私の学校

 20分ほど経ったか、着いたのは高校。私が通っている場所だった。




 校門の前には赤黒い雫が溜まっていた。あの人の数字だ。躊躇したのだろうか、でも煙は敷地内に入っている。




 チャイムが鳴り、3時限目の終わりを告げる。昼休みだ。




 早くしないと。




 私は走り出した。




 校内で、誰か殺される。止めないと。止めないと。




 生徒玄関はいつも上級生が開けておく。まずい。




 開きっぱなしの扉にも赤黒いところがある。私は下駄箱の前でリュックとお弁当を置き捨て、履き替えずに走った。




「キャー!!」




 甲高い悲鳴が聞こえる。まずい。




 目の前には1階の教室前廊下。生徒が壁際に寄って逃げてくる。




 目に入ったのは、倒れている男子生徒と、それに股がって座る黒いワンピースを着た女の人。両手を振り上げ、包丁を持っている。頭上は、3s。




「やめて!!!」




 私は叫んだが、女の耳には届かないようだ。




 2s。




 私は走り続ける。




 1s。




 殺させない。




 振り下ろそうとした女の両手首を掴み、強く握って包丁を取り上げる。




 包丁は遠くに滑らせ、近くで見ていた生徒が足で押さえた。




「先生呼んで!!!」




 別の生徒が頷き、走っていった。




 女は肩で息をしながら俯いていたかと思ったが、急に振り向き、わたしの肩を突き飛ばした。




 私がよろけて尻もちをつくと、女は立ち上がる。




「邪魔すんじゃないよ」




 あともうちょっとだったのに、と続ける。




 でも、男子生徒は助かった、と思って女の後ろに目をやると、彼は立ち上がらない。右手で肩を抑えながら、呻いている。




 そうだ。私が止めたのは殺すこと。1度刺すこと自体、殺しになる訳じゃないとしたら。とどめを刺す、その一瞬までをカウントダウンしていたとしたら。




 そう。男子生徒は刺されていた。女は笑う。




「ギャハハハハ!!!ねえ、あんたもそうなの?」




「何が」




「知らないふりすんじゃねえよ、馬鹿にしてんの?」




 女はポケットに手を入れたかと思うと、取り出したのは折りたたみ式のナイフ。用意周到すぎるでしょ。




「あんたもそうなんでしょ?このブスが」




 内容が全く入ってこないまま、距離を詰められる。数字は、、、見えない。焦りやショックからだろうか、いつの間にか、黒い煙も、周りの人の数字も見えない。これじゃあ、この人の願望が今どうなっているのか分からない。私を殺すことがカウントダウンされているかもしれない。分からない。




 焦って頭が上手く回らない。




 後ずさっても、女はふらふらしながらこちらにナイフを向ける。背中に何か当たる。壁だ。




 私は張り付くように壁に体を近づける。意味はない。




 女はにいっと笑い、ナイフを持つ手を振り上げた。




 ああ、これだめなやつだ。




 私は目をぎゅっとつぶる。




「死ね!!」




 刺されるまでの時間が、とても、とてもゆっくりに感じた。走馬灯ってやつ?けど、何も思い出すことはなく、ただ目をつぶって、自分の最期を覚悟していた。










 痛みも何も感じない。私は恐る恐る目を開けてみる。




 ナイフは、私に届くことはなかった。手を止めたのは、私服で、金髪の男の人。




 突然の登場に言葉が出てこない。




 金髪の男は、女の腕をひねり上げ、そして組み伏せた。女は喚き散らかすが、男はやめない。




 加えて、私に対して、「怪我ない?」と話しかけてきた。




「だ、大丈夫です」




「よかった」




 周りの生徒には、被害者の止血をするように指示を出した。




 すぐに先生と救急車、警察が来て、女は逮捕、男子生徒は搬送された。




 こんな状態で授業などできるはずがなく、午後からは休校、私は事情聴取を受けた。




 金髪の男は、いつの間にか、姿を消していた。

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