第3話 303号室の強い思念
凱叶、神士、憂翔がそれぞれの役割に従って動き始めた一方で、ホテルの深い闇の中で怪物はゆっくりと動き出していた。その重く湿った足音は徐々にホテル全体に響き渡り、夜の静寂を不気味に破り始めた。
丑三つ時が過ぎ、怪物は再び活動を開始した。そして今回は、静まり返った男子の階層から女子たちが眠る階層へとゆっくりと向かっていた。
女子たちが眠る階層では、凱叶たちのように夜更かしをする生徒もいれば、すでに眠りについている者もいた。風華と冥も一日の観光疲れから、早々に眠りに入っていた。しかし、その眠りは長く続くものではなかった。
「……何か、音がする……?」
風華は目を開け、ぼんやりとした意識で天井を見上げた。部屋は暗く、隣で冥が静かに寝息を立てている。だがその時、廊下の方から微かな音が聞こえた。重い足音がゆっくりと近づいてくるような音だ。
「冥、起きて……」
風華は隣のベッドに手を伸ばし、冥を軽く揺さぶった。
「ん……?何?」
冥は眠そうに目をこすりながら起き上がる。
「なんか、外から音がするの……」
風華は不安そうに言った。冥は少し眉をひそめながら耳を澄ませた。
「……本当だ。何か聞こえる……」
二人は顔を見合わせ、同時にベッドから起き上がった。何か不吉なものが近づいているのを感じ取ったのだ。
一方、怪物は階段を登り、女子たちの階層に到達していた。その巨体が廊下を歩く度に、木製の床が軋むような音を立てる。まるでそれ自身がその場の空気を支配しているかのように空気は一気に重く、冷たく変わっていった。
「やっば!もう時間かよ!?」
凱叶たちもその異様な気配を感じ取り、神士と憂翔は互いに目を合わせた。
「女子たちの方に行ってる……!」
憂翔が焦った声で言った。彼らは自分たちの安全を確保しつつも、女子たちが危険にさらされているのを感じていた。
風華と冥は部屋のドアの前で立ち尽くしていた。廊下から聞こえる怪物の足音がますます近づいてくる。二人は一歩も動けず、ただその音に耳を傾けるしかなかった。
「どうするの……?」
風華は震える声で言った。冥も答えを見つけることができず、ただ唇を噛みしめた。その時、足音が急に止まった。
「……止まった?」
風華がそう呟いた瞬間、部屋のドアに何かが触れたような音が響いた。二人は同時に息を呑んだ。ドアの外、まさにそこに何かがいる。
「……開けないで……」
冥が小さな声で囁いた。しかし、ドアノブがゆっくりと動く音が聞こえた。
「冗談でしょ……!」
風華は恐怖に顔を歪め、ベッドの方へと後ずさりした。冥も一歩、二歩と後退するが、もう逃げ場がないことに気づく。
その瞬間、ドアがわずかに開いた。闇の中から不気味な手が差し込まれ、ドアを押し開けようとしていた。
「嫌だ……来るな……!」
冥は震えながら叫んだが、怪物はゆっくりとその巨大な姿をドアの隙間から現し始めた。
その頃、凱叶たちは女子たちが危機に瀕していることを察し、動き出そうとしていた。
「やばい、間に合うか……!」
凱叶は焦りながらも冷静さを保ち、神士と憂翔に指示を出した。
「俺たちで何とかしないと……風華たちが危ない!」
神士はその言葉に同意し、憂翔もすぐに動き出す準備を整えた。
「行こう。怪物を止めるんd…!」
凱叶は決意を固め、女子たちの階層に向かって駆け出した。だが、階段を急いで降りていたせいで神士が階段から足を踏み外してころがり落ちた。
「おい!大丈夫か!?」
「勝手に起きるだろ、それよりあの扉から行けるぞ!」
「ごめん神士、早く起きてくれよ…」
そう言い残して神士をそのまま置き去りにして扉の前に立つと思い切ってドアノブを握った。
「風華!冥!」
扉を押し開けると、同時に風華の悲鳴が耳に飛び込んできた。
「いやあああああ!」
その声は恐怖に満ち、凱叶の心を一瞬で凍りつかせた。すぐに憂翔は凱叶の後を追いかけ、二人は部屋の中へと突入した。
部屋の中は薄暗く、月明かりがかすかに差し込む。二人の目に飛び込んできたのは、床にうつぶせになった風華と恐ろしい姿をした怪物だった。
「来るな!」
憂翔は恐れを抱えながらも前に出ようとしたが、凱叶はすぐに彼を制止した。
「待て、憂翔。ここは俺がやる」
凱叶は自らの心に宿る勇気を奮い起こし、怪物に向き直った。
「おい、そこの化け物!」
凱叶は声を張り上げ、怪物の注意を引こうとした。恐怖で震える風華と冥の存在を忘れないようにしながら、彼は挑発的な態度を見せる。
「怪物だろうと女子に手をあげるのはどうかと思うぞ!」
凱叶は怪物の視線を受けながら、冷静さを保とうとした。怪物はその言葉に反応し、赤い目が凱叶に向けられた。
「お前、こっちに来い!」
凱叶は一歩前に出ると怪物の真っ正面に立ちふさがる。後ろの風華たちが助けを求める声をあげる中、凱叶は決して引き下がることはなかった。
怪物は一瞬、凱叶の挑発に戸惑った様子を見せたが次の瞬間、怒りの咆哮を上げながら凱叶に向かって突進してきた。その恐ろしい動きに憂翔は驚きの声を上げた。
「凱叶、危ない!」
彼は凱叶を守ろうとしたが、凱叶はそのまま前に進み、怪物との距離を保ちつつ動きを封じようとした。
「お前が本当に強いなら、俺を殺してみろよ!」
凱叶は怪物の伸びてくる腕を素早く避け、視線を瞬時に風華と冥に向けた。彼女たちを失うわけにはいかない。凱叶は彼女たちを掴み上げ、力強く窓を開けた。
「行くぞ、早く!」
風華と冥は驚きと恐怖で目を見開いていたが凱叶の指示に従い、彼の後を追った。凱叶は無事にベランダに飛び出し、すぐ隣の部屋に移った。
一方、部屋に残された憂翔は自身の心臓が激しく鼓動するのを感じていた。怪物の目線が自分に向けられ全身を覆う恐怖が彼を襲う。凱叶が無事に逃げたのに対し、今や彼は怪物の標的だった。
「まさか、俺が…?」
焦りが胸を締め付ける。憂翔は自分の位置を理解した瞬間、背後の怪物が迫ってくる気配を感じた。
「あ!!あれは…!?」
彼は思わず声を上げ、頭を振りながら怪物の目線を逸らした。その瞬間、意を決して走り出した。
怪物は憂翔の動きに反応すると激しく身を捻り、彼を捕まえようと手を伸ばす。凱叶が女子を助けるために逃げたのと同じように憂翔もまた、全力で逃げることを決意した。
「
彼は逃げながら、部屋の廊下を走り抜け、他の生徒たちの部屋へ向かっていた。心の中で「生き残るんだ」と自分に言い聞かせ、後ろから迫る怪物の気配を振り払おうとした。
「憂翔、こっちだ!」
凱叶の声を聞き、憂翔は振り返り、彼の方へ向かって走った。希望の光が彼を照らし、凱叶の存在が逃げ道となった。幸い、隣の部屋は誰もいなかったため凱叶は窓を破壊して廊下へと戻って来たのだ。
その頃、神士は目を覚ました。周囲は静まり返っており恐怖が彼の心を包んでいた。しかし、ふとした瞬間何かが彼の頭に閃いた。
「そうだ、管理室に行けば…!」
彼は急いで起き上がり、自分の状況を把握した。自分がどこにいるのかみんなは無事なのか、全てが疑問に思えたが今は行動が必要だ。管理室には、怪物の正体や303号室に関する情報があるかもしれない。
それから一階まで駆け下りてロビーのカギが掛けられた場所から彼は鍵を見つけた。管理室の鍵に違いない。心臓が高鳴る中、神士はそれを手に取りドアを開ける準備をした。
「これで、何か分かるかもしれない。」
隣の管理室の扉を開けるとなぜか管理人がおらず、モニターだけ各種の場所を映していた。それから山積みの資料を見つけると神士はかき分けながら何か情報は無いかと探し始めた。
数分後、神士は資料を見つめていた。その内容は、303号室の過去に関する恐ろしい事実だった。ホテルの歴史に記された悲劇的な事件、そこに住む怪物の正体全てが繋がっている。
「これは…一体どういうことだ?」
神士は心臓が早鐘のように高鳴り、冷たい汗が背中を流れるのを感じた。この情報を仲間たちに伝えなければならない。彼はすぐに動き出そうとしたその瞬間、ポケットからスマホの音が響き渡った。
凱叶たちは急いで階段を駆け下りていた。彼らの心には神士の声が響いている。「何が起こっているんだ?」 その問いが頭を巡る中、凱叶の胸は不安でいっぱいだった。
「早く神士のところへ行こう!」
憂翔が叫び、神士のいる一階の管理室を目指して足を速める。
しかし、その時、神士の電話が突然切れた。凱叶は立ち止まり、スマホの画面を見つめた。
「どういうことだ?」
神士の声は途絶え、深い静寂がその場を包み込む。次第に彼らの周囲には不気味な空気が漂い始めた。扉を開けてすぐに彼らは階段の下から響く音に耳を傾ける。足音が近づいてくる…それはまるで獲物を追う獣のような重厚な響きだった。
まさかだとは思ったが……怪物は一体だけでは無いのか?
だが凱叶は首を横に振って覚悟を決めた。
「神士、今行くぞ!」
凱叶の心に不安が広がる。彼らは急いで階段を駆け下りたが、彼らの行動が遅れてしまうことを恐れていた。
「急がなきゃ!」
「そうだね…」
他の生徒や先生を救うことは出来ないもう戻れないからだ。
そして凱叶たちが一階に到着すると、管理室の扉が開いていることに気づいた。部屋に入ると散らばった資料と神士のスマホが地面に落ちている光景が目に飛び込んできた。
「神士…」
凱叶はその場に立ち尽くし、衝撃で胸が締め付けられるような思いを感じた。神士の身に何が起こったのか、想像するだけで恐怖が広がる。
「ここにいたんだ…!」
その時、突然、エレベーターがこの階に到着する音が響いた。一早く冥がそれに気づいた。
「エレベーターが来た!」
凱叶たちは一瞬期待に胸を膨らませたが、その瞬間、恐怖が再び彼らを襲った。
エレベーターの扉が開くと、ただの客人が姿を現した。しかし、その背後から無数の細い腕が現れ、客人の首を引き千切るという衝撃的な光景が広がった。怪物がその影に隠れていて、客人は瞬時に恐怖の絶叫を上げることもできずに命を奪われてたのだ。
「逃げろ!」
憂翔が叫び、凱叶たちは恐怖のあまり、すぐに後ろへと後退する。混乱が広がる中、彼らは再び逃げるための行動を起こさなければならなかった。
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