47 菜の花の姫 お母さん。
葉の花の姫
お母さん。
「白藤の宮。私は幸せになってもいいんでしょうか?」
白藤の宮の顔を真っ直ぐに見て、(不安そうな声で)若竹姫は言う。
「そんなの当たり前です。聞くまでもありませんよ。『あなたは幸せになってもいいに決まっています』」といつものように、にっこりと笑って(私はなんでも知っているのですよ、とでも言いたそうな、自信満々の顔をして)白藤の宮は強い言葉で、そう言った。
その白藤の宮の言葉を聞いて、ずっと結婚のことについて悩んでいた若竹姫は、都に帰ったら、婚姻のお話をうけて、『あの人と結婚をすること』を心に決めた。(それをどうするのか、決めるために、若竹姫はこっそりと都を抜け出して、白藤の宮の暮らしている鳥の巣を久しぶりに訪れたのだった)
「はい。わかりました。ありがとうございます。白藤の宮」となんだかすごくいろんなことを吹っ切ったような、とてもすっきりとした顔で、にっこりと笑って若竹姫は白藤の宮にそう言った。
(白藤の宮は若竹姫の顔を見て、とっても幸せそうな顔で、ころころと子供みたいに笑った)
若竹姫の結婚の相手の名前は、朝雲の君と言った。
朝雲の君は若竹姫の実家の由緒ある神社の近くに暮らしていた幼馴染であり、ずっと昔から、ある日、偶然に宮中のお屋敷の中で、その姿を見かけた子供のときから、若竹姫が(密かに)恋をしていた都の王子さまの一人だった。
二人の結婚の話は、噂になったときから、宮中のみんなが祝福をしてくれていた。
若竹姫と朝雲の君のご関係は、みんながなんとなくもうわかっていることだった。(周りから見れば、好きあっているのは、こっちが恥ずかしくなるくらいに、ばればれだった)
その結婚のお話に唯一、不満そうな気持ちを持っていたのは、結婚をする、……、若竹姫、一人だけだった。
(若竹姫は自分が結婚をする、ということを、自分が幸せになるということを、どうしてもうまく呑み込むことができなかった)
若竹姫は鳥の巣の中を白藤の宮と一緒にお掃除をして、自分がお世話になる前と同じように綺麗にしてから、それから、都に帰る支度をした。
もうそろそろ、都に帰らないと、自分の不在がばれてしまうかもしれないと若竹姫は思った。(身代わりをしてくれている香穂姫も、泣いてしまうかもしれない)
「では失礼します」
帰り支度をして、鳥の巣を出るときに、出入り口の扉のところで、若竹姫は頭を深々と下げて白藤の宮にそういった。
それから若竹姫がゆっくりと頭を上げると、白藤の宮はふふと笑って、「若竹姫。頑張って」と若竹姫に(いつものように、とても眩しい笑顔で)両手をぐっと胸の前に持ち上げて、そう言った。
「……、はい。頑張ります。……、白藤の宮」と笑顔の若竹姫は、(嬉しいはずなのに、なぜか、少しだけ泣きながら)白藤の宮にそう言った。
……、それが若竹姫と白藤の宮の、(まるで本当の娘とお母さんのような二人の)今生のお別れとなった。
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