夜行-雪崩

「皆、自分を知るのが怖いのよ」

ある日突然僕の彼女がそう言って笑ったのを今でも覚えている

その日は確かに穏やかで何にもなれそうな

そんな気がしていた秋の夕凪が見えるころだった


僕らは教室に入り、同じ勉学を学ぶ

いわば級友といえるだろうか

彼女を一言でまとめると異質だ

なぜか?

それは事あるごとに指示を仰ぎ行動を起こそうとする政治家のような生徒ならまだしも

呼吸一つとっても不気味でおどろおどろしい彼女は避けられていた

教師からも「すべての対応はお前に任せる」と言われる程に

言い忘れていたが僕はこのクラスの級長である

そして学校の方針を言い訳に全てを押し付けられたのだ

この二年と少しの間彼女は何も声を発さなかった

しかし、僕が話を一つ吹きかけてみたら

頬を染めながら恥ずかしそうに笑って答えた彼女に僕は…

いつの間にか落ちていた

三年の行事で唯一の楽しみだった遠足に彼女を誘ったら彼女は快く引き受けてくれた

そして当日僕らは目的地の遊園地で大いに遊んだ

時間が近づいてきたため、最後に観覧車に乗って帰ることにした

そこに乗ると一変急に彼女は

「君はどうして私を欲したかわかるか」

と言ってきた

僕は「正直分からない」と素直に答えたら

「それは君が私に言いたいことよ。」

即ち、彼女も僕を…

「自分が可愛くてしょうがないのよ

相手を知ることはいとわない代わりに

比べて、選別して、苦しんで

過去に浸ってしまうのが運の尽き」

一瞬答えにとどまったけどようやく彼女が一人だった理由と求めていることが分かった

「皆、自分を知るのが怖いのよ」

彼女がそう言って笑ったのを今でも覚えている

穏やかで歪んで何にもなれそうな

秋の夕凪を背にとびきり甘く切ないキスを

戻れない誓いと共に落として

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