アトス ➃

 教会に意識が戻ると俺は祭壇に一人でいた。〈隠者の指輪〉の効果は結構すごいな。神父やシスターに泣かれていなくてホッとした。

 祭壇の脇に寄付金を入れる場所があったので金貨を二枚入れた。ほかの教会とお布施の差をつけることもないだろう。

 ほかの商人が入ってきたので少し脇に逸れてすれ違う。気配がないのに何かを避けた感じがしたのだろうか。商人が一瞬首を傾げた。


 俺は教会を出たら当然薬局に向かう。タバコを買うぞ。

 向かう道筋に酒屋を見つけたので中を覗いた。さすがに入り口を通った時に思い出して〈隠者の指輪〉の効果は弱めた。客がいるって気が付いてもらえないと困る。

「……っらっしゃ…ぃ?」

 一瞬ビクっとされた。次からは入り口に入る前に。気を付けよう。

 恰好を見てか上客と見られたらしく、いい酒を紹介された。

 ワインをいくつか味見をしたら飲みやすいのがあったので人前で水代わりに飲むのにはいいかと思って買った。爽やかな味わいがあって気に入った。

「お兄さんはワイン派ですかー?」

 ブランデーは樽の匂いが強かったのでやめた。ここの流行りなのか。味見したものは三種類とも独特の香りがした。ツウ好みなのかも。俺はただの酒飲みなので飲みやすいのが一番だ。

 良い値段のワインを中樽で買って、マジックバッグに見せかけた〈無限収納〉に入れた。それなりのお金持ちに慣れているらしく、マジックバッグは普通の顔で見ていた。おまけで甕のような小瓶のエールをつけてもらえた。

「これはうちの新商品です。美味しかったらまたきてください」

「わかった。ありがとう」


 店を出で、次こそ薬屋と思っていたら八百屋を見つけた。野菜は……カナンの方がいい物が売っていたと思う。やっぱり鮮度か。産地直送だろうけど時間がかかる。あえて買う必要もない……と思ったが店番の少女の視線に負けて芋を買った。

「これもおいしいよ、おじさん買っていって」

 悪気のないおじさん呼びは心に刺さる。だが、十歳くらい違えばおじさんだよな。俺は中身もっとイってるし……だが商売ならせめて「お兄さん」と言いなさい。

 店の奥に親父さんらしき人物がいて別のお客と話している。

 少女にオススメされるがまま、玉ねぎと人参と……カレーでも作るかな。

 ちゃんと売り物の中で良い物を選らんでくれた。大したものだ。

「おじさん、ありがとう」

 いい笑顔だったので釣りはいらないと少し多めに出した。麻袋に入れてもらったので小脇に抱えて店を出て、お店から少し離れてから〈無限収納〉に入れた。


 よし、次こそは薬屋に。店を覗くと店員に捕まるのでもう他は覗かないぞ。

 路地を曲がって進んで薬屋の看板を見つけた。壁にぶら下がってる板に薬瓶の絵が描いてある。

「いらっしゃい」

 この薬屋はボルドスの薬屋よりは匂い(・・)が薄かった。

 ここでは調合したりはしないのかも。

「クサ、欲しいんだけど」

 クサって口に出すのが普通になってきた……

「刻みか、噛みか……葉巻か」

 薬屋の主人はお爺さんだ。鷲鼻で長いひげ、髪は薄いけど色がオレンジだ。

「刻み百アムと葉巻三本」

「若いのによぅけ吸うね」

 お爺さんは刻みのクサ(・・)を棚から出してきて天秤に載せる。

「うちのはちょっと辛いけぇ、気を付けて吸いな」

 辛いんだ。早速吸いたい。

 金貨を出して支払うと刻みと巻く用の葉っぱと葉巻を包み用の大きな葉っぱで包んで出してくれた。

「お前さんは冒険者かい。ほかの薬はいいのかね」

 ぶっちゃけ、ケガしないしね。

「今は、いい。また入用の時にくるよ」

「そうかい。ありがとうさん」


 薬屋を出て、夕刻前だが宿に戻ることにする。

 もう今日は〈ルーム〉でくつろぎたい。夕飯も〈ネットショピング〉で何か美味しい物を買っていい酒を飲んで寝るぞ。

 大通りにでて歩いていると、少し派手なお姉さんたちとドットたちがいるのを見つけた。見つかりたくないので〈隠者の指輪〉を使う。

 飲み屋の前にはキャッチのような男もいて、そろそろ飲み屋の呼び込みが始まる時間だったらしい。

 間一髪で気配を消せたようだ。

 居酒屋や小料理屋なんかあれば寄ってもいいんだが、キャバクラみたいなのは今はいいかな。俺はまだまだのんびり一人で好き勝手する時間を優先したい。


 今夜は駅弁とか選んじゃおうかな。物産展は今はどこ特集だろう。

 ラーメンも良いなぁ……早くスマホをいじりたい。


 俺は思わず帰りを急ぐのだった。




 

 

 


 




 

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女神に可哀想と憐れまれてチート貰ったので好きに生きてみる 紫楼 @sirouf

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