第6話 堕ちちゃっても良いんだよ♡
私が生きた十六年の中で、最も濃い週末を送ったと思う。
今日は月曜日。金土日の三日間を振り返って、私はため息が出そうな程の多幸感と、ニヤついてしまいそうな背徳感に苛まれていた。
学校の授業もまともに聞く気になれず、一人だけ青空教室のような気分で窓の外を眺めていた。私のブルーな気持ちとは対照的に、万物を見下ろす大空は快いほど晴れ渡っている。……青いって点は同じかも。
思い返せば、コハルとのキス、キス、キス。そして時々舌の感触と、妙に甘い唾液の味。
こんな状態では、まともな日常生活なんて遅れいない。ただ、幸いなことに、私は高校の修学範囲などとうに通り越したし、コハルは中等部だからある程度距離が出来上がるはずだ。
と、昼休みまでは信じていた。
「お姉ちゃん♡ はい、あ~ん♡」
「……」
どうしてこうなるんだろうか。
目の前には、コハルの愛情がスーパー籠ってる弁当のおかず……を箸で私に食べさせようとするコハル。
まさか、わざわざ高等部の私のもとにまでやってくるとは思わなかった。どおりで、今朝コハルが作る弁当に、やたら私の好物を入れていたわけだ。昼食を同席するためとは……。
私が苦手にすることとして、第一に挙げられるのが料理である。
昔から両親が仕事で忙しく、コハルの面倒を一人で見ることの多かった私は、必然的に料理を作らなければいけない立場にあった。
だというのに、焼けば焦がし、調味料を間違え、そうして出来上がるものはいつもなかなかに酷い。米を炊いたり、おにぎりにするといったことは出来るのだが、いかんせん調理器具を使い出すとてんでダメ。
見かねたコハルが自主的に料理を学び、私とは違ってメキメキとその腕を上げていったのだ。
そうして、私の朝食と夕食は基本的にコハルが管理することになるのだが、とうとう昼食にまで侵食してきたか。
これはまずいぞ。いや、コハルの料理がではなく。
ここで昼食を共にすれば、前例を作ってしまうことになり、そうしたらあわやあわやと押しきられて……私の生活は常にコハルが隣にいる状態になってしまう!
「お姉ちゃん? はやく食べないと冷めちゃうよ」
さて、いったいどうしたものか。というか既に、人気のない階段の踊り場に連れ出され、二人っきりの状況。
……詰みでは?
いや、諦めるにまだ早い。実は、昼食はいつも自分で用意していた癖で、今朝コンビニに寄ってパンを買っていたのだ。そして、毎朝一緒に登校しているコハルもそれを目にしている。それを言い訳につかえば……。
「こは……」
「お姉ちゃんのパンなら私が食べちゃった」
「……………………?」
「コハルちゃんマジック」
がさごそとスカートのポケットから、なにやら空の袋を取り出すコハル。それは紛れもなく私が買ったパンであった。
い、いつの間に……。
「逃げ道はもうないよ。ほら、おとなしく口開けて♡」
「……あーんっ」
おとなしく諦めることにいたしました。私は妹に勝てないクソザコおねーちゃんです。どうぞもう煮るなり焼くなり好きにして下さい。あ、コハルの料理美味しい。
「ほら、次もだよ♡ あーん♡」
「あーんっ……んぅ」
このやり取りを繰り返し、結局私は、強いコハルを前にして屈するしかなかった。
そうして、弁当も残り一口となった時。コハルが、わざとらしくお腹の音を口で演出し始めた。
「あ、やっぱりパンだけじゃ足りなかったかも。お姉ちゃん、一口貰っていい?」
残ったのはちっちゃいハンバーグ。私の一番好きなおかずだが、コハルが欲しいというのなら好きにすればいい。もともとこれはコハルが作ったものなのだから。
そう思い、私は首肯する。
「ありがと。お姉ちゃん♡」
「……っ!?」
直後、私はその決断を後悔するはめになった。
ハンバーグを一口で食べ、数回の租借の後に飲み込むコハル。私は、その姿に目を奪われて、視線を外せなかった。
美味しいからなのか上気した頬。なぜかしっとりと汗をかいた首もと。極めつけは、今まで私が咥えてきた箸を執拗にしゃぶり舐め回すコハルの妖艶な表情。
私はその色香に当てられ、分かりやすく喉を鳴らした。
「ふふっ、お姉ちゃんの味、美味しい♡」
「な……にを……?」
「何って、間接キスだよ。お姉ちゃん♡」
ニマニマと、あざといような顔を作り、私のはやる胸に、手を当ててくるコハル。
「ドキドキしてるね」
「……してない」
嘘だ。心臓の音は鳴り止むってことを知らないんじゃってくらいバクバクだし、それは手を当てているコハルにだって分かっている。それなのにこんなことを言うのは、一種の強がりに近い。
それは、コハルを遠ざける意図も含まれてはいるが、それ以上に、期待や不安感が大いにある。
コハルもそれを感じ取ったのだろう。舌なめずりをして、私の胸をそっと撫でる。
「んひゅっ……」
なんて情けない声なのだろう。こんな声が誰かに聞かれたらまずい。そもそも、コハルに聞かれるのも恥ずかしい。だというのに、止める気がおきない、コハルを止められない。
「私がつけた跡……まだ残ってるよね?」
「……」
その時を思い出し、恥ずかしさで顔を染めながらも、ゆっくりと首を縦にふる。すると、満足げなコハルが、やはりにんまりと笑う。
「ここで……つけ直そっか♡」
「……!! だっ、だ……め」
「やって欲しい癖に……」
私の制服のボタンに手をかけるコハル。私は一つ……また一つとボタンが外されてくのを見つめるしかできない。四つ目に入り、これも外れれば完全に制服がはだけてしまう。
止めなくちゃ、頭では分かっているのに、行動に移せない。それどころか、もはやコハルに蹂躙されることを望んでいる自分がいるのだ。それが信じられなくて、それでいて受け入れたくなる。
「あぁーあ、残念だねお姉ちゃん。今はここまで」
ぼんやりとした意識が、大きなチャイムの音で浮上する。視界の片隅に映る時計は、昼休みが終わる時間を指し示している。
どうやら、ギリギリで助かったようだった。そのことにほっとするやら、ちょっと残念に思うやら……。
どちらにしろ、これ以上ここにいたら、次の授業に遅刻してしまう。それはお互いまずいだろう。
「あ! でも、お姉ちゃんがどうしてもって言うなら……また、夜に……ね♡」
耳元で誘うように囁かれ、ビクッと肩を震わせる。目が合うと、コハルの瞳は私の劣情を見透かしたように目を細めた。その表情に、私のどこかが、きゅうぅっと締まるのを感じした。イケナイコトを、もっと感じてしまう。淫らなお姉ちゃんに、なってしまう。堕ちて……しまう。
「堕ちちゃっても良いんだよ? お姉ちゃん♡」
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