君と過ごした最後の夏

 この春。僕は大学生になる。君と過ごした、この緑豊かな団地とも今日でお別れだ。


「もう二年半になるんやな」


 高一の秋、体育祭に向けてふたりで走り込みをした。しかし、その前日。体育祭の前日準備で遅くなってしまった君は、飲酒運転の車両に轢かれ、帰らぬ人となってしまった。


 呆然とした。


 あまりに突然だった。


 なんとか一着になって、君に届けようとしたけれど、僕の足では足りなかった。


 バトンを繋いだときようやく涙が溢れた。


 次の年の夏。突如現れた君は、昨日別れたばかりのような、そんな気軽さで僕に手を振り、そしてブランコに座った。


 それが、最後の君との思い出。


 夜の闇に溶けていく君は、どこまでも明るくて、夕闇と対照的に、昼間の太陽のようだった。


 まるで、暮れていく太陽を知らないかのよつに。


 そう。


 君は、たそがれを知らない。

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君はたそがれを知らない 千瀬 華 @hanadairo1000

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