第11話

(なんなのよあいつ!いつも真面目に授業なんて受けてないくせに!この私に指図ですって!!もう許せない!今回はあいつをコテンパンに打ち負かして、その口二度と聞けない様にしてやりますわ!)


――“って、思ってるんだろうな。あいつ。”


創太は対面に居座る北上皐月の眼を見つめて、その炎の様に燃え盛る様を見つめていながら相手の思考を読み始める。


(もし、もし俺の考えが正しかったら、あいつは律儀に3秒で決着をつけようとしてくるはず、そうなると速攻。それもフェイント何て一切考えることなく力でごり押していくはずだ。そうなれば―――最高に都合がいい。)


創太の煽り、それは思考誘導にも等しい。

しかも相手の敵意を煽るという初歩的な思考誘導だ。それにまんまと引っかかっている時点で、そしてそれを顔に、眼に、心に浮かべている時点で勝負は決まったようなものだ。と創太は考えている。


実際にその考え、創太の思考解析はまんまその通りだった。北上皐月はその眼にしっかりと怒りを浮かべており、それを隠そうともしていないのだ。だが、まかりなりにも実戦経験がある創太と、才能があろうとも実戦経験なんて皆無の赤子を比べても、何の比較にもなりはしない。つまりそういう事だ。


「よし!『夢幻の磁界』のセットが完了した!両者。中に入れ!」


ユグドラシル『夢幻の磁界』――その効果は結界型のユグドラシル。中に入っても特に何もないが、その結界の外に出る場合、中で起こったありとあらゆる事象をなかったことにできるという物。つまりその結界の中でケガをしても、ユグドラシルが壊れたとしても、結界の外に出たらもとに戻るという物なのだ。このユグドラシルは大変希少で、それもまたこの第一学園が有名な由来の一つとして挙げられるだろう。


「よし、中に入ったな…審判は俺!勝敗は武器を体の一部分に当てるか、そのまま打ち込むことだ!ただし致死性の攻撃が飛んできた場合は、俺が間に入る!他は審判である俺の言う事に従え!異論は!」


「ないですわ!」


「大丈夫です。」


「それではカウントは俺が取る。―――3、2、1。始め!!」


こうして、運命を分ける試合が始まった。



「へぇ、あの子が……これは見物ねー」


「まあ、ようやく中宮創太が力を見せてくれるという事です。『七宝家』としても、生徒会長としても中々なものでしょう?」


「ええー、まあ、多分この試合は中宮君?だったっけ、は負けると思うけどね」


「まあ、あの氷は中々に強力ですから」


「まあ、でも、粘ってくれる事を祈るわよ?中宮君もそれなりに様になってると思うし」


こうして、スタジアムの観客席、その中でもガラスで前方が見えるようになっているボックス席に、その二人はいた。その二人はまるで主従の様に付き添っている。それもそうだろう、片方は『七宝家』の「雪月花」から、月の名を持つ家。月山家長女であり、この学園の生徒会長。“月山奈美”なのだから。


「まあ、期待しているわ?お互いにね?」


授業を抜け出しても文句を言えない教職員を影に、月山奈美は一人笑みを浮かべた。



(不味いな、あそこにいるのは生徒会長の月山奈美先輩か、しかも『七宝家』と来た。これは少し予定が狂ったが……もう、止められるもんでもないしな。)


先生のカウントを聞きながら、創太もまた思考を先頭モードに切り替えていく、そして初めの合図とともに、創太は一気に駆けだした。5秒で全てを、終わらせるために。



「やあっ!!!」


熟練にもなると、ユグドラシルの起動から攻撃開始まで0.3秒もいらない。そしてそれはこの北上皐月にも適応されている事だった。


皐月は開幕速攻。ユグドラシルを使った魔術『氷狼の息吹』を、前方から拡散するように45度に向かって放つ。


――1秒。


(これで足は封じたはず!後は槍でっ)


続けざまに魔術『氷狼の絶槍』を放つ。これは氷の槍を無数に作り上げ、そしてそれを放つ技だ。


――2秒。


(これで終わりよ!)


この技をまた前方に向けてターゲットをロック、無数の槍が創太に向けて放たれる。氷の粒がヒラヒラと刹那的に舞う。


――3秒。


ヒュン!ヒヒュン!と音が鳴る。スタジアムの温度がグッと寒くなる。そして氷の粒が消え、視界が全て開くと、そこには驚愕が浮かんでいた。


(なっ!!いない!)


――4秒。


「周りを見ないで猪突猛進、俺が後ろにいる気配すらつかめない。だから言ったろ?お前は――――俺に勝てない。5秒で決着をつけるってな」


皐月の後ろから声が響く。それはつき先ほど聞いたことのある声だった。皐月で本当と反射的に突き動かされて後ろを振り返る、そこには黒刀を構え、不敵な笑みを浮かべている中宮創太の姿があった。


――5秒。


そして急に振り返ったので体勢が間に合わず、尻餅をついて槍を放す皐月の首筋に、創太の黒刀が首筋にスッと添えられた。


「俺の勝ちだ」


この5秒間の戦闘、5秒間の交錯には生徒も先生も度肝を抜かされていた。そして初めに我を取り戻した先生が、審判としての役目を果たす。


「勝者!中宮創太!」


勿論審判のジャッジは、中宮創太の勝ちで終わった。



昼休み。創太はいつものように屋上にいるのではなく、校舎の外にある外れをゆっくりと歩スタジアムの観覧席、2階程の高さに置かれたその一室に、一人の少女と一人の従者が、窓ガラスを前に驚愕の顔を浮かべていた。


「……何?あれ」


「あの男…中宮創太の実力も突出していますが、あの『ユグドラシル』あれは下手をすれば国宝級の『ユグドラシル』です」


「ええ…しかも隠蔽まで完璧だったわ、それは“旧人類”の中宮君だからこそできている芸当なのかもしれない……“魔力を消滅させる能力”。あれは使い手によるかもしれないけど、相当な力を発揮するわね」


「そうですね、それも悪いことに、中宮創太の刀術は高い水準で保たれています、つまり」


「ええ、“刀を魔術に当てるだけで魔術を無効化できる”能力を所持しているという事になるのよね…」


「私もお嬢様の意見に同意です。あれは実際に『七宝家』の北上様ともやり合い、そして勝った男です。要注意しておいて損はないかと」


「ええ…私も、コンタクトをかけてみるわ」


「その方がよろしいかと思います。お嬢様」


こうして、たった一人の男の小さな偉業が、この二人を中心にしてより大きな波紋を巻き起こしていくことになるのだが、創太はまだ知らない。

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