第七話 約束した(上)

 その日の夕食は謝罪から始まった。

 レゼンがロンダルギアとキャト・リューズに頭を下げ、声を荒げ、酷いことを言ってしまったことを謝ったのである。


 それに二人は、ほっとした顔で「誰も怒ってない」と言った。

 この日の夕食は、久しぶりにロンダルギアの隣にレゼンが座る。

 いつもならキャト・リューズ、ラズリル、レゼンの順なのだが、ロンダルギアが、もし悪いと思っているなら隣においでと言う。

 まるで子供扱いのようでレゼンは恥ずかしそうに座った。


 そして、

「こんにちも穂が揺れ、生きるものたちが尊ばれ、心は民と共に、手と足に感謝致します。我らはシャリュトリュースのために」

「シャリュトリュースのために」

 唱えると、並んでいた食事に手をつける。


 今日はちょっと豪華でコーンスープと鮭のムニエルに小さなソーセージがついて、ほどよく焼けたパン。飲み物は牛の乳で、手が込んでいた。


 それを見たキャト・リューズが、

「あなたたちも、ちゃんと食べないといけませんよ」と使用人たちに伝え、現の使用人たちは頭を下げただけで何も言わない。


 黙々と食べていると下街に行ったと話になった。

 みな元気だったと伝えるとロンダルギアは嬉しそうに笑う。

 こういう人だから民も彼についていくのだ。


「他に変わったところは?」

「いえ、何も。怪しいところもありませんでしたし、まあ、俺たちが何かする前に専門の者たちが気づくでしょう」

「はっはは、それもそうだ」


 レゼンの言葉にロンダルギアは笑うと牛の乳を飲んで、ふうと一息ついた。

「……他は?」

 ん? とレゼンは言われていることが分からず、頭の中で繰り返した。

 他には、と言われても魔核の話はしたし、広場の話もした、けど、思いつく。


「はい、情勢を見てから帰ろうかと」

 そういうとロンダルギアとキャト・リューズは淡く笑った。

 帰らないという選択をしなかった我が子に対して笑えるのは懐が深い。

 本当なら「帰ってほしくない」とラズリルと同じことを言うだろうに。


「帰らないと一瞬は思いました。でも、帰ります。復興ではなく、片付けをしに」

 言葉にロンダルギアは目を見開いた。

「もうハルタ国は国として機能はしていないでしょう。ラズリルがまとめてくれた書類があります、それを見て、どうやって終わらすか決めます」


「そうか」

「王族の君主制ではなく、民衆ができる国民議会制にするつもりです」

「うむ、わかった」

「あとは随時、情報を貰い適宜応答といきたいと思います」

「……うちの息子は優秀だな」

「そうしてくれたのが父上と母上です」


 レゼンは笑うと二人の顔を見て笑った。

 も笑うとキャト・リューズの目がラズリルに向く。

「今、レゼンが貴方から情報を得ているような話でしたが」

「あ、あーえー」

 ラズリルは視線を泳がせながら、彼女の瞳を交わそうとしている、が。

「ちゃんと話なさい」


 その一言で、ラズリルが、レゼンをハルタ国に行かせたくない為に私兵を使って、調べさせたことが分かり、ロンダルギアは笑っていたがキャト・リューズは、もし、私兵が捕縛されて情報を漏らしたらどうするのか、と低い声でラズリルに言う。


 ラズリルは「はい」「そうです」「ごめんなさい」と言いながら小さくなる。

 まあまあとロンダルギアはなだめて、


「結果が無事ならなんともないさ。でも、これからはラズリルの私兵ではなく、私の私兵を向かわせよう」

 どちらにせよ、危険極まりないことではあるがロンダルギアに付き従ってきた、私兵たちは強い。ラズリルに与えている私兵より強いだろう。


「ラズリルはあとで、どこまで調べたか書類にまとめて渡しなさい」

「ええー!」

「明日にはできているように」

 ちょうど、ふとロンダルギアは考えたようで、

「お前の私兵たちは手練れのものたちだ、ラズリルの私兵に勉強させよう」

「ひっ!?」


 これにはラズリルに同情する。

「諜報がなんなのか分かるだろうしな」

 小っちゃく「ごめん、みんな」という声が聞こえて、笑いそうになった。

 レゼンには私兵がいない。当たり前だ。名目上、人質に私兵がいてたまるか。

 それにラズリルの世話係に就任しているのであるのだから、さらにいらない。

 ロンダルギアは遠回しではあるが説教のようでラズリルは、またまた小さくなっていく。もう米粒じゃないかと思うほどだ。


 寝れない夜になるな、とレゼンは見て笑う。

 そうすると自分のベッドには来ないかな、と落胆する。

 落胆!? そう思ってレゼンは首を振る。


「レゼンはゆっくり休みなさい」

「え?」

 キャト・リューズの声に聞き返すと、彼女はレゼンを見て笑っていた。

「めまぐるしい日だったでしょう?」

「それは、そうですが」

「なにかあったのですか?」


 きょとんとしたレゼンは、確かに感情に振り回されてばっかりだったけれども、何か憑きものが落ちたというか、冷静に対処できている。


 今日一日、今日はずっとラズリルと一緒だった。視察して子供たちと遊んで、ふいにレゼンはくちびるに手を持っていく。

 キスをし、

 ちゃんと考えるとラズリルに約束のだった。

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