魔王を1000回倒す勇者、オタ活に目覚める

魔王軍の三下

第1話 ごめん父さん

 そこは煌びやかに装飾された大広間だった。豪華絢爛というよりは薄暗く、威圧感がある。


 その大広間の中で、ある二人が武器を構えて向かい合っていた。


 片方は黒のローブを羽織り頭にツノの生えている魔王、もう片方は年季の入った防具で身を固め光り輝く剣をもつ勇者である。


 戦いの火蓋は魔王によって切られた。魔王が手を前に掲げた瞬間、全てを飲み込むブラックホールが勇者に向かって飛んでいく。


 戦いは一瞬で決着が着いた。勇者は持っている剣を横に薙いだだけだ。それだけで魔王はブラックホール諸共胴体を横一線に斬られていた。


 「勇者よ……貴様は、一体どうやってそんな力を手に入れたのだ。それは、個が持つにはあまりにも膨大すぎる」

 「繰り返したんだよ、何百回も。じゃあな、魔王。また会おう」

 「一体何を言っている…勇者……。くそ、死にたくない」


 勇者は倒れた魔王の横を素通りし大広間の1番奥にある部屋に一直線に向かっていく。


 部屋の扉を開くと、勇者は眩い光に包まれた。


 「私も連れてゆけ!勇者!」


─────────────────────


【数百年前】


 「……ここはどこだ」


 辺り一面真っ白な世界。声は帰ってくることなく虚空に消えていった。


 俺は魔王を倒したはずだ。まさか魔王の道ずれ上等の自爆に巻き込まれて俺も死んだのか?


 つまりここは死後の世界ってこと?死ぬ前に魔法使いに気持ちを伝えられたら良かったのに。


 「そうだよ、ここは神の世界。ようこそマシロくん」


 敵意はなかった。俺は声がした方に体を向ける。そこには体の透けた白髪の少年が立っていた。


 「君は誰?」

 「僕は神だよ」


 正直そうは見えない。神というのはもっと口元に髭を蓄えたジジイじゃないのか。


 「それは偏見過ぎない?神だって色々いるんだよ?」

 「俺の考えてることは筒抜けかよ」

 「まあ僕は神だからね!」


 ふふーん、となにか自慢げにしてるがただはしゃいでる子供にしか見えない。


 「そんな不敬なこと考えていいの?一応僕が君の魂を捕まえなかったら今頃昇天してるところだよ?」

 「そんなに自分が神だって言いたいなら神様らしいことをやってみろよ」

 「全然認めないね。じゃあ……そうだね、君を生き返してあげる」


 死者蘇生ってことか?でもそれは禁忌に触れることで……。


 「魔法使いに想いを伝えたいんでしょ?同じ村出身の幼なじみかぁ。いやぁ、いいね。青春だなって感じがするよ」

 「できるのか」


 自称神はほくそ笑んだ。……ような気がした。


 「対価は支払ってもらうからね」


 俺が瞬きをすると真っ白な空間から一転して凄まじい熱気と泣き声が聞こえた。……知っている。カルラだ。


 「ディド!レイラ!止めないで!まだマシロが中にいるの!」


 ディドは戦士、レイラは僧侶の名前だ。どうやら皆魔王の攻撃から逃れることができたらしい。


 体が動かない。でも、思念信号で話すことは出来る。


 俺は数年間旅を共にした仲間に、そして最愛の女に別れを告げた。


 もう一度瞬きをするとそこはまた真っ白な世界だった。それと、にんやりと笑んでいるショタが1人。


 「どうだった?気持ちは伝えられたかい?」

 「いや、無理だった」

 「ふーん、そっか」

 「本当に神だったんだな」

 「ようやく信じる気になったかい?」


 いや、正直まだ信じた訳では無い。


 「悲しいなぁ、でもまぁ神技しんぎに対する対価は支払ってもらうよ」


 ……なんだそれ。


 「僕は神だから神の御業……つまり奇跡を起こせるんだけどそれを人間に対して行う場合、人間は奇跡に対する対価を払わなければならないんだ」

 「ちょっと待てよそんな話聞いてないぞ」

 「でも仲間達と話せてよかったでしょ」

 「それは……、」

 「なら僕に対価をちょうだい。僕は君に魔王を倒してもらいたい」


 やるしかなさそうだな。……?魔王?


 「魔王ならもう倒しただろ」

 「僕が倒して欲しいのは平行世界の魔王だよ。如何せん他の勇者が弱すぎてね、魔王を

討伐できないんだ」


 平行世界ってなんだ?魔王って何体もいるものなのか?


 「んー、君が過ごした世界とは別の世界だと思ってくれていいよ。そこで君は千の世界に行き千の魔王を倒してもらう」


 この自称神の口車に乗せられた時点で……いや最初からこいつは俺に魔王を倒させるつもりだったんだろう。


 「いいぜ、やってやるよ」


 それから俺の魔王を倒す長い長い旅が始まった。


─────────────────────


 そんなわけで今に至る。


 もう何回別世界に渡ったか覚えてないが500回くらいは倒したんじゃないか?


 「てゆうかさっきの魔王やばかったなー。急にブラックホール飛ばしてくるし、あの剣がなかったら危なかったかも」


 扉の先、真っ白な空間を通り抜けると意識が朦朧としてくる。別の世界に移る合図だ。


 そのまま俺は意識を失った。そして俺が次に意識を取り戻すと、見たことの無い機械が目に入る。あの光る薄い板はなんだ?


 手を伸ばして見たが腕が短くて手が届かない。


 何故か分からないが別世界に行くと肉体がリセットされる。つまり赤ん坊からやり直さないといけないわけだ。


 そして成長するにつれてその世界について知り魔王を探して倒さないといけない。


 幸い勇者としての素質は引き継がれるようで覚えたスキルは次の世界に引き継ぎ戦うことができる。


 俺は母親と思われる女に抱っこされていた。隣には父親と思われる男が目に涙を浮かべている。


 「とっても可愛い子、あなた、名前はどうするの?」

 「そうだな……よし、今日からお前の名前は渡良瀬眞城わたらせましろだ」

 「いい名前じゃない。どうして眞城にしたの?」

 「城のようにかっこよく誰からも憧れられるような男に育って欲しいからさ!」


 安心してくれ父さん。勇者の俺がこの世界で誰よりも憧れられる存在になるよ。




──────ごめん、父さん。俺、VTuberにハマっちゃった。

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