第23話 本当のバケモノ

小さな鳥や猫を生き返らせるよりも、人間を生き返らせることの方が気力も体力も大幅に消費した。

一日に生き返らせることのできる人間の数にも限界があることも数をこなしていくうちに気づいたが、父は毎日「顧客」を沢山部屋に通した。

「顧客」は何人かで死体を運んでは、顔を地面に擦り付けてラントにひれ伏す。

そうしてラントが淡々と死体を生き返らせると涙を流して狂喜乱舞して、再び土下座のようなお辞儀をして、大量の金や貢物を父に渡す。

生き返った当の本人はいつも決まって呆けたような顔をしていた。

自分に何が起こったのか分からない様子で、家族や周りが言って聞かせても理解できていないようだった。


そうして生き返った人達が結局どうなったのかラントは分からなかったが、その後しばらくして再びラントの元にやってきては感謝の言葉を述べる者もいたので、それでよかったのだと自分に言い聞かせることにした。

そのうち、ラントの噂を聞きつけた他国の人間もオネーロにやってくるようになり、ラントは生神=デルーと呼ばれるようになっていった。


デルーに会うには金貨五枚以上、そしてその家一番高価な物品を献上しなければならず、そうしたとしてもデルーがそれを拒否すれば力を使ってもらえない。

もちろんそれはラントが言い出したことではなかった。


「お前は何も考えるな。今までただ飯を食わせてやったんだから少しは恩返しをしろ。もちろん、やめたいなんて許されないぞ。ここまできて」


 毎日のように父にそう言われ、ひたすらに力を消耗した。

そうすることで母を助けられると思っていたが、どれだけ家が裕福になっても母はちっとも幸せそうではなかった。

もちろん生き返ってどこかが変わったということはなく、ご飯も食べるし人並みに動くこともできる。


しかし父は母をより一層蔑むようになった。

「化け物の作った飯なんて食えるか」と母の料理を捨て、二回り以上大きくなった家で雇った家政婦の作ったご飯を食べるようになったのだ。

ラントの能力を誰よりも利用している人間が、ラントの能力で生き返った人間を化け物と蔑むことを、ラントは理解できなかった。

本当の化け物は父自身であるという事にもとっくに気付いていた。

デルーとして消費される日々を送りながら、父は気付いていないが、ラントは確実に大人になっていた。


これ以上父の言いなりになどならない。

誰も持っていない自分だけの武器も手に入れた。

今なら僕がお母さんを救える。

いつか時が来たら、母を連れてこの国を出よう。この能力を使ってお金を稼ぎながら、母の行きたいところを自由気ままに旅するんだ。

そんなことを考えているといくらか気も晴れて、疲れ果てた身体にも力がみなぎってきた。


父の罵倒も気にならなくなって身体がふわりと浮いたような、それこそ本当に神様にでもなったような心持さえした。

自分の能力を過信して、己惚れていたのだと気付いたのは、もう少し後の事だった。

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