『同じ』男。―――全くの別物?


 予想通り、屋台周辺は来た時に比べて圧倒的に人口密度が減少していた。

 それでも普通のお祭り程度―――自由に動けるが、屋台の前にそこそこの列ができていて、時折人とぶつかりそうになる程度の混雑具合なのだから、この花火大会の凄さを実感させられる。


「………」

「………」


 西城は繋いだ手を凝視したまま何も言わず、俺も俺で生徒会長があまりに異常な姿を見せていたのが気がかりで、無言が続いていた。


 しかし、デートと言って二人きりになった手前、だんまりは不味いだろう。それも、他の女の事を気にかけて。


「えっと、どこか寄りたい場所とかあるか?」

「………特に、無いかな」

「そ、そっか。まぁ、せっかく花火が上がってるんだし、そっちに集中したいよな」


 だったら何故あのベストポジションから離れるような真似を、と思わないでもないが、あんな訴えるような視線を向けられた上でそれを聞くような事は出来ないし、しようとも思わない。


 西城は生徒会長が苦手と見た。

 あの慇懃無礼な態度や、妙に喧嘩腰な様子からして間違いないだろう。

 誰しも波長の合わない人間というのは居るモノだし、わざわざ追及する必要もあるまい。


「せめてどこか落ち着ける場所に―――」


 顔を上げて周囲を見渡すと、当然というべきか、花火の方を向いて止まっている人々が目に映る。流石に屋台の人と買い物客は商品の受け渡しに意識を向けているが、それ以外の人達は今まさに夜空を照らしている色鮮やかな火花に夢中になっていた。

 花火に背を向けているのは俺達だけだ。


「………あ、射的」

「射的?」


 花火の音にかき消されてしまいそうなほどか細く小さな声に、思わず立ち止まる。

 聞かれると思わなかったのか、はたまた声に出してしまった事自体が想定外だったのか、西城は目を見開き、頬を赤く染めた。


 なるほど、射的か。さっき屋台を巡った時は場所取りも控えていたし、何より混み合っていたから、すっかり見落としていた。


「気になる?」

「気になると言うか………。ううん、気になる」


 控えめに頷く西城に、内心驚く。

 彼女と一緒に祭りに行ったのは一度や二度ではないが、射的に興味を示した事は一度も無かったからだ。


 なんなら縁日そのものにあまり興味を示していなかったというか、ある程度飲食物を揃えたらさっさと腰を据えて話せる場所に移動したがるタイプだったはず。

 なんで急に興味を持ったんだ?とか、花火は良いのか?とか、思う所はあるが、せっかく興味を持ったのなら是非挑戦してもらおう。


 まるで客のいない屋台へ近づくと、ねじり鉢巻きのおじさんが少々意外そうにこちらを見つつ、「らっしゃい」と挨拶してきた。


「花火の真っ最中だってーのに、お二人さん変わってるね」

「いい場所、無かったので。それに、今じゃないとまた混むでしょう?」

「ははっ、ちげぇねぇ!ま、俺としちゃ遊んでくれるならなんでも良いや。そんで、まずはどっちからやるんだい?それとも一緒にやるかい?」

「ボクがやります」


 おじさんと言葉を交わしておもちゃのライフルを受け取り、そのまま百円を払う西城。俺が払うつもりだったのに、流れるように自腹を切られてしまった。


 後でそれとなく渡すか、とか考えていると、何故か一瞬、本当に一瞬だけ、西城と目が合ったような―――そんな気がした。

 同時に、悪戯っぽい笑みを浮かべたような気もした。


「何狙いとかあるのかい?」

「無難にお菓子でも、なんて」


 銃を構え、狙いを定める西城。

 妙に様になっているその姿に、もしかして経験者の方?なんて驚いたその瞬間。


 むにっ。


「ッ、わ、悪い」

「―――何が?」


 俺の立っていた場所が悪かったのか、西城の尻が俺の腰当たりにぶつかってしまった。

 突然の柔らかな感触に慌てて後退り、謝罪をするが、西城は銃に集中していたのか小首を傾げるばかり。おじさんも景品の方を向いていて気づいていなかったようだし、ここはラッキーだと思って誤魔化しておこう。


 敢えて言わない事が良い時もある、のだ。多分。それが今なんだ。きっと。


 曖昧な笑みを浮かべて「何でもない」と言いつつ、少し離れた位置から見守る。


「どれに、しようかなぁ………?」

「へへっ、悩みな悩みな。ま、弾の数は変わんねぇからな」


 あちらこちらへ銃口を向ける西城。中々撃たないが、花火の最中に並ぼうとする人なんていないと考えているからだろうか。

 実際誰一人屋台に近づこうとすらしないし問題ないんだろうけど、流石に時間をかけすぎな気も―――ん?


 西城がチラチラとこちらを見ている事に気づく。

 何かを伝えようとしている………いや、この状況で何かを無言で訴える理由なんて無いな。

 まだまだ花火が打ち上がってる最中だし、俺がちゃんと見てるか気になっただけだろ。


 ………だとしてもおかしくないか?ちゃんと見ているか気にするなんて。

 子供じゃあるまいし。


「………はぁ。じゃ、まずはアレを―――っと」


 溜息一つの後、ぱこんっ、という軽い音と共に、コルクの弾がチョコレート菓子の箱を倒す。

 見事なクリーンヒットに、おじさんも俺も感心の声を漏らした。


「やるねぇ嬢ちゃん。後二発だよ」

「勝手に射的やったこと無さそうとか思ってたけど、上手いな」

「ふふっ。シューティングゲームは得意だからね」


 得意げな笑みを浮かべ、今度は素早く狙いを定め、スナック菓子を撃ち抜く。

 じっくり時間をかけた最初はともかく、ほとんど間を置かずに撃った今回さえも当てるとは思わなかったのか、おじさんが目を見開いた。


「ほ、ほんとにやるね、嬢ちゃ―――ああっ、ちょ、ちょっと待った!そんな上手なら、最後はこのデカいのを狙ってみないかい?!」


 褒め言葉の途中で引き金を引こうとした西城を慌てて止めて、ちょうど屋台のど真ん中に鎮座している巨大なぬいぐるみを指さす。

 到底コルクの弾一発では倒れそうにない。明らかに最後の一発を無駄撃ちさせようとしている。


「………性格悪いっすねぇ」

「いっ、いやいや!俺ぁただ、こんだけ上手いならこの目玉景品もゲットできるんじゃねぇかと思っただけで―――あっ」


 俺の言葉にオーバー気味に反応している最中に、西城の最後の一発が縦に設置されたチョコレート菓子のアソートパックを見事に撃ち落とした。

 アレはアレで難易度が高そうだったが、流石は西城と言った所か。


 悔しそうに項垂れつつお菓子を手渡したおじさんは、西城に一言「おめでとさん」とだけ言うと、鋭い眼光をこちらに向けた。


「―――そんで、彼氏さんの方はどうすんだい。まさか嬢ちゃんがやったのに自分はやんねぇとかカッコ悪ぃは事は言わねぇだろぅ?」

「かっ、彼氏………!?」

「別に付き合ってるわけじゃないですけど………。まぁ、せっかくなんで挑戦しましょうかね」


 百円を渡して、銃を受け取る。何故かおじさんだけではなく、西城からも敵意と言うか、恨みがましい視線を向けられている気がするが、一旦無視して狙いを定める。


 狙うのは勿論、一番の大物だろうあのぬいぐるみ。

 流石に弾一発じゃ落とせないだろうが、上手くやれば落とせるはず。


 ………あのぬいぐるみだけ接着剤か何かで固定されてる、とかじゃ無ければ。


 若干緊張してきた俺だったが、引き金に指をかけた所で、突然背後から声をかけられる。


 ―――俺ではなく西城が。


「やぁっ、初めまして!俺は鎌瀬かませ康太こうた。君の名前は?」

「………もしかして、ボクに話しかけてる?」

「ははっ、もちろん!」


 ちょっとイラっとするくらい爽やかに声に思わず振り向く。

 突然現れ前置きも無く自己紹介を始めた鎌瀬と名乗る男は、爽やかな笑みを浮かべながら、しかし視線を露骨に西城の胸へ向けて立っていた。


 何だコイツ、と顔を顰めそうになるが、それ以上に彼の容姿に驚かされる。


 月光のような金髪に、真っ赤な瞳。日本人離れどころか現実離れした色彩でありながら、全くの違和感を感じさせない完璧な目鼻立ち。まるで創作物の世界から飛び出してきたかのように完璧な外見に、俺とおじさんは思わず息を呑んだ。


「………驚ぇた。兄ちゃん、芸能人かなんかかい?」

「え?ははっ、やだなぁ。俺はただの一般人ですよ。―――ちょっと顔が良いだけの、ね?」


 人差し指を立てて片目を閉じる。そんな気取ったポーズすら、鎌瀬がしているというだけで様になって見える。


 ………だけど、何故だろう。ついこの間までの俺みたいな言動に、何とも言えない不快感を覚える。

 ちゃんと外見が伴っているから問題ないんだろうけど………いや、それでもキツイな。


 なんでだ?過去を突き付けられているような気分になるからか?それとも、自分の上位互換を見せられているからか?


 多分両方だな、と勝手に納得していると、西城が溜息交じりに口を開いた。


「悪いけど、いきなり声をかけてきた相手に名前を教える気にはなれないよ。それと、人の体をジロジロ見ないで欲しいな」

「えっ?―――あぁ、ごめんごめん。そっか、ね」


 ぽかん、と呆けた顔を見せた鎌瀬だったが、それもほんの一瞬の事。

 すぐに気取った態度を取り戻し、首に手を当てて、今度は俺の方を見てきた。


 しかし何かを言ってくる事は無く、そのまま屋台へ視線を走らせ、頷いた。


「じゃあさ。あのぬいぐるみ、俺が取ってあげるよ。欲しいんでしょ?」

「いや、別に」

「またまたぁ。あ、そうだ。なら彼氏さん、アンタと俺の勝負ってのはどう?アレを先に取った方が勝ち。俺が勝ったら、彼女さんの名前教えてよ」

「っ、彼―――って、違う!!別にまだ付き合ってないし!!ぬいぐるみも別に欲しく無いし!それに何より、ボクを景品にするような真似をしないでもらいたいな!はっきり言うけど、不愉快だよ!」


 声を荒げる西城に、鎌瀬は笑みを崩さない。わかっていますよ、とでも言うように余裕を醸し出しつつ、おじさんに百円を渡した。


「じゃ、まずは俺からやらせてもらうよ―――っと」


 俺の返事を聞くこと無く、ぬいぐるみの顔面に弾丸を命中させる鎌瀬。自信満々に勝負を吹っ掛けてきただけあって、中々上手い。


 とはいえ、ぬいぐるみも一度当たった程度では倒れない。わずかには動いたので、接着されているという訳でも無さそうだが………単純に、落とすまでにかなりの回数を要する作りなのだろう。


 鎌瀬もそれに気づいたのか、「弾を使い切ったら交代するルールにしよっか」と提案してきた。


 残弾もしっかり命中させた鎌瀬は、俺に銃を渡して西城の隣に立とうとした。が、西城が頑なに距離を取り続けるので、結局は諦めて、西城が逃げないギリギリの距離で止まった。


 ………さて、と。


「もう二百円払うんで、銃三丁使わせてもらって良いですか?」

「えっ?あ、あぁ、別に構わねぇけど、弾使い切ったら交代ってルールになったんじゃないのかい?」

「そうだよ彼氏さん。自信が無いのはわかるけど、一度に九発分も使うなんて。カッコ悪いとは思わないかな?」

「別に弾数を増やして欲しいなんて言ってないし、そもそもその勝負とやらに乗ってやったつもりも無い」


 三丁全部をすぐにでも発射できる状態にした上で、再度ぬいぐるみの状態を確認。

 鎌瀬の挑戦でわずかに傾いており、彼が撃った場所周辺を撃つ事が出来れば、そしてソレを何度か続けていればいつかは落とせるだろう、と言った状態。


 だがそれは、普通にやる場合の話だ。


 勝負とやらに乗ってやったつもりが無い事は先ほど言った通り。だが、鎌瀬みたいなヤツああいうタイプは自分に都合の良い解釈と考え方しかできない。

 今の否定の言葉だって適当に聞き流されているか馬鹿みたいに歪めて解釈されている事だろう。

 そして、もし俺が落とし損ねて、その上でアイツが落とした場合。

 西城の名前を「勝者の特権だろう?」とか言って無理矢理聞き出して、挙句はそれ以上の要求さえ押し通そうとしてくるはずだ。


 ついこの間までの自分がまさにそういうタイプだったから、良くわかる。わかるし、そんな俺がコイツに対して苛立ったりするのもおかしな話だってのも重々承知している。


 けど、西城がここまで露骨に嫌がってるのは初めて見た。

 ある『ヤバい女』に付きまとわれてた時でさえ、最後まで相手を気遣うような真似をしていたコイツが、こうも距離を取って顔を顰めて………。

 そんな姿を見て、「でも俺には何を言う資格も無いし」とか言うはずが無い。言えるわけが無い。


「―――何より、嫌がってるのを無視して自分の事ばっかり押し付けてる姿が………はっきり言うけど、気に入らない」

「ふーん。それで?結局何が言いたいのさ?外しちゃっても勝負じゃないから関係ありませんーとか言うつもり?だとしてもダサい事に変わりはないよ。彼女さんも幻滅しちゃうんじゃないかな?勝負とか関係なしに、ぬいぐるみを落とせた俺の方が、ってなると思うけど」

「幻滅も何も、いきなり出てきて名前聞いてきた挙句、断られたらゲームの景品扱いしてくるようなヤツよりは断然マシだろ」


 鎌瀬の表情が崩れる。

 やれやれ、勘違い野郎時代の俺なら、この程度の煽りなんて気にせず余裕を貫いただろうに。


 ………いや待て。誇るな。あの過去を。あんな小っ恥ずかしい過去でマウントを取るな。


 場の空気ってヤツか?とか言い訳を思い浮かべながら咳払いを一つ。深呼吸も一つ。

 そして、周りの音が一瞬聞こえなくなるくらい集中力を高めて、机の上に置かれた銃へ素早く手を伸ばし、撃つ。


 一発目。


 鎌瀬が最後に当てた場所とに命中。衝撃でわずかに揺れ、位置がズレる。揺れが収まるまでのほんの刹那の内に、用意しておいた二丁目の銃を手に取り、引き金を引く。


 二発目。


 またしても先ほどと寸分違わず同じ場所に命中。ますます揺れが大きくなり、さらなるズレで重心がやや不安定になる。狙い通り、あと一押しで落とせる状態になった。


 そして、三発目。


 揺れるぬいぐるみの頬を掠めるような位置に向かって放たれた弾は、狙い通り『あと一押し』としての役目をしっかりと果たし、見事にぬいぐるみを落とした。


 くるり、と半回転するようにしてぬいぐるみが棚から滑り落ちると同時に、背後から驚きの声が聞こえた気がする。


「それと。別に外すとも、ぬいぐるみが取れないとも言ってないからな?」


 ちょっと気取ったセリフだが、鎌瀬コイツ相手ならちょうど良いだろう。

 この手のヤツは、別の事に意識を向けさせてやるのが一番効くのだ。対抗心とかに向けさせてやると特に、な。


 余裕でしたが?と口角を上げて振り向くと、それはもう見事に眉間に皺を寄せた鎌瀬と、なんでか顔を真っ赤にしている西城、そして―――大勢の野次馬が視界に映る。


 ………えっ、野次馬?


「じゅ、銃を三つも使うなんてズルをして、それでそんなに勝ち誇るのかよ。ダサい事には変わりないね」

「なら、やってみるか?」


 何故こうも人が集まっているのだろうか、と思いつつ、おじさんにぬいぐるみを初期位置に戻してもらう。


「銃三つ使って挑戦するのがダサいかどうか、実際にやって確かめてみたら良い」

「うっ………い、いや。条件が違う!そっちが落とせたのは、先に俺が動かしてたからだろ?銃三つというズルもそうだけど、既にある程度動いていた的を落としたって言うのが何よりダサいね!」

「まぁ、確かにそうかもな」


 一理あるので、もう一度挑戦してみる事に。

 三百円を払って、銃を三丁用意して、同じ要領で連続撃ち。

 当然ぬいぐるみは見事に落下し、野次馬たちから驚愕と感心の声が聞こえてくる。


 歓声に少しだけ気分を良くしながら、再度初期位置に戻してもらって鎌瀬に譲る。


「ほら、初期位置からでも落とせるだろ?」

「ッ、あ、あぁ………そう、だね」


 苦々し気に表情を歪め、三百円を払う鎌瀬。


 銃を用意する姿を黙って見ていると、いつの間にか隣に立っていた西城が耳打ちしてきた。


「凄かったね、さっきの。射的、得意だったの?」

「あー、うん、一応?」


 射的もまた、イケメンとして出来て当然の技能だと考えて練習したモノである。


 おかしくね?と思う人もいるかもしれないが、当時の俺は「お祭りデートで女の子の欲しがる景品をサラッと取ってしまうイケメンな俺」という幻想に憑りつかれていたので、特におかしいと思う事無くおもちゃの銃を日夜構えていた。


 ホント、何してたんだろうなあの頃の俺。


 若干遠い目になりかけた所で、鎌瀬の挑戦が始まった―――が。

 やはりと言うか、彼は一発目こそ見事命中させたものの、揺れが収まるまでに二発目を放つ、というのがまず不可能だったようだ。しかもそれで焦ったのか、最後の銃を落としてしまった。


 見事な大失敗である。

 とは言え俺が連続撃ちを出来るようになるまでそこそこの期間練習したので、そんなすぐに模倣されたら膝から崩れ落ちる所だったが。


「で、どう?俺としては別にダサい取り方じゃないと思うんだけど」

「ッ………!!」


 我ながら嫌味なキャラになってしまっているが、これで鎌瀬の意識は俺の方へ向いたはず。

 西城の事を忘れて、「このいけ好かない野郎をぶっ潰す……!」と対抗心なり闘争心なりを燃やして、「覚えてろよー」的なノリでそのままどこか行ってくれれば完璧なんだけど………。


「………アンタ、名前は?」

「コイツと同じく。言いたくない」

「チッ、あっそ。あーっそ!!ま、良いよ。顔覚えたし。―――冷めたし、もう帰るわ。じゃーね」


 まくし立てて、そのまま踵を返して去っていく。野次馬の九割ほど―――浴衣姿の女性達が彼を追って離れていき、残る一割も終わったのかと解散した。

 なるほど。鎌瀬目当てに集まった女性達の集団が出来て、その集団に何となくその他が加わってあの野次馬集団が出来ていたのか。


 いつの間にか花火も終わっていたし、鎌瀬目当てに集まっていたのも、おかしな話ではないか。


 勝手に納得していると、俯いていた西城が俺に向き直って、髪先を指に絡ませながら口を開いた。


「………ありがと、蓮司」

「どういたしまして。ま、礼を言われるような事をしたかって言われたら、そうでも無いけどな」


 しつこく言い寄られている西城を助けよう、と思ったのは事実だ。

 だがそれ以上に、俺は過去の自分を、なんならその上位互換を見せられているような気分になって、それが嫌でアイツを追い払った。


 何が「西城が嫌がっているからー」だ。俺は結局自分の事しか考えていない。九条の抱える問題から目を背けた時と同じ、情けない男のままだ。

 そりゃ一週間程度で人が大きく変わるなんて思わないけども。


「………アイツ、俺と似てたから」

「えっ?」

「あぁ、いや。見た目とかそういう話じゃなくってな?なんかこう、あの軽薄な感じといい、自信に満ち溢れた感じといい………って、言ってもな。それもあんま似てないか、ははは………」

「うん。本当に似てないよ」


 バッサリと否定され、思わず目を見開く。


 正直見た目が伴っているかいないか以外は、まるで同じだったと思ったんだが………西城には、何かが違って見えたらしい。

 まぁ実際に俺とアイツが同じに見えてたら、俺を邪険に扱うなりアイツに親し気にするなりしているだろうし、嘘をついているわけでは無さそうだ。そもそもこんな所で嘘を吐く理由が無いと思うが。


 では何故、と理由を聞こうとした所で、おじさんが割って入ってくる。


「兄ちゃん兄ちゃん。話してるとこ悪いけど、ぬいぐるみ」

「あ、貰って良いんですか?」

「そりゃ二回も落としてるし。なんなら金も無駄に貰っちまってる分は返すよ。なんか気分が悪ぃ」

「き、気分が悪いですか。ならまぁ、ありがたく」


 余分に払った百円玉と、目玉景品のぬいぐるみを同時に手渡され、苦笑い。

 金は正直最近怪しくなってきたので戻ってくるだけありがたいのだが、このぬいぐるみ………うーん、いらないとは言っていたけど、一応聞いてみるか。


「………えっと、あげる、って言ったら受け取ってくれたりする?」

「え、うん。すっごく受け取る」

「すっごく受け取る?」


 食い気味な返事に驚きつつも、受け取ってくれるなら、とぬいぐるみを渡す。

 「別に」とか言っていたはずの彼女は、しかし嬉しそうにぬいぐるみを受け取り、顔をうずめた。


 なんだ。本当は欲しかったのか。

 確かに、アイツ相手に馬鹿正直に欲しいとか言ったら、それをダシに色々言われそうだったしな。


「そういや花火、ほとんど見逃しちゃったな」

「あっ。そうだね。―――でもまぁ、もっと良いモノが見れたし、もらえたし………良い思いも、出来たし。ボクは満足してるよ?」

「満足してるなら、まぁ、良いんだけどさ」


 デートと言うには乱入者が随分と多かったような気がする。

 いや、数自体はそうでも無いのか。最後のヤツがちょっとインパクト強かっただけで。特に俺に対して。


「じゃ、ブルーシートとか、片づけに行こうか」


 背を向けて歩き出した西城に、ゆっくりとついて行く。

 道中で一度だけ、西城が何かを呟いたような気がしたが、周囲の喧騒にかき消され、特に聞き返す気にもならず。


 元居た場所へ戻った俺達は、相変わらずの重苦しい雰囲気を纏う生徒会長に、「私の家に寄っていきませんか?」と、微笑み交じりに出迎えられた。


 ………戦いは続く、か。


「あ、御堂君は帰ってくださいね。ガールズトークですので」

「えっ?」

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