第8話 絶対堕とす♡
「あっ、おはようお姉ちゃん♡」
朝はコハルとの挨拶から始まり、そのままキス。
「お姉ちゃん♡ あーんっ♡」
昼は人気の無い場所で一緒にご飯を食べて、そのままキス。
「今日も寝るまでキスしよ? お姉ちゃん♡」
夜はお互いの温もりを感じ合いながら、キス……。
───率直に言う。頭おかしくなるて。
もはやルーティーン。アスリートが毎日欠かさずトレーニングを積み重ねるかのごとく、私はコハルと唇を重ねている。何もうまくないよ。というかまずいよ、このままじゃ。
以前までのように、身体中にキスされたりすることはなくなったが、未だ私たちの関係は健全とは程遠い。どころか、完全に爛れている。倫理観ぶち壊しフルバーストである。
どうにかしようと思う気持ちはあるのだ。実際にキスを拒否することもしばしばあるのだが。結局は抗いきれない。
日中避ければ夜が激しくなるし(意味深ではない)、逆に夜を避けようと窓の鍵を閉めたら、かち割られそうになった。
あぁ、神様……私は一体どうするのが正解なのでしょうか。
「お姉ちゃーん♡」
「……おかえり」
土曜日の昼下がり。リビングのソファで悩む私に、買い物から帰ってきたコハルが後ろから抱きついてくる。うわぁ……! こ、後頭部に柔らかいものがっ……!!
と、これまでの私なら考えていただろう。だがしかし、いくつもの修羅場を乗り越えてきた私には、今さらそんなモノききはせん。
「ふぅー♡」
「ふあぁっ……」
思わぬ攻撃に顔が蕩けてしまう私。不意打ちなんて卑怯だと言う間もなく、コハルが隣に腰をおろしてくる。
いたずらが成功して喜ぶ幼子のような、良い笑顔をひっさげたコハルは、なにやら大層嬉しそうである。機嫌が良いというか、妙にそわそわしているような気もする。
先ほど買い物をしている時に、何かを良い事でもあったのだろうか。
「……上機嫌だね」
耳ふー攻撃から回復した私は、速攻でポーカーフェイスを決め込み、いかにも姉風に聞き込む。
「えっへへぇ~。わかる? わかっちゃう?」
いつも浮かべているのとは種類が違う笑顔。なんだか、童心に帰るというか、初心に帰るというか。今日のコハルを見ると、久々にお姉ちゃんとしての魂がうずく気がする。
そんな気分も相まって、ここ最近では一番穏やかな心境だ。コハルともかなり姉妹らしいやり取りができている。
そう……これだよ、これ。やっぱり、こういうゆったりした健全な時間こそ、姉妹らしいと言えるんだよ……!!
「それで、何があったの?」
気後れすることなく言葉を紡ぐ私。お姉ちゃんっぽい! すごくお姉ちゃんっぽいよ!!
ふと、私の体に体重を預けるコハルの頭を見る。そういえば、昔はよく撫でてあげていた。くすぐったそうに、でも嬉しいって笑ってくれたのが可愛くて、ずっと撫でくりまわしてたんだよなぁ。
思い出を想起するうちに、無意識下で私の手は伸びていき、気づけば、コハルの頭を優しく撫でていた。綺麗に整えらた髪を崩さない程度に、柔らかく、流れるように。
「お姉ちゃん……」
「あぁ、ごめん。なんだか、今日のコハルは昔みたいだったから、つい……ね。嫌だった?」
「ぜんっぜん嫌じゃない! むしろもっとやって欲しい!」
「……そっか。うん、わかった」
それから数分、コハルに言われるがまま、ひたすら頭を撫でてあげた。
その間は、コハルもキスをせがんできたりすることはなく、本当に姉妹らしいゆったりとした時間となった。
「待って、忘れるところだった」
うとうとと、軽く眠りかけていたコハルが、はっとして目を見開く。垂れかかった涎をティッシュで拭いてあげると、恥ずかしそうに目をそらした。
ちょっとだけ見えてる耳が真っ赤になっていて、ここしばらく拝めなかったコハルの弱々しい姿に、かなりキュンとしてしまう。
「ほら、何がそんなに嬉しかったのか、お姉ちゃんに話してみて?」
「……うん」
素直! かわよ!! 撫でよ!!!
「実は、いつも行くスーパーでくじ引きやってて。私も引いてみたんだけど……」
「うん」
まだまだ恥ずかしそうにしているが、促すように優しく撫で続けると、頬を染めたまま話し始めるコハル。なんだこの可愛い生き物。……あ、私の妹だ。
「これ、当たっちゃった♡」
勝手に和んでいると、鞄からなにやら紙切れを二枚取り出すコハル。話の流れからして、くじ引きの景品だろうか。
差し出されたそれを受け取り、その詳細を自分で確認するべく目を向ける。
「温泉旅行……ペアチケット……?」
「そう♡」
その小さな紙切れにでかでかと書いてある文字を読み上げると、コハルが恍惚とした表情を取り戻し、私の体に絡み付く。
その吐息が首もとを掠り、ゴクリと私の喉を鳴らさせる。
「すごいね。こんなの当たるなんて……」
「うん、もうこれは運命だよね♡」
「何が」と聞こうとして、私は言葉を飲み込んだ。否、飲み込まされた。コハルが私の唇を奪い、熱烈なキスで私の口を塞いでいるのだ。
その温もりは、伝染するように私を火照らせ、顔を蕩けさせる。
「温泉旅行一緒に行こーね、お姉ちゃん」
離れたコハルの表情は、いつも通りの妖艶さをまとっていて、有無を言わさぬその態度に、私は自然と首肯していた──
「お姉ちゃんのこと、絶対に堕としてあげるから……ね♡」
──自分でも気づかないうちに、その言葉への期待を感じながら……。
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