名も亡き化物は哭き縋る
絵之色
第1話 プロローグ
人の死とは、どれだけの価値と意味があると人々は評価するのだろう。
名が知られている存在のみが、価値があるのだろうか。
名が知られていない存在は、意味がないのだろうか。
「いやぁ、誰か!! だれかぁ!!」
耳に嫌味たらしく残って響くブーツの音。
少女にとって生々しい恐怖心を駆り立てる時計の秒針のようにも思える。来てほしくない一時、己自身の絶命の時針が定る最期だと彼女も理解しているからだ。
少女は躓き、転びながらも必死に逃げる。
「いやぁ!! 誰か、誰かっ、助けて!!」
鋏の金属音が重なる音色が少女の恐怖を煽る。
彼女の罵声をどう表現に生かすか。
彼女の絶望をどう細部に生かすか。
彼女の最期をどう精彩に活かすか。
男はただそのことのみを考え、凶器を握る。彼のファンである一般人たちがどんな評価を新たに下すか、その期待に男は胸がときめていた。
それこそが彼の存在理由なのだ。一匹の化物は愉快気に口角に弧を描く。
まるでこの世の不思議への探求心に燃える学者のように。
まるでこの世の全ての善悪を
男にとって少女の悲鳴は己の作品を作るための創作意欲が沸き立つ楽曲に等しい。
「いやぁ!! 誰か、誰かっ!!」
「この世界は、正常と異常。どちらが真っ当なのかを投げかけようじゃないか、なぁ? ――――その他に分類された皆々様の君」
「っ、いやぁあああ!! いやぁああああああ!!」
涙痕の跡が付いた頬から伝う雫はとめどなく。
どこまでも
彼の者は決定する。少女に、絶対的な絶命の宣告を。
彼の者に握られた
時に白と黒、有色と無色のように。
時に善と悪、正義と不義のように。
時に夢と幻、傲慢と無垢のように。
――彼の者は少女を分断する。
鋏を持って引き裂く少女の肉塊から飛び散る血液が男の黒服に纏わりつく。
人々は、彼の者を
人々は、彼の者を
人々は、彼の者を
その意図は、どこまでも単純明快な正解だ。
月光に照らされた夜道にて、刃に
黒尽くめの世界に一つだけ銀に灯る月を見上げる。
「あぁ――――今日も、月が綺麗だ」
――その者を、
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