二人の誕生日会
月日が経つのは早く、私も十八歳になった。学業にバイト、歌やギターの練習、それに加えてシンガーソングライターとして個人の活動も始めた。路上ライブをしてみたり、千弦たちのバンドのライブに呼んでもらったりと、忙しない日々を送っている。姉や妹たちからは心配されることもあるけど、今の生活は辛くも苦しくもなくて楽しいくらいだった。
六月末のある日。
「おじゃましまーす」
そう言って、ぞろぞろと千弦の家に入っていく。皆が脱ぎ捨てていった靴を揃えていると「何やってんの?主役の私達はやることがあるでしょ」と、メイクにヘアセット、服装までも完璧な姿の千弦に腕を引っ張られる。二階への階段をのぼり、案内された部屋の中に入る。
「ここって、千弦の部屋?」
ピンク基調の可愛らしい部屋の中にギターが立てかけてあり、机の上にはメイク道具が揃っている。
「そう、私の部屋だけど。そんなことはいいから、二人で買った服は持ってきた?」
「うん、持ってきたよ」
「じゃあ、着替えよう!」と言われるがままに着替えを済ませ、千弦にメイクやヘアセットまでしてもらった。二人揃って一階のリビングに入ると、何かが破裂したような大きな音が響く。
「千弦と葉子、誕生日おめでとう!」
手にクラッカーを持った千弦のバンドメンバーや彼氏、そして先生。
今日が誕生日会であることは知っていた。最初は私の誕生日を祝おうという話だったのが「それなら、千弦も同じ月なんだから二人同時に祝おうぜ」と雄介の提案で二人の誕生日会になった。
ちょうど目線の先に立っていた先生と目が合う。いつもなら優しく微笑む先生が珍しく目を逸らして足早にキッチンの方へと行ってしまった。なぜだろうと考えている暇もなく千弦に背中を押され、リビングのソファに腰を掛ける。それぞれ好きなソフトドリンクの入ったグラスを片手に雄介の合図で「かんぱーい!」と声を出す。テーブルの上に広げられたピザやポテトフライ、ホールのショートケーキなどは一時間もせずに消えてなくなった。その後はくだらない話で盛り上がったり、千弦のバンドメンバーの一人が持ってきたカードゲームで遊んだりと楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「さ、そろそろ片付けるよ。千弦ちゃんの家族が帰ってくるまでの約束だろ」
先生の一声で全員がしぶしぶ片付け始める。テーブルの上に散らかったゴミを袋に集めていると、横から雄介が話しかけてきた。
「今日の葉子、なんかいつもと違って良い感じじゃん」
まさか褒められるとは思わず驚いた目で雄介を見る。千弦や雄介たちと会うときはだいたいバンドの練習の時やライブに参加した時くらいで、汗をかいても大丈夫なように濃いメイクはしない。ただ今日は千弦にメイクとヘアセットを完璧に仕上げてもらったので、いつもと雰囲気は違うのかもしれない。
「そんなに見つめたって、これ以上は何も出ないぞ」
「いや、別に求めてないよ」
「葉子も言うようになったよなー。出会ったときなんて、大人しくて――」
雄介に頭を撫でられそうになった瞬間、「おしゃべりはそこまで。はやく片付けて」と先生が雄介の腕を掴む。驚いた私とは反対に、雄介は「はいはい」と言って片付けに戻った。なんとか千弦の家族が帰ってくる前に片付けが終わり、それぞれがそれぞれの帰路につく。千弦の彼氏とバンドメンバーは同じ方向で一緒に帰る。私は先生と二人きり、同じ帰り道を歩き始めた。
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