49:なんでもするらしい

「ポーラ。俺が必ずルナストーンの欠片を持って帰ってくるから」


 静かに。確定事項かのように、告げていた。実際、ストンと覚悟が固まってるんだよな。自分の人生の中で、これほどまで「必ずやる」と決めたことはない気がする。結局、男が本当に腹括るのって、可愛い(容姿だけの話じゃなくてね)女の子を守りたいって時だけなのかもな。日本ではそんな相手に巡り会うこともなかったから、知らなかったけど。


「でもでも。手掛かりは」


「……実はね。手掛かりどころか、もう手に入れる寸前まで行ったんだ」


「え!?」


「でも、ちょっと厄介な敵が居てさ。そいつを倒さないといけなんだ」


「ええ!? あ、危ないんだよ!」


「大丈夫。えっと……弱点を調べて、必ず倒すから」


 弱点を調べてくれてるのは女神さんだけどね。脇ペディアに載ってることを祈るが……最悪はナシでも戦う所存だった。


「男には引けない時ってのがあるんだ」


 俺自身、今さっき悟ったクセに、さも昔から知ってる真理みたいな口調で言ってて、自分で苦笑しそうになるが。

 けどまあ。行くしかないよな。こんな可愛い妹分を傷つけられて黙ってられない。必ず欠片を持って帰って、クソババアの鼻を明かしてやる。


「おとこ……不思議な響きなのに……なんだか胸の鼓動が速くなるんだよ」


 キュッと更に強く抱き着いてくるポーラの背を優しく撫でたところで。


 ――キュルル〜


 俺の腹が鳴った。う、うわあ。締まらねえ。

 シェレンさんが噴き出し、ポーラも釣られて笑った。まあ2人が少しでも笑えたなら、良かったよ。そう思うことにする。


「お昼、まだだったわね? おにぎりを置いておいたのだけど」


 ああ。臨時休校にする前から、俺の分の昼食も作り置きしてくれてたらしい。やっぱあったかいなあ、この家は。


「ありがとうございます。是非、いただきます」


 そうして、俺はおにぎりを頬張り(塩むすびに魚のほぐし身が入ってた)、腹ごしらえを終えた。


 ………………

 …………

 ……


 食後。トイレに立ったついでに、女神さんを呼び出すが……1分くらい経っても来ない。しゃーない。先に小便しとくか。


『……はい、お待たせ。って、なにチンコ出してんの……?』


 ドン引きしたような声音。ああもう。タイミングが悪いな。


『は! まさか私に見せつけるために?』


(ちげえよ。どんな変態だよ)


 てか、用件くらい分かってるでしょ。


『あはは。ガーゴイルの弱点だよね。見つけたよ』


 腋ペディア優秀。


『レシピ帳を出して』


 言われた通り、手を前に。


『チンコはしまって』


 あ、これは失礼。


 アポートで掌に収まっていたレシピ帳を、気持ち空に掲げるように。するとひとりでに浮き上がり、ページが捲れる。

 自動筆記が終わると、ストンと掌に落ちてきた。




 ====================


 No.6

 

 <破邪の聖水>


 組成:聖樹の樹液×乙女の黄金水(術者採取必須)


 内容:清廉なる素材で組成された水。邪悪なるモンスターを穿つ聖属性を持ち、その効果は敵の物理防御力に左右されない。


 ====================

 



 乙女の黄金水、術者採取必須、清廉なる素材。

 あっ……ふーん。


『流石はエロゲだね。押さえるべき所はちゃんと押さえてる』


 意訳すると……乙女のオシッコを術者(俺)が直接採取しないといけない、ということか。どうかと思うよ、そういうの。デュフフ。


『嬉しそうなところ悪いけど、樹液は意外と採取難度が高いかも知れないよ』


(まあね。樹皮を傷つけて出すワケにもいかないだろうしね)


 枯れ枝を数本失敬するくらいならまだしも、御神体に攻撃はマズい。


『そして黄金水の方も……誰に頼むかだけど』


(ああ、うん)


『こういうのは大抵、乙女=処女ってのが暗黙のルールだよね』


 まあ、ありがち。龍神への生贄だったり、バンパイアが好む血の持ち主だったり。


『けどこの島は……経産婦すら処女だからね。誰でも良いと思うよ』


 そうなんだよな。本当、凄まじい島だ。


「素材のために、体を張ってくれる人か」


 そう呟いた時、ガサガサと近くの茂みが揺れた。そして、そこから誰か出てくる。

 よく見慣れた、茶色と緑のツートンヘア―が見えた。


「ポ、ポーラ!? どうしたの?」


「あまり遅いから心配で見に来たんだよ」


 小便と言って出て行ったのに、時間をかけすぎたか。


「それよりもなんだよ。話……なんとなく聞こえたんだよ」


「え……?」


 何を言ってるんだ。ここには女神さんと俺しか居ないし、話って……


『これは驚いた。ポーラ、私が分かるの?』


「うーん。誰か居るような。声が遠く小さく聞こえるような」


 ま、マジか。


「牢屋の時も、なんとなく気配みたいなのを感じたんだよ」


『ふうむ。あの時からか。ポーラはスピリチュアルな方面の素養があるのかな』


 霊感みたいなモンか。


『ポーラ。私の声が聞こえる?』


「えっと。あ、聞こえたんだよ」


『繰り返してみて。アキラは童貞』


「アキラはドーテー」


 やめろや。

 けど、本当に聞こえてるみたいだな。すげえ。


「ところで、ドーテーって?」


『戦いに備える戦士のことだよ。時に備えすぎてしまうキライがあるけど』


 バカにしてるよな? 確実に。


「おお。アキラは今まさにドーテーなんだよ」


 いや、戦いってガーゴイル戦のことじゃなくてね。

 ……ったく。女神さんは絶妙に協力と悪ふざけを織り交ぜてくるよな。協力だけだったら、もっと感謝効率も良くなるだろうに。

 

『それで話を戻すけど……ポーラには私とアキラの話が聞こえてたんだよね?』


「う、うん。途切れ途切れだけど。島の誰でも良い。素材のために体を張れる人……そこだけはハッキリ聞こえたんだよ」


 お、おう。見事にオシッコとか術者採取とか、大事なところが聞こえてない。

 そしてそのまま、


「ぼ、ボクが協力するんだよ! 元々、ボクのためなんだし。なんでもするんだよ!」


 そんな申し出をしてくれたのだった。

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