ労働力は俺だけだからな。あまり太いのと戦うのは難しい。うーん。

 ……お。若木に近いのがあるな。稚魚と一緒で、こういうの採るのはマナー違反かも知らんが、言うてられん。レシピ帳で再度確認すると、その木も虹色に光ってるし、素材としての要件は満たしてるっぽい。


「ごめんな」


 なんとなく謝りながら、そいつにノコギリの刃を当てた。


 ………………

 …………

 ……


 まあ結果としては、全く謝るような相手ではなかったよね。互角以上の死闘を繰り広げることになったのだから。


「クソ硬かった……」


 汗だくになりながら、1時間半。ようやく倒したんだけど……腕はパンパンだし、指先はアカギレみたいになってる。

 若木でこれなら、成長した大木クラスはチェーンソーでも駆り出さんと無理かも知らん。


「はあ……はあ……ポーラとシェレンさん」


 もう帰ってるな、これ。ほんで約束したのに俺が居ないってんで、ポーラが膨れてる。見てきたように想像できるわ。思わず口元が緩む。孤独な作業だったし、少し心細かったのかも知れない。


「よっこいせ!」


 ちなみに若木とはいえ、恐らく2メートル近くあったので、半分ほどにカットしたものを持ち上げる。けどもう半分も勿体ないよなあ。


「……これ、釜をアポートで呼んでブチ込んどけないかな?」


 ポーラのオシッコの時は大丈夫だったし、イケるとは思うけど。

 まあ悩むよりやってみよう。ダメでも流石に壊れはしないでしょ。というワケで釜を呼び寄せる。瞬時に現れたその黒鉄の相棒の中へ、若木の幹を垂直に下ろしていく。


「釜のサイズ的に厳しいか?」


 幅はギリ通りそうだけど、深さは絶対無理だよな。もっと短く切らないとダメか。と、諦めかけたその時。ズブズブと七色の水が幹を呑み込んでいく。え? なんか……入りそう。


「マジか……四次元空間なの?」


 沈めていく。明らかに鍋の深さを超えた丈を呑み込んでしまった。そのまま底なし沼のように、どんどん沈んでいって……


 ――トプン


 と、最後に小さな水音を立てて、幹は丸々水の中へ消えてしまった。なにこれ怖い。もし誤って中に落っこちたりしたら……いや、やめよう。想像しただけでタマがヒュンってなったし。


「ほんでここに置いて行って、家に戻ってアポートしたら……」


 超絶便利アイテムだった件、ってなるな。


「ちょっと怖いのが、モンスターとかが居そうな場所に置き去りにしてしまうと、ぶっ壊されるかもっていう」


 モンスターに限らず、それこそ鹿などに蹴倒される可能性も。

 もし釜を壊されたら……ゲームオーバーっすかね? あるいは不思議パワーで守られてて壊れないとか?


「試せるワケもないからなあ」


 危惧した通り、破壊可能で更にそれでゲームオーバーになるなら、斬新すぎる自殺だ。


「女神さ~ん」


 呼んで少し待ってみたが、一向に返事がない。

 こういう判断に困った時は、概ね呼ばなくても来てくれる彼女が全く気配ナシの時点で、なんとなくダメかなとは思ってたけど。別作業で忙しいか、他の管轄世界に行ってるか。まあしゃーない。こういう時もあるよね。


「取り敢えず、木を切ってる間はモンスターも野生動物も来なかったし……大丈夫だと信じて置いて行こう」


 ほんで10メートルおきくらいにアポートで呼びながら帰ろう。流石に10メートル離れている間に何かに壊されたら、それはもうそういう運命だったと諦めるしかない。

 というワケで、小刻みに釜を呼び寄せつつ。残り半分のカラスギを抱えて、鈍亀みたいな歩みで家路を辿るのだった。

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