47:お宝を目の前に

 遺構らしき物は、幅100メートルほど、奥行きも恐らく同じくらいというスケールだった。城にしては小さいし、やっぱり神殿ないし権力者の豪邸とかかな。というか、


「この島って、古代に栄えてた文明とかあるの?」


「いや。聞いたことがないな。ただ歴史は結構あると、シェレンせんせ……シェレンさんに教わった」


 なるほどな。

 ちなみに今の言い間違いから、どうやらエレザはシェレンさんの元教え子らしいということが分かった。


「まあ……ただの雰囲気作りのオブジェという線もあるか」


 再三になるが、ここはエロゲワールドだ。島の外の設定すらないんだから、島の過去とかも設定してない可能性は大いにある。


「雰囲気? オブジェ?」


「あ、いや。何でもない。行こうか」


 いよいよ、遺構の敷地内に入る。ボロい石造りの床は、所々敷石が引っくり返っていて、非常に足場が悪い。


「大丈夫か〜?」


 敷地の外で待っているエレザから声が掛かる。


「大丈夫〜!」


 実際、拍子抜けするくらい何もない。内壁や、ドアの残骸を見るに、やはりかつては人の使う建物だったんだろうが。

 ドアは開ける勇気(開けた途端、崩壊しそう)はないので、迂回して回り、やがて。最奥の部屋へと辿り着いた。その中央には……宝箱が置いてある。


「エレザー! こっちだー!」


 外からも回れるんじゃないかと。

 当然、半壊した建物内を進むより速くエレザが回り込んでくる。窓のような穴から、そっと覗き込んできた。外壁は……高いな。この部屋は内外とも結構朽ちずに残ってる感じだ。


「例の宝箱が……それか?」


「多分ね」


 アティの未来視は凄いな。ガチのマジであるんだもんな。


「開けてみるか?」


「まあ、ここまで来たからにはね」


 さてさて。鬼が出るか蛇が出るか。かがんで床に膝を着いた、その時。


「ん?」


 上空に影がよぎった。何か……居る。


「アキラ! 上だ!」


 エレザも気付いた様子。と、同時。


 ――ギギャー!!


 耳障りな鳴き声を聞く。振り仰ぐと……


「鳥……いや! ガーゴイルか!?」


 石で出来ていると思しき灰色の体。獣のような四本脚で、背中から翼が生えていた。ゲームでよく見るヤツだ。宝を取ろうとしたら動き出したり……


「あ、それが今の状況か」


 まさしく、だった。

 ガーゴイルが降下してくる。エレザの方には目もくれず、この部屋へ。シャベルを構えるが、その切っ先がかすかに震えていた。まあな。ファイティングフラワーとは桁違いの危険度だもんな。そりゃ、数日前まで現代日本でほとんど暴力とは無縁な生活をしてた身なら、こうなる。


「アキラ! クソッ! 遠距離武器があれば」


 エレザはグルリと建物の外を周り直すようだ。ただそれから改めて内部を進んでくる頃には、俺とヤツの決着はついてるだろう。


 ――ギャギャ!


 近くまで降りてきた。

 ……意外と小さい。ゴールデンレトリバーくらいか? まあ、大型犬なんかは、本気になれば余裕で人間殺せるらしいけどな。


 それに。

 豚を思わせる醜い顔の下部、ガバッと裂けた口元から覗く鋭い牙。そして両前足についた鋭利な爪。どちらも、マトモにもらえば命に関わりそうだ。


「……」


 ガーゴイルは宝箱を背に守るように降り立ち、ジリジリと距離を詰めてくる。俺の方も後ろに下がっていく。刃物を持った相手と同じか、それ以上の脅威だもんな。本能が勝手にそうさせるんだ。

 だがそこで。


 ――ギギャー!


 ガーゴイルが鳴き声をあげながら、突進してきた。軽く宙に浮いているようで、かなり速い。

 俺の口からは情けない悲鳴とかが出るかと思っていたんだが、いざこうなると、現実はひたすら無言だった。声なんて出せる余裕がない。


 シャベルを突き出す。頭部だとしゃがんで避けられる可能性があるので、喉元辺りを狙って。


 ――ギャ!?


 ガーゴイルが急減速。そして爪をクロスさせるようにして、防御する。金属と硬いものがぶつかり合う耳障りな音が鳴った。


「っ!!」


 そのまま押し込む。ガーゴイルは体勢を崩したらしく、仰け反り、そのまま空へ退避した。俺はその隙にクルリと背を向け、一目散に逃げる。マトモにやり合ったら、危険すぎるという判断。


 時折、振り返りながら。猛ダッシュで次の部屋、更に次の部屋へ。

 ……ガーゴイルは追ってこない。


『どうやら……さっきの豆の木と同じで、侵入者を遠ざけることが目的だったみたいだね』


(なるほど。というか、女神さん。居たんなら何かアドバイスとか……)


 いや、やっぱ良いや。戦闘中に言われても無理だったろうし。


『ふうむ。しかしこんな序盤で、これほど手強い敵が出るハズないんだけどねえ。やっぱりシナリオが変わってるんだろうか』


 だよね。速さ、力、そして牙や爪の鋭さ……明らかに初ボスにしては難易度が高すぎる。ましてエロゲなのに。


(あんなモンスター、女神さんに貰った地図帳兼モンスター見本みたいなのには載ってなかった)


『まあ、アレは説明書の延長みたいなモンだからね。後で腋ペディアで調べてみるよ。ガーゴイルの弱点とか』


(ああ、それはガチで助かる)


 モンスター図鑑代わりに女神さんを使うってのも、少し気が引けるが。さっきの攻防を経た後だと、言うてもいられん。ガチで1歩間違えたら最悪の結果を招きかねない。


「てか、本当に追ってこないんだな」


 ということは、最悪ヤラれそうになったら、撤退の意思を見せれば良いのか。

 と、そこで。前方から足音。すぐにエレザの姿が見えた。


「アキラ! ああ、無事だったか」


「うん。なんとかね」


 意外にも動けたからな。スライムやファイティングフラワーとの戦闘経験も活きたか。

 安堵したエレザの顔を見て、俺も遅ればせながら無事の喜びを噛み締めるのだった。

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