40 夕凪 あなたはどこに隠れているの?
夕凪
あなたはどこに隠れているの?
小さな森の中で、茂みががさがさと揺れている。
夕凪がその音を聞いてそちらを向くと、そこからすぐにがさっという音がして、一人の可愛らしい顔をした長い綺麗な黒髪の女の子が水面から飛び出した魚のようにぴょこんと顔を出した。(その姿は、本当にかわいかった)
「あ、見つかっちゃった」
驚いた顔をして、そのまだ頭の一番上のところの髪の毛に木の葉を一枚、乗っけたままで気がつかないでいる、まるでお人形さんのように綺麗な、鮮やかな紅葉のような真っ赤な着物を着ている女の子は言った。
「ふふ。姫様、頭の上に木の葉が乗っていますよ」
にっこりと笑って(自分の頭の一番上のところを指さしながら)夕凪は言った。
「え? 本当? どこどこ?」
すると茂みの中から出てきた姫様と呼ばれた女の子は、その頬を真っ赤に染めて、とても恥ずかしそうな顔をしながら頭の上に乗っている一枚の木の葉をぱっぱと手で払って落とした。
「夕凪。取れた?」
姫様と呼ばれた女の子はその大きな美しい(水晶玉のような)黒い目で、じっと夕凪を見ながらそういった。(その大きな目の中には、夕凪の姿がちゃんと写り込んでいた)
「はい。取れましたよ、姫様」
その場にちょこんと膝を抱えて、しゃがみこんで、姫様と呼ばれた女の子と視線の高さを合わせてから、夕凪はにっこりと笑って、そういった。
すると姫様と呼ばれた女の子は本当に嬉しそうな顔をして、(夕凪の真似をするようにして)とても愛らしい顔で、「よかった」と言って、にっこりと笑った。
……、夕凪はそこで淡い夢から目を覚ました。
目を開けた夕凪の見る世界は、まだ真っ暗なままだった。……変な時間に起きてしまった。どうしてだろう? 眠りは深いほうだと思うんだけどな……。
ゆっくりと厚手の布団から上半身だけを起こして、まだ目覚めきっていない重たい瞼を綺麗な白い指でこすりながら、年老いた夕凪は真暗な部屋の中で、ぼんやりと見える、しっかりと閉じられている障子を見ながら、そんなことを思った。(その障子が、ずっと昔のように勝手に向こう側から開けられることは、もうなかった)
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