第16話 幼馴染と俺は結ばれる
玲奈の告白からしばらくの間、俺の中でいろんな思いが交錯していた。玲奈のことは幼なじみとして、ずっと大切な存在だと感じてきたけど、彼女が「一人の女の子」として俺を見てくれていることが、改めて胸に深く響いていた。
そして──これまでの玲奈との時間が、自然と思い出されていく。
小学校の頃、毎日一緒に遊んだ公園。玲奈がいつもリードして、俺がそれに従っていた。かくれんぼをしたり、遊具で競争したり、何も考えずにただ無邪気に笑い合っていたあの頃。中学時代、俺がこっそり書いていた黒歴史のノートを見つけられ、笑い転げる玲奈。俺は恥ずかしくてたまらなかったけれど、玲奈はそれを武器にして俺を振り回すようになった。
振り返ってみれば、いつも玲奈が俺の隣にいた。喜ぶときも、悩むときも、彼女はどこかで俺を見守ってくれていた。俺が気づかない間に、玲奈はただの幼なじみ以上の存在になっていたのかもしれない。
──いや、きっとそうだ。
玲奈との思い出を噛みしめる中で、俺は自分の気持ちにようやく気づいた。玲奈が大切だ。幼なじみという枠を超えて、彼女のことをもっと特別な存在にしたいという気持ちが、はっきりと見えてきた。
だから、俺も──。
「玲奈、俺からも『大きなお願い』していいか?」
その日の放課後、俺たちは学校から歩いていた。いつもの帰り道、でも、今日は少し違う。玲奈が告白してくれたこともあって、俺は彼女にちゃんと自分の気持ちを伝えたいと決意していた。
玲奈は、少しだけ期待したような目で俺を見てきた。
「拓のお願い?うん、聞いてあげる。何でも言ってよ」
彼女はいつも通りの笑顔を浮かべているけど、その瞳には微かな緊張が感じられた。玲奈も、俺が何を言うのか気になっているはずだ。だからこそ、俺も本気で伝えなければならない。
俺は歩みを止め、深呼吸をしてから玲奈の方に向き直った。
「俺さ……ずっとお前に振り回されてばっかだったけど、気づいたんだ。玲奈と一緒にいるのが本当に楽しいって」
玲奈は少し驚いた顔をして、俺の言葉に耳を傾けていた。
「昔からお前は俺をリードしてきたよな。俺が泣いていたときも、恥ずかしい思い出をからかってきたときも、全部お前が俺のそばにいてくれた」
玲奈は何も言わず、じっと俺を見つめている。彼女の瞳に映るのは、真剣に話している俺の姿だ。
「それに気づいたんだよ……お前がいなかったら、俺はきっとこんなに楽しく過ごせてなかったって」
俺の言葉に、玲奈の顔が少しだけ赤く染まる。
「拓……」
彼女が小さく名前を呼んだ瞬間、俺は意を決して次の言葉を口にした。
「俺もさ、玲奈のことが特別な存在だって、ようやく気づいたんだ。お前が幼なじみだから大切ってだけじゃなくて、ちゃんと……一人の女の子として好きだって」
玲奈の瞳が一瞬、驚きに揺れた。俺はそのまま続ける。
「だから、俺の大きなお願いを聞いてくれ。……俺と、付き合ってほしい」
自分でも驚くほど、すんなりとその言葉が出てきた。今まで玲奈に振り回されてきた俺が、自分の意志でしっかりと玲奈に向き合って伝えた。
一瞬、沈黙が流れる。玲奈は驚いたまま、俺を見つめていた。だけど、次の瞬間、彼女の表情は柔らかくなり、優しい笑みを浮かべた。
「……本当に?」
「もちろん、本気だよ」
玲奈はしばらく俺の顔を見つめていたが、やがて嬉しそうに目を細めて微笑んだ。そして、そっと俺の手を握り返してきた。
「うん……私も、拓のお願い、ちゃんと聞いてあげる」
玲奈の言葉を聞いた瞬間、胸の中に温かいものが広がっていくのを感じた。今までずっと幼なじみだった俺たちが、こうやってお互いの気持ちを伝え合い、特別な存在として結ばれた瞬間だった。
「ありがとう、玲奈」
「こっちこそ、ありがとう。拓がちゃんと気づいてくれて……本当に嬉しい」
玲奈の声には、今までのからかいや冗談っぽさはなく、ただ純粋な喜びが込められていた。彼女の手の温もりが、これからもずっと一緒にいたいという気持ちを伝えてくれているようだった。
そのまま俺たちは手を繋ぎ、夕暮れの道をゆっくりと歩いていった。これまでの関係とは違う、新しい一歩を踏み出したことが実感できた。
「ねぇ、これからも私が少しだけリードしてもいい?」
玲奈が小さく笑いながらそう言った。
「まあ……ほどほどにな。でも、今度は俺もちゃんとリードするからな」
俺がそう返すと、玲奈は笑い声をあげながら「それなら、楽しみにしてるね」と言った。
こうして、俺たちは幼なじみから恋人同士になった。これからも玲奈に振り回される日々が続くのかもしれないけど、それでも──そんな毎日が楽しみだと思えるのは、玲奈が隣にいてくれるからだ。
俺たちはこれから、新しい未来を歩んでいく。
「これからも、よろしくな、玲奈」
「うん。ずっと、よろしくね」
手を繋ぎながら、俺たちは未来に向かって歩き続けた。
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