第18話
「それで、学校ではどんな事が起こっているんですか?」
花とのやり取りは一度無かったことにして、本題に入る。
「私の高校では、『学校の七不思議」っていうのが去年ぐらいから流行り始めて、その中に、理科室の人体模型が動くっていうのがあるんです。私は噂程度でしか信じてないんですけど、みんなは『人体模型だけは真実だ』って言って、その人体模型を探しているんです」
人体模型……。どうしてそれだけが信じられているのだろうか。
「学校のみんなって、クラス内だけじゃなくて、学校全体として?」
「そうです。他のクラスも、部活の先輩たちも信じているみたいです。実際に見たって人が、一定数いて、それに影響されているみたいです」
なるほど。確かにそれなら信憑性は上がる。しかし、実際は人体模型がひとりでに、動いているわけはないだろう。となると、誰かが動かしている? 目的はなんだ?
「見たって人に、何か変わったことは?」
「うーん。特には無いと思いますけど……、全員が『もう一度会いたい』って言うことぐらいです」
高校生という年齢は好奇心や怖いもの見たさ、みたいなものがあるから、共通点としては弱い気がする。実際に僕が会ってみるしかないな。
「わかりました。では僕が実際に、その人体模型に会いに行きます。出現しやすい場所とか時間帯とかありますか?」
「ええと、最終下校時間ギリギリの理科室の前の廊下、そこで見たって人が多いです」
花は高校生とは思えないほど、受け答えがしっかりしている。きっとこれならこの調査はすぐ終わるだろう。僕はそう高を括った。
「でも、どうやって、学校の中に侵入するんです?」
今度は僕が、美奈から質問を受けた。
いろいろパターンはあるが、どうするべきだろうか?
教師として潜入するパターン、生徒として……は流石に無理か。後は業者として潜入するか。
「お姉ちゃん、それは大丈夫だよ。明日からうち文化祭だから」
「それはいいですね。僕も悩まなくて済みます」
「そっか、明日からか」
美奈さんは納得したように、一人呟いている。
「では明日、調査に向かいます。今日は以上で終わりましょうか。お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
お辞儀をして、花さんは帰っていた。
――カランカランーー
花さんが事務所を出るのと同時に、美奈さんが「ふう」っと大きく息を吐いた。
「あの、青山さん」
そして緊張した面持ちで、僕に話しだす
「明日の文化祭、私も行ってもいいですか?」
頬を赤らめながら言う美奈さんは、目線が泳いでいて、まるで恋する乙女のような表情だ。
「も、もちろんですよ」
「あ、ありがとうございます」
コーヒーの湯気は、もう立っていなかった。
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探偵兼殺し屋 増井 龍大 @andoryuu
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