第3話 倉庫①
ほの暗い寂れた広い廊下を、横並びのエリシアに案内されながら壁伝いに歩いていく。
殆ど廊下の端から端へと移動し、先程まで遠くにあった両開きの扉が、かなり近い位置まで近づいていた。
近くに来て分かったことと言えば、窓がなく、気密性が高い扉である事だけであり、もっと良くみたいなら近づかなければいけない。
そう考えたのもつかの間、エリシアの足が止まり、目的地にしていた部屋である「倉庫」についた旨を伝えられた。
「着いたよ!」
「……ここか…」
先程見ていた扉と同じく、両開きの扉だがこちらは簡単に開閉出来そうな普通の扉になっている。
念の為、壁に耳を当てた。
何も聞こえない、本当この建物にはエリシアと俺しか居ないのか…?
そう考えながらエリシアを後ろに、ドアノブへと手をかけ、ゆっくりと開く。
中には棚やソファが壁に寄せて置かれ、遠目から見ても全てが古いものだと分かる程だった。
中を見回していると、ふと床に敷かれたカーペットへと目が移る。
だが、その時見てしまった。
「…っ!!」
汚れたカーペットに落ちている、人の腕を。
思考が一瞬停止する。
「…どうしたの?」
俺の動揺を感じたのか、エリシアは心配そうな表情で俺の方を見つめている。
開けた扉の隙間は、人一人分であり、エリシアの背丈も俺よりは小さい。
どうやら幸いにも腕を見てはいないようだ。
(……よし)
「エリシア、少しここで待っててくれないか?」
「……え、うん…分かった…気をつけてね?」
「あぁ」
変わらず心配そうに見つめるエリシアをその場へと残し、一人で倉庫の中へと入っていく。
「……ふぅ」
深呼吸し、カーペットの上に乗っている腕の方へと進んでいく。
辺りへ舞い散る埃も感じないほどに、その腕に意識を割かれていた。
ようやく傍へとやってきて、近くでその腕を確認すると幾つか不自然な点を感じた。
断面からは血が出ていない事と、辺りへ血が染みた様子や飛び散った様子が無いこと。
そして、剥がれた皮膚の中に見える、黒くメタリックな質感の何か。
「…………機械?」
しゃがみこんで更に間近で確認すると、予想通りそれは機械だった。
シルエットこそ人の腕だが、所々剥がれた人工の皮膚らしきものの中には、明らかな機械部品が見えており、人の腕に酷似した機械の腕だったのだと理解した。
「…はぁ、びっくりした…人だと思った…」
不気味ではあるが人の腕では無い分、遥かに精神的負担は少ない。
ひとまず胸をなでおろして、機械義肢へと手を触れる。
固く冷たい感触、当然ながら人らしい体温は微塵に感じない。
持ち上げてみるとかなり重い、ダンベル代わりに使えそうだと、脳内で少しふざけながらもそう感じた。
ポト
「……ん?」
持ち上げた時、機械の手から何かが落ちた。
銀色に輝く、ネックレスのような物が二つ、汚れたカーペットの上で光っている。
「…」
慎重に拾い上げ、確認する。
どちらも同じ形状。
首にかけられそうな丸い紐と、その先につけられた薄い鉄板。
その鉄板には、それぞれに大きくローマ字で何かが書かれていた。
Ribias
Cirsia
「…何だこれ…」
恐らくだがこれはドックタグなんだと感じた。
亡くなった軍人の身元を判明する為に使うもので、映画とかでもよく見るものだ。
つまりここに書かれているのは誰かの名前なのだろうが、その読み方が全く分からない。
「あーる…あい、びー…あい……りびあす?」
そんな名前、俺は聞いた事がない。
存在しない名前なのか? 造語…いや造名と言うべきものの様な感じか?
「しー、あい、あーる…えす…しるしあ?」
どっちにしろ聞いた事ない名前だ。
というかこっちは名前っぽくないから、読み方がかなり特殊な可能性が高い。
どっちにしろ、分からないものは仕方ない。
俺は隠す様にポケットへとドックタグを入れ、機会の手を部屋の端、目立たない所へと投げ捨てながら、入口の方へと戻った。
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