第5話 やっぱり許せないものは許せないんだぜ!

「一緒に行くよ」

 可愛らしい声が聞こえて来たと思ったら、ヒョイっと抱えられた。


 なんていうか、弾力のある柔らかい部分が俺を包んでる感じ。

 俺は今一番転生してよかったって思ってる!


 しばらく歩くと、狼の死骸があった。

「狼?」

「狼の魔獣だな、首から切り取ってるのは金になるから分かるけど、何で足も切り取ってるんだ?」


 くっそー、俺の恩人…恩獣をこんな目に遭わせやがって!

 あいつらの顔と臭い覚えたからな!


 絶対許さないからな!


 またしばらく抱っこされて移動する。

 まいったな、この身体のせいか怒りとかを怨みみたいなものを持続させる事が出来ないらしい。


 今はすっかり、この感触で機嫌が良くなってしまっている。


「え! あれ!」

「ユリカ! 見るな!」


 ムギュー、お兄ちゃんの方が、急に抱きついてきた。

 俺が挟まってる! 窒息する!


「いいか? お前はここにいろ、俺が見てくる」

「分かった」


 しばらくお兄ちゃんが離れたしたいの辺りで跪いたり、ウロウロしたりしていた。


「親父だった」

「お父さん!」

「おい! ユリカ! やめろ! 見るな!」

 ユリカと呼ばれたご主人様が死体に駆け寄る。


「お父さん! お父さん!」

「ユリカ、俺たちは冒険者だ。

 いつも死と隣り合わせの職業だ。

 だから……泣くのは今だけにしろ! いいな!」

 コクンと、ユリカは無言で頷く。


 お兄ちゃんはそれだけ言うと狼の方に向かって行った。


 ユリカは俺を強く抱きしめてしばらく泣いていた。


「親父は狼に襲われてやられた」


 え! 違うよ! 人間だよ!


「そうなの?」


 ユリカ違うよ! 間違いだよ!


「ギルドにはそう報告されるだろうな……雑な工作しやがって。

 こんなの俺が見たって明らかに人間の仕業だってわかるぞ」


 おお! お兄ちゃん! そうだよ! あいつらがやったんだよ!


「じゃあ、そう報告すれば!」

「無理だ! あいつらはここのトップランカーだ! こんな雑な工作でもギルドは奴らの肩を持つ」


「そんな…じゃあお父さんの仇はうてないの?」

「強くなるしかねぇ! クソッ! だからあいつらの話になんか乗るなって言ったんだよ!」


 お兄ちゃんが激しく地面を蹴った。


「宿屋に戻って荷物を回収するぞ! この街を早く出ないと、俺たちがこの事を知ったって気付かれたら間違いなく口封じに来るぞ」

「分かった」


 兄妹は踵を返す。

「お父さんを埋めあげたいけど……ダメだよね」

「あぁ、時間がない」

「うん」


「それに」

「それに?」


「……死んだ冒険者は魔獣のエサだ。

 魔獣を殺して生計を立ててる俺たちは死んだ時は魔獣に身体をくれてやる。

 それが冒険者の矜持だ」


 お兄ちゃんは苦しそうな顔で歯を食いしばるようにそう言った。


「親父は酔っ払うといつも……そう言っていた!」


 俺と二人はこの日、街を出た。


 俺にとっては初めての街はリュックに詰められて何も見えない暗い空間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る