学園祭の話し合い―――俺が実行委員!?


 花火大会も無事………無事?終わり、いよいよ秋のビッグイベント───文化祭が近づいてきた。


 帝黎の文化祭は『紅明祭こうみょうさい』と呼ばれ、三日間かけて行われる。

 初日は在校生、二日目は保護者・卒業生・在校生、そして三日目は一般・在校生に向けて開催されるらしく、毎年地域新聞に取り上げられる程の盛り上がりを見せるらしい。


 らしい、というのは俺が何も知らないからだ。

 一応学校説明の時にやけに力の入った説明を受けたし、生徒会長をはじめ、先輩達(当然女の人ばかりだ)から「凄いんだよー」と教えてもらったりはしたが、実際どんな感じでやっていたのか見た事が無いのでいまいちピンと来ていない。


 だがピンと来ていないのは俺くらいのようで、クラスメイト達は先生が「今日以降、6限目は紅明祭の準備に使うことになる」と言った時から色めき立ち───いや、授業の時間が減ったから喜んでるだけだな。

 大きなイベントが近づいているから盛り上がってるのも、そりゃあるんだろうけども。


「まずは実行委員を決める。業務内容は大したものではないが、責任の伴う役職だ。可能なら、立候補者を募る形で決定したい」


 その言葉と同時に、教室中の視線が俺に集中する。

 急激に居心地が悪くなるが、『紅明祭準備』はれっきとした授業である。途中退席は無理だ。

 何より、文化祭準備から逃げ出すなんて真似をすれば目立つ。フェードアウトどころでは無くなってしまうだろう。


 だが実行委員になるのも、それはそれで目立ってしまう。

 来年にはクラスメイト達から「御堂?誰それ?………え、同じクラスなの?」と言われるくらいに影を薄くする予定なのだ。クラスの代表として前に出なければならない仕事なんぞ、出来るはずが無い。


「ふっ。随分と人気だな、御堂」

「………あまりそういう役職は向いていないと思うんですけどね」

「そうか?………しかし困ったな。立候補者が出ないのなら、推薦という形にせざるを得ない」


 それ遠回しに「お前がやれ」って言ってません?


 こんなに見られてて推薦されないなんて事は無いだろうし、他の誰かが手を挙げるような気配も無いし。俺が実行委員をやるのでほぼ確定してるなコレ。


 構わないな?と先生が教室を見渡した直後、一人の生徒が挙手をする。


「あの、先生!実行委員って、男女一人ずつですか?」

「あぁ。他の委員会活動と同じだ。もしや三宅みやけ、立候補するのか?」

「あー、い、いやぁー………?御堂君と一緒で、そういう仕事って向いてないかなーって」

「そうか。それは残念だ。なら、推薦を―――」

「で、でも!も、もし御堂君がやるなら、私も頑張ってみちゃおうかなーとか、思ったりしてます!ほら、私と同じでこういう仕事が苦手な人が頑張るなら、一緒にチャレンジするのもありかもー、とか?そんな、感じで………あはは」


 早口かつ尻すぼみな言葉と共に、ゆっくりと着席する三宅。喋り終わった後でも、落ち着かないのか栗色の髪先をせわしなく指に巻き付けている。


 滅茶苦茶俺が実行委員をやる前提のセリフだけど、まだやると決まったわけじゃないからね?

 何度もこっちをチラ見してくるけど、俺は最後までやらないように頑張る気でいるからね?


 内心はともかく、かつての俺ならこうするはず、という直感に従って、三宅さんに困ったような笑みを返す。

 頬を掻き、首を傾げ、「俺はやらない予定だけどね………?」感を全力で演出した笑みに、彼女はわかっているのかいないのか、ただ俯いた。


「御堂がやるなら、か。それでも構わんが、仮に男女ともに立候補も推薦も無かった場合は御堂がやらずとも頼むことになるぞ」

「えぇー!?み、御堂く〜ん……」


 縋るような視線が突き刺さる。


 これを無視したら、「え、御堂ってあんなだっけ?」と引っかかる者が出てくるだろうし、何より三宅が可哀想だ。

 嫌ならなんで手を挙げたんだ、とは思うけども。


 ………仕方ない、か。


 渋々ながら挙手しようとしたその時、別の生徒が───それも、男子生徒が手を挙げた。


「俺やりまっす!」

「え、松来まつきが?」

「おう。ほら、御堂のヤツ、なんかやりたく無さそうだし?みんなも手挙げなさそうだから、やろっかなって」


 爽やかな笑みを浮かべる松来に、しかし三宅の表情は優れない。


 松来はサッカー部所属の、いわゆるトップカースト男子。お調子者のムードメーカーとして、常にクラスの中心に居る人気者だ。

 組む相手としては、俺なんかよりもよっぽど喜ばしい相手なはず。


 あと、確か2人は幼馴染だったはずだ。いつだか三宅がそう言ってたはず。

 気心知れた仲なら、ますますソイツと組みたいだろうに………いや、だからか?誰よりも知ってる相手だから嫌だとか、そういうアレか?


「他に立候補者はいないな?なら、松来と御堂の二人で………じゃんけんだな」

「俺、立候補してませんけど!?」

「三宅は『お前がやるなら』と立候補したんだ。お前を推薦したも同然だろう?」

「そ、そうかもしれませんけども………」


 三宅の方を見る。「期待してますっ」という声が聞こえてくるかのようなキラキラした視線に、思わず目を背ける。


 背けた先には、松来がいる。

 純度100パーセントの殺気が、何故か俺に向けられている。


 おい、どうしてだ松来。確かに俺は男たちから嫌われているが、お前はその中でも数少ない『結構まともに会話してくれる人』の一人だったろ。俺相手でもなんか嫌そうな対応をせずに、他の奴らと話す感じで接してくれただろ。


 それが、なんだってこんな憎しみMAXな視線を向けてくるんだ。別に俺は何もしてないだろ。不可抗力だったろ。


「じゃんけんで良いんっすか?」

「ああ。細かいルールはお前らが決めろ。………あぁ、百本勝負とか、無駄に時間がかかるのは無しだぞ」

「わーってますって。―――そら、やろうぜ御堂。ここは男らしく一発勝負だ。当然、勝った方が実行委員だぜ」

「………はぁ。了解」


 二人揃って拳を握り、じゃんけんぽんのリズムで振り下ろす。


 張り詰めた空気の中、迎えた結末は―――!?






♡―――♡







「えー、という訳で、実行委員になりました御堂です」

「同じく、三宅でーす」


 勝っちゃった。

 あいこも何もなく、ただただ普通に勝っちゃった。


 黒板の前に立ち、一部男子から何故か向けられている非難の視線を浴びながら、気づかれない程度に溜息を吐く。


 ………まぁ、あのじゃんけんの時点でかなり目立っちゃったし、同じだ。

 そう思うことにしよう。そうでもしないとやってられない。


「まずは出し物を決めましょう。取り敢えず、思いついたヤツを言ってもらって、箇条書きにしていきますね」


 俺がチョークを持った瞬間、教室中から一斉にアイディアが飛び出す。

 普通こういうのって挙手して選ばれてから提案するものじゃないのか、と思いつつも、取り敢えず聞き取れたモノを羅列していく。


 焼き鳥屋、お化け屋敷、メイド喫茶など、文化祭っぽい普通なモノだけに留まらず、ゲテモノ料理だの人間将棋体験会だのと言った個性の光るアイディアも出ていて中々面白い。


「これで全部かな。まだ意見あるよって人とか、自分のヤツ書かれてないよって人がいたら、挙手してください」


 反応は無い。全員呆気にとられた様子で、俺を見てくる。


「………凄いね御堂君。聖徳太子みたい」

「え?………あぁ、今の全部聞き取ったから驚いてるのか」


 驚くなら最初っから聞き取りやすい落ち着いたアイディア出しをしてくれと言いたい所だが、ここは「耳良いんだ」と適当な事を言って微笑んでおく。


こうして羅列したアイディアの中から、これは嫌だとか無理そうだとか話し合い、削除し、時にまとめて、十数分後。四十はあったアイディアは、たったの十二個にまで減少した。


「んー、そろそろ多数決にしちゃう?」

「しても良いとは思うけど、票が分散するから、一発で決めるのは難しいだろうね」

「あー、そっか。………まぁでも、票が少ないのをどんどん減らしてってー、ってやれば良いよね」


 言うが早いか、多数決を取り始める三宅。ぴょん、とジャンプして手を挙げる姿から、張り切っている事が良く伝わってくる。

 高校生にしては少々仕草が幼過ぎる気もするけど。


 自信が無いと言っていた割にはスムーズに取り仕切っている彼女に感心しつつ、票数を記録したり、消したり、黙々と作業を続ける俺。


 最初こそ絶望していたが、ここまで影が薄い立場なら大歓迎だ。

 むしろ、実行委員として名乗りを上げる(実際には推薦だけど)っていう『俺らしい』ことも出来たし、作戦的にも大正解なんじゃないか?


 満足感を味わいながらお化け屋敷に票を入れると、先生が鼻で笑いながら茶々を入れてきた。


「意外だな。お前がコスプレ喫茶に投票しないとは」

「………先生は俺の事をなんだと思ってるんですか?」

「無類の女好き」


 おぉっと、何も言えねぇ。


 違うか?と小馬鹿にするような視線を向けられ、たまらず閉口する。

 「イケメンだから」とか理屈とも言えない理屈を捏ねまわしていたが、結局は女の子とイチャイチャしたいという欲望があってああいう振る舞いをしていたわけだし。


 クラスメイト達から失笑され、耳が熱くなるのを感じる。

 だが勘違い野郎としての俺がこの程度の事で照れたり後ろめたさを感じたりするはずが無いので、ここはグッと堪えて微笑んでおく。

 本当なら気障ったらしいセリフの一つでも吐くのだろうが、それは無しだ。


「もしかして、御堂君ってコスプレはあんまり好きじゃない?」

「いや、そんな事は無いけど」


 これでこの話は終わりだ、と思っていた矢先、何故か三宅が追及してきた。


 あんまりこの話題広げたくないんだけど。そもそもこんな見られてる状況で喋りたくないんだけど。


 心の内でぼやいたところで、彼女に通じるわけも無く。


「じゃあ、なんでお化け屋敷?」

「なんでって………楽しそうだから?ほら、作る側って中々経験できないじゃん。せっかくだし、やってみたいなーって」

「ふーん。………コスプレ喫茶のラインナップに不満があるとかじゃなくて?」


 なんでそんな頑なにコスプレ喫茶を推してくるんですかね………?


 じぃっとこちらを見つめてくる三宅に、思わず口元が引き攣る。


 因みにだが、コスプレ喫茶にはメイドの他、シスターやケモミミ、お嬢様などの要素が含まれている。一応執事喫茶というアイディアも含んでいるので男子もコスプレする事になるのだが、それでも女子の方がメインな事に変わりは無い。

 だから先生は「コスプレ喫茶じゃないのか?」なんて言ってきたのだ。


「不満なんて無いよ。コスプレに興味が無いわけじゃないし、それに………ほら、メイド服とか、シスター服とか、三宅さん、似合うんじゃないかな?」

「ふ、ふーん。そ、そう?そんなに言うならじゃあ、コスプレしちゃおっかな………」

「まだコスプレ喫茶になると決まったわけじゃないけどね?」


 ホントは裏方に回る気だったんだけどね?と念を押すように何度も言ってくる彼女に、言いようのない疲労感を覚える。


 というか、まだ投票の途中だろ。なんでこんなどうでも良い話に時間かけてんだよ。

 そしてなんで誰一人それに言及せず、最後まで見届けようとしてんだよ!おかしいだろ!?


 ………なんて心の中では激しく騒ぎながらも、表情は『俺らしい』爽やかな物のまま、それとなく投票に戻るよう促した。


 この後は特に先生が口を挟んでくる事も、俺が注目を集めるような事態も起こらず、淡々と投票作業が進められ、あれよあれよとコスプレ喫茶とお化け屋敷の一騎打ちの構図が出来上がった。


 そう。結局この二つなのである。


「………ね、ほんとにコスプレ喫茶に投票しないの?」

「うーん………やっぱり、お化け屋敷の裏方をやってみたい気持ちの方が強いかな」

「そ、っか。―――じゃ、私もお化け屋敷にしよっと」

「いやいや、自分のやりたい方に投票しなよ。まだ結果が決まったわけじゃないんだし」


 別に俺は意見を変えないというだけで、コスプレ喫茶が嫌なわけではない。

 なんならお化け屋敷が無ければそっちに投票していたまである。

 だってウチの女子、九条が凄すぎるだけで、他も美人揃いだし。


 三宅が「お化け屋敷が良い人~」と言いながら手を挙げる。

 同時にクラスの女子全員と、一部の男子が手を挙げた。


 数えるまでも無く、お化け屋敷の勝利である。


「決まりだな。時間も時間だし、今日は終わろう。二人ともご苦労だったな」


 先生と入れ替わるように、自分の席に戻る。


 チャイムが鳴り、そのままホームルームへ移行していく中、小さく溜息を吐く。


 作戦に大幅な変更が必要か………?と危惧していたが、意外と何とかなりそうで一安心と言ったところ。それは良い。それに関しては、全然良い。


 でも、何故か。本当に何故かわからないが………。


「………」


 ………なーんかずっと睨まれてるんだよなぁ、松来から。

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