第2話
(7/10)
—岐阜にて—
「あったね」
俺達は、森の中で禍々しい雰囲気を放つ赤いゲートを見つけた。
「結構グロテスクなんだね」
「そう?」
シスターはポケットから黒い布を取り出し、シスターが黒い布を被る。
「それは?」
「ああこれ?」そう言い、布の位置を目の位置にずらす。
「目隠しだよ」
その後、シスターの肌と布の間に入った髪を出す。
「なんで目隠し?」
「んー」シスターは少し考えた後、人差し指を唇にあてる。
「これからわかるよ」
「うえ、また出た」
眉を寄せる。
「強いて言えば、旧世界に行く準備かな」
シスターがそう言うと、「キウイちゃん、明飛君」と俺とキウイを呼ぶ。
「はい?」「はいっ!」
俺が疑問符を浮かべながら、キウイが元気よく返事する。
「入るよ。ここから先は危険な旧世界だよ。気をつけてね」
旧世界。どんな所なのだろうか。もしかしたら、ここで死んでしまうのだろうか。
心臓の鼓動がドク、ドクと大声を上げる。きっと、俺にしか聞こえてないのだろう。緊張の証だ。
「遺書は常に持っているので、いつ死んでも平気です!」
キウイが自信満々に答える。
いやいや、常に遺書を持ってるって。覚悟の差が違い過ぎる。とか思っていると、
「大丈夫、君達は私が守るから」
そう言い、シスターが一番にゲートの中に入って行く。
次に、キウイが入って行き、なんか頼もしいな。とか思いながら、最後に俺がゲートに入っていった。
いつの間にか、緊張はしていなかった。
(8/10)
「ようこそ。ここは旧世界、私達の職場だよ」
シスターは、俺が旧世界に着くと同時にこちらに向けて手を向ける。
「へぇ、ここが旧世界……」
パッと見、旧世界もいつも住んでいる世界の森とは変わらなかった。
だけど、
一つは赤い満月がある事。
もう一つは——空気感が違った。
押しつぶされるようで、気分が悪くなりそうだ。臭いがあるわけでもない。
だが、先程の森のような新鮮な空気も無かった。
「平気? 旧世界酔いした?」
旧世界酔い……? この空気感、俺は慣れそうには無いけど。
「そうみたい」
「おえっ」と言わんばかりに手を口に置き、吐きそうなジェスチャーをする。
「さ、行こっかキウイちゃん。近くにいるよ」
シスターがそう言うと白い髪を揺らし、走り出した。
「えっ? 置いてくの? 置いてくの!?」
分かりやすく驚くが、シスターは走って行く。
……行くしか無いか。
身体中の違和感を感じながらも俺も続いて走り出した。
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—数分後—
シスター。並びにキウイを追いかけていると、少し広めの草原に出た。
「やめろぉ! こっちにくるな‼︎」
草原に出てすぐに、男性の叫び声が聞こえる。
そちらを見ると、そこには青紫色の装甲をもった二足歩行の6〜7Mある怪物——ドラゴンがいた。
黄色く光るその瞳には威圧感が凄まじく、睨まれただけで腰が抜けそうになりそうだ。
「あれが、旧世界の怪物……」
足が動かなかった。俺は既に空気に押し潰されていた。動けなかった。
男性とドラゴンの距離はもう目と鼻の先。もう、手遅れなのかも知れない。
助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ……。
どれだけそう思っても、やはり足が動かない。
気づけば、シスターはどこからか取り出した鉄製の剣を持っては大きく振り翳し、ドラゴンの腕を狙う。
「キィィィィィィン!!」
……が、ドラゴンの装甲が硬く、シスターの剣は甲高い音と共に跳ね返されてしまった。
「くっ……」
シスターが言うと、後ろに飛び跳ねる。
刹那、ドラゴンの片腕が地面に叩きつけられる。彼女、予測でもしたのだろうか。
なんとか、ドラゴンの気を引く事は出来た様だ。
「あちらに帰りのゲートがあります、……シスターさん! 牽制します!!」
先程まで俺の隣に居たキウイが、いつの間にか男性に帰り道を教え、ドラゴンの間合いの少し外を走って居た。
男性は怯えた声で「あ、ありがとう……!」と言いながら走って逃げていく。
キウイはある程度の距離を取ると、杖をドラゴンに向けて詠唱を始める。
「Η εκρηκτική φλόγα που έχει εμφανιστεί σε αυτόν τον κόσμο, κάψτε τον αντίπαλό σας!
最高火力!
詠唱が終わると同時に杖の先から炎が出る。炎はドラゴンを包み込み、ドラゴンは大きな咆哮を上げる。
「ギャァァァォォ!?」
「や、やった……?」
キウイが爆炎に包まれるドラゴンを見る。
「いや、キウイちゃん。まだ……!」
シスターが言うと、爆炎の煙幕に紛れてドラゴンの姿が見える。
同時に、ドラゴンはシスターの方向の逆——キウイのいる方を向き、飛び出していった。
「キウイちゃん!」「キウイ!」
シスター、並びに俺がキウイに向かって叫ぶ。
キウイとドラゴンの距離は約5m。
キウイを助けなきゃいけないのに、いけないのに……!
『脚が震えて動けない……!』
俺はビビってる、あの大きな怪物に。
動け、動け動け動け動け! 目の前で人が、仲間が死ぬかも知れないんだぞ!
そう思いながら全力で右脚を叩く。
「ぁあ……!」
距離、僅か3m。キウイが小さな悲鳴を上げる。
だから動けよ! ああ!!
キウイが死ぬんだよ!
ドラゴンが爪を立て、切り裂こうと振り翳す。
距離、1m。
ギリギリでシスターが剣を盾にしてドラゴンの攻撃を受け止め、その衝撃でシスターが後ろに吹っ飛ぶ。
良かった……じゃない! 今のは唯のその場凌ぎ。きっと、またドラゴンの攻撃が始まる筈だ。
「ギャァァァァ‼︎」
ドラゴンが咆哮を上げ、キウイを向く。
シスターはキウイを庇って吹っ飛んだ。キウイはもうすぐには逃げられない。もう、終わりだ……。
俺は諦めて下を向く。せめて、俺がなんか出来れば……。
……いや、
そうだ、俺は強いんだ。きっと、俺はこの世界におけるゲームチェンジャーになる。
俺は、自分を鼓舞するために大袈裟な事を言い聞かす。
「うあああああああ! 俺は最強なんだあああああ!!
ようやく、脚が動いた。歩けた。走れた。
俺はドラゴンの気を引く為に、そこに落ちて居た小石をドラゴンに向けて思いっきり投げつけた。
「コツン」
ドラゴンの装甲に小石が当たると、ドラゴンは動きを止める。
そして、ドラゴンはこちらを向く。
「ひぃ」
ドラゴンの黄色い眼に見られ、俺は小さな悲鳴を上げる。
気づけば、ドラゴンは犬の様に四足歩行になってこちらに向かって走り出していた。
「よっしゃばっちこい! ドラゴンなんか俺の最強能力で跳ね返してやる……!」
根拠のない言葉だ。ましては、ドラゴンには人語が効かない筈だ。こんなハッタリめいた言葉、言うだけ無駄だ。だが、俺自身を鼓舞するには十分だった。
「あああああああああああああ!」
だが、怖かった。何も出なかった。
俺は発芽しなかったらしい。ならば、『死』あるのみ。俺はドラゴンに向かって叫ぶ事しか出来なかった事になる。
ドラゴンが口を大きく開く。ずっしり並んだ歯が見える。
ああ、終わりか。もう、死ぬのか。
彼女たちはきっと平気だろう。そろそろ立て直している所かな。
世界が遅く感じる。頭が高速で回っているのだろう。
別にやり残した事は無い。だから、心置きなく——
「
キウイの声が聞こえる。
刹那、ドラゴンの頭を閃光が貫く。
その後、ドラゴンがその場に倒れ込む。
「や、やりました……」
キウイが、俺—— ドラゴンに杖を向けた状態のまま『ボフッ』と言わんばかりにその場に座り込む。
「……良かった、です」
正にタッチの差。俺は生きていた。
「……生きてる」
なんだか力が抜けて、俺がその場に倒れる。
「やったんだな」
助け、助けられ。ギリギリだった。でも、勝った……
「……はっ?」
ドラゴンが動き出した。
なぜ? 死んだ筈では?
本能だけで動いていると言った感じだろうか。白い眼を向けている。旧世界の怪獣、生命力高すぎだろ。
白い眼を向けたままのドラゴンが、口を大きく開けてこちらに向かってくる。
「明飛さん!」「明飛君!」
キウイとシスターの声が聞こえる。
距離がある為シスターは助けに来れないだろうし、キウイは詠唱に時間がかかる。
逃げようにも無理だ。逃げ場なんてもう無い。
俺の最強能力で跳ね返す、か。我ながら馬鹿馬鹿しいな。情けない。
『弱点無し』は、結局の所『能力無し』だったのかも知れないな。
……死ぬ、のか。あまり怖くないな。人を救った訳だし。未練はない。
「終わりって、あっという間だったんだ」
刹那、俺はドラゴンに食い殺された。
(10/10)
第二話 ようこそ旧世界へ
アウター・サイドアップ。 無名のサブ @saku4387
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