第19話 妹は悩んでるんだぜ。
お兄ちゃんとやり合った次の日は死ぬほど眠かった。
なので、みんなと相談してその日は午後から周囲の探索をするようにして、今後は夕食の後数時間のみの練習にすることになった。
っていうか、一方的に宣告されたんだけどね!
レベル上げも兼ねてる周囲探索が疎かになってどうする!
練習は一日数時間!
ってね。
子供がゲームのやりすぎで怒られるみたいな感じだなぁとか呑気に見てたら、俺も怒られたけど。
お兄ちゃんがしつこ過ぎるのがいけないと思う。
俺悪くないもん!
そんなこんなで何日かは変わらない日々を過ごしていた。
「ねぇ、ポルテ、私ってこのままじゃダメな気がするの」
「バウ?」
ん? 突然何言い出したんだ?
俺をぬいぐるみの様にだき抱えてなんか黄昏れている?
「お兄ちゃんだって頑張ってるし、私ももっと強くならないとって……」
「バウバワンワン」
気にするなって!
なんかあったら俺が守ってやるから。
「それは嬉しいけど、ただ守られるだけって嫌なのよねぇ」
「バッフー」
そっかー、どうする?
なんか魔法でも覚える?
「うーん、覚えるにしても教えてもらえる人がいないのよねぇ」
「バウン?」
適正とかあるんだっけ?
なんか得意な武器とか無いの?
「うーん、そういう訓練した事無いんだよねぇ」
「バフ?」
あれ?
ところでさ、俺と普通に会話してない?
「あ! 本当だ! 意思疎通出来てるね!」
おーすげーじゃん! じゃあさ、なんかテイマー特有の必殺技とか無いの?
「なんかあったかなぁ……うーん…あ!共有っていうテイムしてるモンスターのスキル使えるのある!」
おお!良いじゃん!
あ、でも俺のスキルってちょっと使いづらいのばっかりだなぁ。
うーん、うーん、遠吠え鍛えたら咆哮みたいなの出ないかなぁ。
これなら、接近戦しなくて良いし。
頑張ってみるよ!
「ポルテありがとう」
むぎゅー!
苦しいけど、感触柔らかくて気持ちいい!
「あ、こら! ポルテってエッチなんだね!」
しょうがないだろう、元人間なんだから。
「……え?」
……あ!
「ちょっとポルテ説明してくれる?」
あ、はい。
という事で今までの経緯をユリカに話した。
「そうなんだ……うーんでもやっぱりポルテはポルテだよ!
私の中では小さくて、可愛くて、それでいて頼りになる相棒ってのは変わらないよ」
やばい、めっちゃ嬉しい。
テイムされてるせいかな?
俺はこの子の為に命かけれるって確信した。
「バウ!」
俺はユリカの言葉に思わず尻尾を振っちまった。
ユリカのの思いがが、なんか心にグッとくるんだよな。
「ポルテ、なんか嬉しそうな顔してるね!」
ユリカがニコッと笑って、俺の頭をわしゃわしゃ撫でてくる。うおっ、ちょっと待て、毛が乱れるって! ……もっとして!
「さてと! ポルテが元人間だったってのは驚きだったけど、なんかもっと親近感湧いてきたよ! よーし、じゃあさ、私とポルテで新しい技とか練習してみない?
「バウバウ!」
いいね! 乗ってきたね! ユリカの目がキラキラしてるぜ!
俺もなんか嬉しくなってきた!
「共有のスキル、ちょっと試してみようよ! ポルテの遠吠えを強化して、めっちゃ強い咆哮にしちゃうんだから!」
ユリカが拳を握って、なんかやたら燃えてる。こいつのこういうテンション、嫌いじゃない!
むしろ好き!
てか、ユリカ好き!
さっそく、俺たちは近くの森の開けた場所に移動した。夕暮れ前の森は、鳥のさえずりと風の音が混じって、なんか落ち着く雰囲気だ。
ユリカは地面に座り込んで、俺を膝の上に乗せる。
「よし、ポルテ、準備はいい?」
「バウ!」
いつでもいいぜ!
「じゃあ、共有のスキル、発動ー!」
ユリカが両手を俺の背中に当てて、なんか集中し始めた。テイマーのスキルってのは、モンスターと心を通わせて能力を引き出すもんだろ?
なんか、ユリカの暖かい手の感触と一緒に、俺の体にジワッと力が湧いてくる感じがする。
「うん、なんか繋がってる気がする! ポルテ、遠吠えやってみて!」
「ウォオオオーン!」
俺は全力で吠えた。いつもならただの遠吠えで終わるんだけど、今回はなんか違う。
ユリカの力が混ざってるのか、声に妙な重みがあって、近くの木の葉っぱがビリビリ震えた。
「うわっ! すっごい! ポルテ、これ絶対ただの遠吠えじゃないよ!」
ユリカが興奮して飛び跳ねる。いや、でもさ、これまだ咆哮って感じじゃないよな。もっと強力なやつ、目指したいぜ。
協力して強力、あ、いやなんでもない。
「ポルテ面白〜い」
恥ずかしいと嬉しいの間の感情ってなんて表現すればいいんだろう?
「うーん、でも、これだけでも結構すごいよね。もう少し強化出来たら、不意打ちで敵を混乱させたり、遠くにいる仲間に位置を教えたりできるかも!」
「バウン!」
お、いいアイデアじゃん! 遠吠えを戦術的に使えば、ユリカの戦い方も広がるかもな。
「よし、ポルテ、毎日ちょっとずつ練習しよう! お兄ちゃんにだって負けないくらい強くなるんだから!」
ユリカのその言葉に、俺はちょっとドキッとした。お兄ちゃんか……。アイツ、確かに強いけど、なんかユリカにプレッシャーかけてるよな。俺、テイムされてる身だけど、ユリカがそんな気分でもちゃんと戦えるように支えたいぜ。
次の日から、俺とユリカは夕食後の時間をフル活用して、共有スキルの練習を始めた。
ユリカはテイマーとしての才能を少しずつ開花させてる感じがする。俺の遠吠えも、だんだん低くて響く音に変わってきた。ある日、試しに全力で吠えてみたら、近くにいた小動物たちが一斉に逃げ出した。
「ポルテ、めっちゃ進化してるじゃん!」
ユリカが抱きついてくる。うおっ、ちょっと、近いって!
でも、この感触……もう少し堪能したい。
「……ポールーテー」
はい……すいません。
「バフッ!」
俺は誤魔化すように吠えて、ユリカからちょっと離れる。
「ポルテってほんと面白いね!」
ユリカはニコニコと笑いながら、そんな事を言う。
めちゃくちゃ可愛い。
俺の人間時代の感性がそう反応する。
「あとは私がこの遠吠えを使える様にしないとね」
「バウッ!」
おう! 頑張れ!
そんなある日、森の探索中にちょっとした事件が起きた。いつものようにユリカと周囲を歩いてたら、なんかデカい影がチラッと見えたんだ。
「バウ!?」
ユリカ、ちょっと待て、あれヤバそうじゃね?
「え、なになに? ポルテ、なんか見つけた?」
ユリカがキョロキョロ辺りを見回す。俺は鼻をクンクンさせて、匂いを追ってみる。うわ、こりゃ獣の匂いだ。しかも、結構でかいやつ。
「バウバウ!」
ユリカ、準備しろ! なんか来るぞ!
「え、うそ、急に!? よ、よし、ポルテ、一緒に戦うよ!」
ユリカがちょっと焦りながらも、戦闘態勢に入る。
俺はユリカの前に立って、いつでも吠えられる体勢に。
そして、茂みからガサッと音がして、現れたのはデカい狼みたいなモンスター。牙がギラッと光って、目がめっちゃ鋭い。
「ポルテ、行くよ! 共有、発動!」
ユリカの声と一緒に、俺の体に力がみなぎる。よし、こいつの相手、俺とユリカでやってやるぜ!
「私に任せて! ウォオオオオーン!」
ユリカの咆哮が森に響き、狼モンスターが一瞬ビクッと動きを止めた。よし、今だ!
「グガァァ!」
白狼覚醒!
ヒャッハー! ここは遠さねぇぜぇ!
ヤクトシュトルム発動!
スキルじゃないから本当は何も発動してないけど、気分、気分!
ユリカに注意が向かない様に縦横無尽に動き回りながら牽制する。
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